いざ、錬金術師院に入学!
現在、錬金術師院は時期を問わず試験に合格さえすればいつでも入学が可能らしい。以前は一斉試験があったらしいのだが、希望者が年々少なくなりここ十数年はコストと手間の問題で行われていないそうだ。
しかし一応課程が始まるのは新年である春からと決まっていて、そこから一年の間はいつ入学してもそこにいる生徒と同期として扱われる。年の終わり頃に入学してしまうと課程の大半が既に終わっている状態になってしまうので大変だが、今は春の初めなので問題ない。既に終わっている内容をひとりだけ自由時間を削って学習、とかにはならなかったのでチェレスティーナは安心していた。
寮に入るか聞かれたチェレスティーナは「もちろん入ります!」と即答した。持っている荷物はやや大きめなので通いと思われる可能性は低かったが、ないわけでもない。うっかり寮に入れなかったら大問題なので、大きな声でしっかり主張しておいた。
ファビアが鍵を渡してくれる時笑いをこらえている気がしたが、気にしない。気にしたら負けである。何と戦っているかは知らないが。
寮は錬金術師院の近くにあった。というか隣だ。どう考えても迷いようがないだろう。ファビアは懇切丁寧に行き方を教えてくれたが、あれはなんだったのだろうか。そんなに方向音痴に見えたのだろうか。
……否定できないのが悲しいところである。
い、いや、方向音痴だったのは巡時代の話だし! この身体はなんか優秀そうだし、大丈夫大丈夫!
見事にフラグを立てるチェレスティーナであった。
「と、ここかぁ」
そしてせっかく立てたフラグを回収もせずに2階に上がると、『ロイマユ』と書いてあるプレートが下がっている部屋があった。チェレスティーナの部屋はここである。
錬金術師院も無償で個人部屋を用意してくれるほど財政的に余裕があるわけもなく、3人部屋か4人部屋を与えられることになっている。同室の人は基本同期生なので交流を深めておくとあとあと役に立つとファビアが教えてくれた。
役に立つって、なんかなぁ。
身も蓋もない言い方に違和感を覚えながらドアを開く。
中ではふたりの少女がベッドに座りながら紙束を読んでいた。
「あ、今日入ってきた子?」
「そ、そうです」
赤毛の活発そうな子が話しかけてくると、銀髪のおしとやかそうな子もそれに加わった。
「サロメ先生がさっき来るって言ってた子ですね。意外と早かったんですね、試験終わるの」
「は、早かったって?」
彼女たちはいつチェレスティーナがこちらに到着していつから試験を始めたのか知らないはずだ。不思議に思って聞いてみると、
「サロメ先生があんたのことを伝えに来るとき言ってたのよ。もうすぐ映玉の試験に移るって」
「え、でもまだその時って私が合格するかなんてわからなくないですか?」
伝えるのが早すぎないだろうか。ファビアの言っていた通り『錬金術師は魔力が命』なのなら映玉の試験を経ずに合格するかなど分からないだろう。
「あー……サロメ先生、せっかちですからね」
「多分試験が終わってあんたが不合格だったら改めて私たちに伝えに来ればいいとか思ってるわよ」
「て、適当……」
そんなのでいいのか。わからん。意外と雑だな、錬金術師院の先生。
「まあサロメ先生のことはいいわよ。それより自己紹介しましょ」
赤毛の子がチェレスティーナをベッドの方に引っ張っていく。
ちなみになぜベッドかといえば、この部屋には机も椅子もないからである。長持ちはあるにはあるが、外見からして強度が心配だ。無償なだけある。
「まず私からね。私はリーア、10歳よ。今ここにいる時点で分かってると思うけど、あんたとエリデと同期よ。座学は得意なんだけど如何せん魔力効率が悪くてね。実技は及第点ぎりぎりってとこかしら。実家は商会だけど、お兄ちゃんがいるから継ぐことはないわ。出来るだけ重宝される安全な職に就こうと思ってここに来たの」
魔術師にならなかったのはそういう理由らしい。
そういえば魔法学校の方の倍率はすごいってクラリッサさんが言ってたな。それだけ魔術師になる人が多いってことだろうし、安全で厚遇が約束されてるとは言い難いもんなぁ。
「私はエリデ、13歳です。私も同期ですよ。錬金術の方は、座学も実技もそこそこってところです。普通の平民なんですけど、弟が賢いので中央の学園に入れてあげたくて。不足気味の錬金術師になれば上手くお金が貯まるかなって思って入りました」
中央の学園っていうと下級学園かな。エルダさんが息子を入れたいって言ってたところか。なかなか大変そうだけど、頑張れエリデさん!
「えっと、私はチェレスティ……じゃなくてチェレス、11歳です。訳あって記憶があんまりなくて……親が誰かも分からないので、早く自立できそうなここに入りました。錬金術はやったことないけど、魔力は多いみたいです」
本名を言いそうになって慌てて言い直したが誤魔化せなかったらしい。特にリーアがずずずいと顔を近づけてくる。
「チェレスティ、何ですか? チェレスは愛称でしょう?」
「隠し事は駄目よ。だって私たち、同室なんだもの」
同室なだけでそこまで問い詰められるのかと慄いていると、リーアが怒ったように言った。
「せ、せっかく友達が増えるチャンスなんだから当たり前でしょう!? 将来につながる学院なんだし、それはつまり大人になっても友達が……って、な、なんでもないわよ!」
ほうほう。なるほどなるほど。そういうことね。
一見怒っていそうに見えるリーアの発言だが、巡時代にラノベをそれなりに読んでいたチェレスティーナにはきちんと本音が伝わったようだ。そしてこのリーアという少女がそう悪くない人間だということも。
うん、テンプレっていいね。
「じゃ、じゃあ話しますね、えっと……」
「それと、敬語もなしよ」
名前について話す前に制止が入ってしまった。え、エリデさんは敬語なのに、と目で訴えてみる。
「私はこれが普通ですから。名前は基本呼び捨てですし」
「そういうことよ。チェレス、あんたもそうってことはないんでしょ?」
「は、はいぃ……」
ここでそうですと言えたらもしかするとリーアの勢いを殺せたのかもしれないが、あまり気が強くないチェレスティーナには無理な相談である。いとも簡単に肯定してしまったし、肯定するときにまた敬語を使ってしまったためリーアに更に睨まれることになった。
「友達になるってことは遠慮はなし、敬語もなし、みんな対等ってことなのよ。それなのに年上のあんたに敬語で話されちゃ気まずいじゃない」
「は、はぁ……そうなんですね、じゃない、そうなんだね」
今度はリーアの視線に気づいて慌てて切り替えた。どうしても初対面の人には敬語で話してしまう癖があるので難しい。
エディッタちゃん? あれはほら、すごい親しみやすかったもん。
エディッタの無害そうな風貌とリーアの攻撃的に見える容姿を比べてみればチェレスティーナの言っていることがわかるだろう。分かってほしい。分からなければ困る。チェレスティーナが。
「で、あんたの名前は? どうして誤魔化したの?」
「わ、私の名前はチェレスティーナで……周りの人に貴族への侮辱になるから短くしなさいって言われて、愛称を名乗ってるの」
戸籍など貴族と農民のものを管理するのが精一杯の世界である。チェレスティーナが愛称を本名のように名乗ったからといって誰に咎められるものでもなかった。むしろ短くしなければ貴族に咎められる可能性もあるのだ。自己防衛である。
「チェレスティーナ? それは長いですね。貴族か何かではないのですか?」
「たぶん違うと思うんだけど……」
「チェレスの親ってどっかおかしいんじゃないの? 平民の子供にそんな名前を付けるなんて、その子の幸せを願ってるとは思えないわ」
リーアの言にチェレスティーナははっとした。今まで名前が長いことをそれほど重く考えてこなかったが、リーアの言う通り自分の親が平民でこんな名前を付けたということはつまりそういうことになるのだ。少なくともまともに子供を愛する親のすることではない。エルダの『親の顔が見てみたい』というのもそういうことだろう。
「両親とも顔も名前も覚えてないんだよね。やっぱりちょっとおかしい家庭環境だったのかな」
覚えていないとは言っても少し落ち込む。巡時代にはそれなりに愛されていただけに余計だ。あの頃は虐待とかいじめとか、そういうものには縁遠かった。それがいきなりここの自分はそうだったのかもしれないと言われれば、気分が下がるのも仕方がないだろう。
チェレスティーナが肩を落としたのを見て焦ったリーアは慌ててその頬を両手で包み、自分の方へ向けさせた。
「あ、あんたの親がどうだって私は別にいいわ。私とあんたはもう友達だし、ここを卒業してもそれは変わらないから、だから――」
どうやらリーアの中では自分はもう友達の枠に入れられてしまったらしい。出会って半刻も経っておらず、素性も分からず、性格もまだよく分かっていないであろう自分が。
友達、友達、友達。リーアの会話には『友達』が沢山出てくる。まるで無理やりにでもその存在が欲しいかのように。その枠組みを早く埋めたいと言うかのように。それを自己中と言って切って捨ててしまってもいいのかもしれない。でもチェレスティーナは、顔を髪に負けないくらい真っ赤に染めながら自分を慰めてくるリーアという少女を、なぜか好きになり始めていた。
私も意外と単純なのかもね。
「慰めてくれてありがとう。でも大丈夫。私、もう『チェレス』だから」
そう。エルダに忠告されて愛称を名乗ったのはただの保身だった。でも改めて自分の名前がつけられただろう環境に思いをはせてみると、むしろ本名は忌まわしき記憶の一片なのだ。そんなもの、捨ててしまえばいい。
「『チェレス』としてよろしくね、リーア、エリデ」
リーアたちは仕方なさそうな顔になり、差し出した手に片手を重ねてくれた。
「そ、そうだ、この前森で採ってきたハルツがまだ余ってるのよ。一緒に食べましょっ」
気まずい雰囲気を変えようとする心遣いが好ましい。チェレスティーナはリーアがポシェットから出した大きな葉を受け取り、紐を解いた。
「あ、この実……」
「チェレスも食べたことがあると思います。子供たちの間で人気の甘味です」
エルダがくれた橙の実はハルツというらしい。同じような乾燥した実が葉の上にちんまりと並んでいた。
リーアが口を付けたのでチェレスとエリデも後に続く。チェレスは小指の先ほどの小さい実を口に放り込んだ。
「~~~~~っ!!!」
と思ったら悶絶した。
酸っぱい。酸っぱすぎる。甘みの欠片もないその味に、チェレスティーナは口を押さえてベッドの上を転がった。
「あら、当たってしまったみたいですね」
「初っ端から当たるなんて、よっぽど運が悪いのね」
「ふたりとも酷過ぎるっ!」
舌の痺れが多少治まってから問い詰めたところ、ハルツの実には当たり外れがあり、完熟した実の1割は先ほどチェレスティーナが食べたような酸味の強いものになるらしい。見た目では区別がつかないため食べるまで分からないことから『ハルツ・チャレンジ』として子供たちに人気の遊びになっているのだとか。
「人気ってそういうこと!?」
「そういうことよ」「そういうことです」
エルダがくれたものの中に『当たり』が入っていなかったことにひたすら安堵するチェレスティーナであった。
まだ課程が始まって間もないので、錬金術師院の授業は座学が中心だった。一番初めに入ったリーアも初級ポーションの作成を2、3回行ったくらいで、実技はまだほとんど学んでいないらしい。
座学はどれも錬金術師になるために必要な知識を教えられた。思いつきで錬金術師を目指したはいいものの、科学的な知識を延々詰め込まれたらどうしようと戦々恐々としていたのだが、案外簡単で拍子抜けした。
錬金術師院は研究をしたり論文を書いたりというよりもポーションを調合することに重きを置いているようで、理論などはほとんど出てこない。それよりも素材の特徴や『神の力』が多く篭っている部位など、実用性を重視した内容が多かった。どうやら魔力で薬効を最大限に引き出したものがポーションと呼ばれるらしく、何においてもまず魔力が重要視されるようなのだ。
いやぁ、あんまり科学っぽくなくて安心したよね。魔法の世界、万歳!!
とにかく暗記が大事なので、寮に帰っても復習できるようノートを取る生徒が多かったのだが、生憎チェレスティーナはインクとペンはあっても肝心の板を持っておらず、それを買うための資金もない。
流石に全てを一度聞いただけで覚えられるほどの頭はしていないので困っていたところ、見かねたエリデが持っていた板を数枚貸してくれた。課程の中盤からそれなりのポーションを作れば直営店に買い取ってもらえるため、そこでお金を稼いで返せばいいということらしい。
エリデの手持ちにもいささか不安があったのか、効率的に板を使い回すコツも教えてもらった。まず板書を取ったら最低でも3日で暗記し、書いた部分をナイフで削り取るのだ。
ナイフも持っていなかったチェレスティーナはエリデに苦笑されながら貸してもらい、四苦八苦しながら削った。あまりに分厚く削りすぎるとエリデが「もったいない!」と叫ぶので、それを回避するために全力で薄く削った。寮の壁は薄いのである。空き部屋などあるはずもなく、「もったいない!」と響くたびに両側からドンドンと苦情が来るのには閉口した。他のことでは自重しても、節約に関しては自重しないエリデなのであった。
またリーアから「座学をやってるうちが狙い目よ」と言われ、しばしば3人で採集にも出かけた。実技を経験しているリーアによると、ポーション作成の授業で使う素材はなんと各自で用意しなければならないらしい。
といってもほとんどの生徒は冒険者ギルドに依頼したり、薬草を取り扱っている卸店で安く購入したりするのだが、エリデがそれを許さなかったのである。採集があまり好きではないチェレスティーナは最初は反対していたが、リーアから素材購入費の詳細を聞かされ一も二もなく賛成側に回った。
一文無しに近いチェレスティーナに小銀貨を何枚も払えというのは酷な話であった。そしてエリデが「もったいない!」と叫ぶのも、今回ばかりは許容できた。
「どうして他の人たちは採集に行かなくても素材を揃えられるくらいお金があるのかなぁ」
「どうしてってそりゃ、親から仕送りをもらってるからに決まってるでしょうが」
リーアが当然のような顔をして言う。
「でもみんな商人の子供ってわけじゃないし、職人の親なら子供に小銀貨を何枚も持たせられるほど稼ぎはないでしょ。変じゃない?」
「……あのねぇ、チェレス。ここにいる子ってみんな魔力を持ってるでしょう?」
「そうだね」
そこまで言われても分からず首をかしげるチェレスティーナに、エリデが仕方なく正解を教えた。
「魔力っていうのは遺伝するんですよ、親から子に。錬金術師になれるくらい魔力がある子供を産んだ親に魔力がないはずがないでしょう」
「あっ」
いつだったかエディッタちゃんに教えてもらったな。そっか、親が魔法が使えたら職なんて沢山あるよね。冒険者とかにならなければ危険もないし。
権力者に雇われるのを忌避しない者にとっては、魔法が使えるというのは途轍もないアドバンテージなのだ。高い給金がもらえ、直接魔法を行使することがない役職に就いても優遇され、雇い主に何か問題があった場合にはすぐに転職できる。商業ギルドには魔法が使える者の募集がひっきりなしに入ってくるのだから。
魔法学校を卒業した魔術師なら待遇は更に良くなる。まず成績が優秀ならば国お抱えの研究職に就ける。それほどでもなければ中央の貴族街の警備職として。または地方の上級貴族のお抱え魔術師として。魔法学校での成績が悪くても、よほど素行が悪かったり前科持ちだったりしなければ下級貴族に重宝されるくらいの魔術師にはなれる。
「今は魔術師が飽和してる時代ですから、錬金術師を目指す子供を応援する親もそれなりにいるんですよ」
「むしろ今の錬金術師院には、貧乏な家の子とか商会の除け者とか記憶喪失になって拠り所のない子とかの方が少ないわけよ」
「「うっ……」」
リーアのざっくばらんな言い草にダメージを受けるエリデとチェレスティーナ。
「正直、もっと手に職をつけたい人たちがたくさんいるのかと思ってた……」
錬金術師不足の昨今、急激に改善される待遇と年収を目にした子供たちがもっと集まってきてもおかしくない、とチェレスティーナは思っていた。
が、リーアたちに言わせれば
「魔力があるのに魔術師にならない変わり者の親を持つ子供なんてそんなにいないわよ」
「それなりに魔力がなければそもそも試験に受かりませんしね。そういう子供たちは工房で見習いになるんじゃないでしょうか」
チェレスティーナたちは、身分と魔力を照らし合わせてみればある意味では希少な存在なのであった。
採集にあたってチェレスティーナは他のふたりから魔法の手解きも受けた。どうやらこの世界では魔法の行使に必要なのはイメージではなく詠唱らしい。そこは他のラノベと違うんだ、と地球人知識を活かす場がまたひとつ失われたことにがっかりしたことは記憶に新しい。
まあ文系だから魔法使うのに必要そうな理科の知識はあんまりないんだけどさ。
錬金術では魔力を素材に流し込むだけなので、厳密に言えば魔法を行使しているとは言えない。普通魔力のある子供は手習いや親からの教育で基本的な魔法はマスターしているのでそれでも問題はないのだが、詠唱の記憶もすっかり失ってしまっているチェレスティーナは別だ。世の中、使えた方がいい魔法は沢山あるのである。
これだけ魔力があるのに詠唱を全く覚えてないってどういうことよ、と文句のひとつでも言ってやりたくなったが、いったい誰に言えばいいのかという問題が持ち上がったので諦めた。いま『巡が入り込む前のチェレスティーナ』に現れられても困る。だってまだ錬金術やってないし。
とにかく、必要に迫られたチェレスティーナは詠唱を学び、魔物を攻撃するのに都合のいい火魔法と氷魔法、水分補給に役立つ水魔法、採集だけでなくこれから生きていくうえで必要な治癒魔法を中級までマスターした。
特殊魔法はおいおい覚えていけばいいので、取り敢えず基本からである。
ちなみに、中級まで、というのは、そこまでしかチェレスティーナが行使できなかった、ということではない。むしろそこまでしか詠唱を教えてもらえなかったのである。というか中級まで教えてもらえるよう説得するのも大変だった。
入学試験で魔力の流れというものを自覚したチェレスティーナは、最初に教えてもらった火魔法の初級を行使するとき、念のため出力を3割くらいにして魔法を行使した。綱引きの綱くらいの太さである。
チェレスティーナはすっかり忘れていた。毛糸ほどの太さの魔力で映玉を木っ端微塵にしてしまったことを。
『念のため』がちっとも機能しないチェレスティーナなのであった。
結果として、草原は半径5m圏内が焼け野原になった。攻撃魔法については自分に被害を及ぼさないよう詠唱に組み込まれているためチェレスティーナは無事だったが、草原は全く無事ではなかった。いっそサトウキビを植えてやろうかと思うほどの焼け具合だった。この世界にサトウキビが存在するかは知らないが。
後でリーアに聞いたところ、火魔法の初級といえば顔ほどの炎を出現させ、相手に向かって投げつけるような魔法になるらしい。投げつけるところに関してはチェレスティーナがうっかり忘れていたので起こらなくても不思議はないが、その異常な炎にリーアは大興奮だった。
「すごいわよチェレス、あんた、魔力だけじゃなくて魔力効率も恐ろしくいいわ。神様に好かれてるのね」
『魔力効率がいい』というのは、この世界では『神様に好かれている』ということになる。魔法、魔力、魔力効率をつかさどる神様は人間のそれら全てにおいて関与しているが、魔力効率については神様の力が大いに発揮されるらしい。力というか、その個人に割くリソースというのだろうか。それが大きく魔力効率に他よりもたくさんの干渉を受けると、魔力効率は上がり『神様に好かれる』。
「えっと、徳を積んだからいいことあったね、みたいな?」
「徳ってなに?」
「いいことというか、まあいいことなんですけど……そんな軽いことじゃないんですけどねぇ」
ふ、ふたりの説明が難しいのが悪いんだもん。文系にそんな難しいこと言わないで!
他の文系学生に「一緒にするな!」と怒鳴られそうなことを考えるチェレスティーナなのであった。
魔力でどうにかなるみたいですね。はてさて、それがいつまで続くでしょうか……。