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ギルドに行ったり、『槍の選別』に行ったり、またギルドに行ったり……って行ってばっかじゃん!

 サロメとステッラの痴話喧嘩のようなあれやこれやがひと段落すると、はっと我に返ったらしいステッラがまだほんのりと赤い顔でギルドカードを配り、ギルドの説明に移ってくれた。


「錬金術ギルドの役割は3つあるわ。1、錬金術師の技能を保証する。2、協会との繋ぎ役。3、ポーションの依頼を受け付ける、よ」


 錬金術ギルドは錬金術師院からしか登録を受け付けていない。つまり『独学で錬金術を学んだ』とか『師匠から個人的に教えてもらった』とかの類は登録が出来ないのだ。そうすれば、自然とギルドに登録している錬金術師は少なくとも錬金術師院に入学できるくらいの魔力があり、登録に連れてきてもらえるくらいの技能がある、ということになる。


 巷には錬金術師院を卒業せず錬金術ギルドにも登録しない『闇錬金術師』と名乗る輩がいるらしいが、ギルド登録もない胡散臭い錬金術師に依頼する者などほぼいないし、登録していなければ錬金術店も出せないので、その数は今や絶滅危惧種と呼ばれるくらいに減っている。


 実を言えば錬金術店の少ないギルニェーユにはこの『闇錬金術師』がいるのだが、チェレスティーナたちはまだそのことは知るはずもなかった。


「ギルドと協会はその役割が異なっていて、それぞれに利益があるようにして共存しているの」


 ギルドは実務、協会は研究を主な役割としている。しかし協会はギルドのように分かりやすく大きい専用の建物を所有しているわけでもなし、内部を知る一部の者しか直接アクセス出来ないようになってしまっている。

 しかし協会には様々な知見が蓄えられており、しばしばそれを必要としながら入手方法が分からず断念する者が多いことから、近年ギルドには協会の役員が必ずひとり在中し協会に関わる業務に携わっているらしい。


「欲しい論文があったら役員を呼べば写しを探してくれるわ。中銀貨を払えば一時貸し出しも出来るからね」


 そうステッラが言うが、中銀貨を払ってまで見たい論文がそうあるとも思えない。

 皆そう思ったのか不可解な表情をしている生徒たちを見て、サロメがわっはっはと笑った。


「論文貸し出しは役に立つぞ。そこの依頼ボードには論文にしか載っていないような珍しいポーションの調合の依頼がよく貼られるんだ」


 それがギルドの3つ目の役割にも繋がる。

 錬金術ギルドの一角には大きな木の板が貼られた壁があり、そこに調合依頼が貼られ、錬金術師はその依頼を達成することで報酬を受け取れるのだ。

 もちろん普通の錬金術店に流通しているポーションは大量発注でもない限り依頼が来ることはないので、必然的にボードに貼られるのは錬金術師院で習っていないようなポーションばかりである。


 それでも比較的知名度の高いポーションは図書館に行けば資料があることもあるが、資料がないような珍しいポーションの依頼を受けたい時は論文の貸し出しが大いに役に立つらしい。


 一瞬『じゃあここの依頼をこなしていけば別にお店を開いたり雇われたりしなくても生活していけるんじゃない?』とチェレスティーナは思ったのだが、依頼の数自体がそれほど多くもなく複数で受注を争う事態も多いと言うので、やはりそれは難しいのだろう。


「そうだ、ランク制度もあるんですよね? あれ、依頼のためだったんですね」

「そうよ。ポーションの調合はもちろん素材の調達にも難易度があるから、ひとりひとりの錬金術師に合った依頼を見つけてもらうためにランク制度があるの」


 登録した時点でFランクとなり、依頼をこなしたり納品書を提示したりすればランクが上がっていく仕組みだ。


 ……ニンファさん、一体いくつなんだろう。


 もしかしたらもしかするかも、とチェレスティーナは心の中で思った。


「ギルドの説明はこんな感じかしらね。皆、これから嫌でもギルドに関わっていくことになると思うわ。よろしくね」


 ステッラが何気なく言った『嫌でも』に、またニンファを思い出してしまうチェレスティーナなのであった。



「はぁ? 私のランク?」


 ニンファに呼び出されて『槍の選別』を訪れていたチェレスティーナたちは、皆一様にニンファに錬金術ギルドでのランクを尋ねた。


「そんなもん聞いてどうするんだい」

「いやぁ、興味があったっていうか……」

「もしかしたらもしかするかも、って思っちゃったのよね……」

「ニンファさんですし……」


 口々にそう言うと、ニンファはため息をついて何やらカウンターの引き出しを漁り始めた。


「ええと、確かここら辺にあったはず……」


 ぽいぽいぽいっと様々なものが引き出しからつまみ出され、床に放られる。放られた道具たちが小山を作りそうになったころ、やっとニンファがギルドカードを引き出しから見つけ出した。


「これだよ。若いころはギルドに良く通ってランクを上げようと腐心してたもんだが、今じゃそんな気概も湧かないね。ああ、年を取っちまったよ」


 気概もやる気も湧かないはずだ。チェレスティーナたちは、差し出されたギルドカードを凝視してそう思った。


 何故なら、そのギルドカードは金色に光り輝いていたから。


「「「まさかのSランク!?」」」


 もしかすると、とは思っていた。それ以外は何となくしっくり来ない、という感じもしてくる。

 しかしこうも見事に当たってしまうと、それはそれで大いに驚くことになるのだった。


「に、ニンファさんが若い頃って、まだ魔法学校が少なくて錬金術界が栄えてた頃じゃないですか?」

「ああ、そうだけど?」

「「「それなのにSランク……」」」


 それはつまりニンファに作れないポーションなどないと言うことであり、最高の錬金術師である、ということである。


 ニンファさん、恐ろしい……。


 皆一様にそう思うチェレスティーナたちなのであった。


「はぁ、そんなくだらないことを聞いてくるんじゃないよ。お陰で用件を伝えるのが遅くなっちまったじゃないかい」


 Sランクというのは決して下らなくなどない、と反論したいところだが、ニンファにとってはもう興味のない肩書なのだろう。ギルドカードをまた引き出しに適当に放り込み、紙束を大事そうに持ってくる。その動作がいかにも対照的で思わず笑いそうになった。


「この前あんたたちがやってくれただろう? あれのせいで協会から催促が来たんだよ」

「あれのせい?」

「あれだよ、私に相談せずにギルニェーユに色付きポーションをばらまいたろう?」

「「「ああ……」」」


 ニンファにはお見通しだったようだ。完全に情報を掴んでいる。


「あれで色付きポーションの存在が錬金術界に広まったんだよ。私に扱わせておけば小出しにして目立たないようにしてやったものを」


 あくまでニンファに卸した30本ではなく他の店に卸した方が混乱を起こしたと言うらしい。確かにこれまで結構な数の色付きポーションを納品してきたはずだが、騒ぎの兆候は全く見られない。ニンファが上手く捌いているのだろう。


「全く、子供の浅知恵でこういうことをするから……」

「でも近い将来私たちが店を開いて売るわけですし、そう長い間隠しておけるとも思いません。逆に捉えればいい機会だったのでは?」


 エリデがそう返すと、ニンファは鼻を鳴らして「そうかねえ」と紙束を机上に広げてみせた。


「これは……」

「協会からの督促状みたいなもんさ。新しいポーションを出すならまず論文を提出しろ、だと」


 なるほど、確かに協会に論文が提出されそれが認定されれば安全性の保障にもなるし、何より『協会を出し抜いた』などと余計な疑惑を持たれなくて済む。錬金術協会は他の協会に比べれば利権に頓着しない気質らしいが、それも他と比べればの話である。


「あれ? でもこれまでにも色付きポーションはありましたよね? ファビア先生がずっと前に持ってきてた巻物にも記述があったくらいですし」

「ああ、あったさ。私も見たことがあるよ」

「それじゃあ何で『新しいポーション』って……」


 チェレスティーナがそう尋ねると、ニンファはため息をついて奥の棚からファビアが持ってきたのと似ている巻物を取り出した。


「ここを見てみなよ」


 ニンファが指さしたのは巻物に載っている実験結果だ。魔力を通常よりも多く注ぎ、黄色のポーションの作成に成功したと書いてある。


「この論文を書いた奴は研究馬鹿でね。自分にはそれを実現できる魔力がないのに、長年に渡って研究を続け黄色の後の色の変化も突き止めたんだ」


 もちろん魔力が足りないので理論上ではあるが、黄色の後に緑、青の色をしたポーションが存在すると発見したらしい。


「でもその後に緑や青のポーションが作れる奴は現れなかった。チェレス、あんたが現れるまではね」


 つまり緑や青のポーションはチェレスティーナが調合してしまうまで現実には存在しない幻のポーションだったのである。それが現れたのだから、きちんと論文として協会に詳細を提出し、その安全性や効果を認めてもらわなくてはならないらしい。


「で、チェレスのポーションの論文が必要なわけね」

「なるほど……思ったよりも早く『その機会』が巡ってきましたね」

「無理無理無理無理。何考えてるのふたりとも!」


 完全にチェレスティーナに書かせる気満々のふたりに慌てて制止を入れるチェレスティーナ。


「どう考えてもここはニンファさんに頼る流れでしょ!」

「……私としてはあんたに書いてもらいたいんだがねぇ。チェレスのポーションの解析は骨が折れるよ」

「ニンファさんで骨が折れるなら私なんて全身骨折だらけですから!」


 またあのような地獄を見るのは御免である。せっかく顔色がかなり回復してきたのにまた青白くなってニンファに引かれてしまう。あれはかなり傷ついた。何せニンファの与えた課題によってあの状態になったのに、それを課した張本人に引かれるのだから。


「論文はいずれ……そのうち書けるように頑張ります。でも今は無理です。それ、かなり急ぎなんですよね?」

「まあそうだね。あんたが書けるようになるまで悠長に待ってる暇はない」

「それなら今回だけ、今回だけでいいのでニンファさん、書いてください!」


 腰を90度に折って頼み込み、やっと了承してもらえた。


「今回だけだからね」

「は、はいっ」


 そんなわけで、ニンファはしばらく店を休業して色付きポーションの解析に専念することになった。ニンファの所有しているものだけでは足りない薬品や魔術具もあるというので、まずそれらを買い集めるところから行わなければならないらしい。


「組成表だけじゃ論文としちゃ甘いにも程があるからね。それなりに詰めなけりゃ」


 後日チェレスティーナから追加のポーションを受け取った時にそうこぼしていた。

 

  ニンファが直々に買い集めて回ると言うのだからそれなりに高価なものばかりだろうと思い、恐る恐る一部代金の負担を申し出てみたこともある。「そんな端金はいらないよ」と一蹴されたが。


 これはニンファが数えるのも面倒になってくるほどの財産をこれまでの人生で築いてきているというのもあるのだが、そもそも論文が認められた場合には協会から援助が来るらしく、それで充分賄えるのだそうだ。


「それに色付きポーションと言えば国宝級だしね。確実に貸出禁止の資料になると思うよ」

「貸出禁止って、ギルドで借りられないってことですか?」

「ああ。錬金術界でも特に有用で提出から時が経っていない論文は貸出禁止になるんだ。それを見たけりゃ、協会まで訪ねていって閲覧料を払うしかないね。あくまで貸出禁止なのは変わらないよ」


 そうして取った閲覧料の中から論文の著者に何割かを定期的に納めてくれるらしい。その額は論文の有用性によって変動するようだが、ニンファによれば色付きポーションについての論文はかなり取れるだろう、ということだ。


「その分の金は論文の執筆代ってことでこっちがもらうがいいかい?」

「はい、もちろんです」

 

 その辺りはリーアとエリデときちんと話し合った。今回はニンファが執筆する傍らで論文についてのあれこれを学び、次回からは出来るだけ自分たちで書いて提出しよう、ということになったのである。莫大な金を得られるかもしれない機会を逃がすようなエリデではないのだ。もったいない魔神なので。


 ちなみにそのエリデはまだチェレスティーナに論文を書かせることを諦めていなかったのだが、チェレスティーナの強硬な抗議とリーアがいなしたことで渋々引き下がり、チェレスティーナは理系地獄から脱することに成功した。


 私は魔力担当だもんね!


 今リーアが特に真剣に執筆について学んでいるので、その調子で論文を書いていってほしい。間違っても自分にその役割が回ってこないように。


 ニンファは『今回だけ』と言っていたにしてはその方針に少しばかり不満そうだったが、3人で決めたのだと言えばあっさり引き下がってくれた。

 そのことにチェレスティーナは心底ほっとした。万が一ニンファに詰め寄られたり脅されたりすれば、絶対に譲らないとは言えないからである。ニンファのそれらはそれはもうとてつもなく怖いという噂だったので、それだけは回避したかったのだ。上手くいって何よりである。


 しかし、なぜ嫌々執筆を引き受けたはずのニンファが不満そうだったのかはわからずじまいであった。



 そんなこんなで論文の執筆の手伝いに精を出している中、錬金術師院では着々と独り立ちの準備が進んでいた。


 この前錬金術ギルドに登録したかと思えば今度は商業ギルドへの登録である。


「錬金術師として食べていこうと思えばこのふたつには必ず登録しなければならないぞ。何故なら錬金術ギルドは錬金術師としての、商業ギルドは金を稼ぐ者としての機関だからだ」


 何故か今回も引率はファビアではなくサロメだ。このクラスの担当は主にこのふたりなのでおかしくはないのだが、前回の暴走ぶりを見ればファビアが良かったと思ってしまうのも仕方がないだろう。

 その証拠に、前回の道中でサロメを必死に抑えていた男子は後ろの方でゆっくりと歩いていた。もうあんな役目は懲り懲りだ、というところだろうか。


 今日は緑の三つ編みの女子が不運にもサロメの近くを歩いていて、せっかちに歩を進めようとするサロメを苦労しながら皆のペースに合わせていた。


 ……ご愁傷さまです。


「商業ギルドにはほとんど全ての領民が登録しています。冒険者でも錬金術師でも工房の見習いでも農民でも、お金を稼いでいる人は全て、です。ギルドに登録し給与を得る度に申告しなければ、義務を果たしていないとして罰せられますから気をつけて」


 茶髪の紳士そうな男性が丁寧な口調でそう説明してくれる。


「質問です。僕、もう直営店にポーションを納めているんですけど、これは申告しなければならないのですか?」


 その質問にほとんどの生徒がはっとした。同年代の子供たちと比べてそこそこの魔力を持つ生徒たちは、もう既に売り物として通用するポーションを調合し、どこかしらに納品している。しかしそれまで商業ギルドに登録していなかったのだから申告しているはずもない。

 錬金術ギルドは便宜上錬金術師院を卒業してからの活動を報告せよ、となっているので心配はいらなかったのだが、商業ギルドは違うのだろうか。


 不安そうに見上げる生徒たちを見て、説明していた男性は微笑んだ。


「いいえ。ほとんどの領民は、今あなた達がこうして来たように工房や学園、パーティなどの単位でまとまって登録しに来ます。これはこちらの手間を減らすための措置です。ですから登録以前の申告すべき事項に関しては不問に付すというような形を取っています。こちらの事情で登録に条件をつけているのに、その条件によって領民たちの経済活動を妨げてはいけませんから」


 つまりチェレスティーナたちは罰を受けることはないということである。生徒たちは皆一様に安堵した。


「それでは具体的な申告の仕方を教えますね」


 男性が受付から板を取ってきて、そこに書かれている項目をひとつずつ説明していく。


「……ということです。そして申告した額の1割をこちらに納めていただきます。これは領主に納める税金です。この割合は職業によって変わることがあります。錬金術師の場合は優遇措置が取られていますので、1割の半分の額で大丈夫です」


 税金は商業ギルド経由で取り立てられるらしい。なるほど、領民のほぼ全てを登録させなければいけないわけだ。


「この申告以外にも商業ギルドは様々な役割を担っています」


 そのひとつが雇用である。専門職であればそれらの専門のギルドで募集をかけたり雇用契約を結んだりも出来るが、基本的に商業ギルドに契約の申告が義務付けられている。

 そして専門職でない従業員やメイドなどを雇う場合、商業ギルドに募集要項を提出してギルドに掲示してもらうことになる。募集要項を見てそれに応募したい者がいれば、特別な条件がない限りギルドに申し出て、その後に雇用者との面談などが行われる。そして双方の合意を確認したあと商業ギルドの立ち会いの元雇用契約を結ぶ、というわけである。


 この契約はあくまで書面上のものであり、雇用者の強い希望がない限り魔法契約などは行われないらしい。


「皆さんも従業員やメイドなどが雇いたい場合は商業ギルドに要項を提出してくださいね」


 その後に細々とした注意などを聞きギルドカードを受け取り、今回は表立ったトラブルもなく登録は終了した。


「はぁ、疲れた……」


 唯一、サロメというトラブルが傍らにあった緑の三つ編みの女子以外は。

いよいよ20話に来ました! いやー大変だった。とりあえず100話くらいを目指して頑張ります!

応援よろしくお願いします!


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