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86話


 中華全土の地図を眺める。

 北方では袁紹が、南方では袁術が基盤を広げ、それに挟まれるように、呂布、曹操、劉表、そしてこの漢王朝が並ぶ。

 西方で動かない劉焉は、現段階では無視していい。


 劉表は完全に袁紹と同盟関係であり、曹操も袁紹に靡き、呂布は袁術。

 こう考えると、既にこの天下は袁兄弟のもの。


 劉表も劉焉も、皇族だというのに何とも頼りない。


 いや、よく見てみよう。もうひとつ、力を持つ勢力が浮かび上がってくる。


「……なぁ、孫策そんさくとは結べないのか?」


 現在、揚州で猛威を振るう若き猛将。

 孫堅の血を引く、小さな覇王。


 袁術が揚州で勢力を急速に広げているのは、この孫策の力によるところが大きい。

 逆に考えれば、孫策が袁術から離れれば、袁術の勢力は一気に縮小してしまう。


 孫堅の頃からそうであったが、袁術と孫家の関係はあまりよくはない。

 それに、史実でも孫策は袁術から離反している。


 孫堅も孫策も、野心こそ強けれどその質は馬騰に似ており、朝廷に反目する気配はない。


「一考の余地はあります。密かに交誼を結んでおくべきでしょう。しかし、完全に取り込むことは、今はまだ避けた方が良いかと」


 そう言うのは賈詡である。


「何でだ?」


「袁紹が名士層を全て飲み込む事になります。袁術と袁紹は対立していてもらわなければなりません。孫策の離反は、袁術にとって致命傷になり、その漁夫の利を得るのは袁紹ですので」


「しかし、袁術はどうして孫策を野放しにしてるんだろ」


「恐らく、劉表と対立させる為でしょう。北方は呂布を取り込んで、当たらせるつもりかと」


「あくまで自分からは動かないつもりか」


 袁紹も似たようなもので、とにかく自分から動こうとはせず、最小限の被害で利を得るように動いている。

 既に天下を取ったその後のことまで考えて動いてるんだろう。


「とにかく、孫策にも一応繋がりを持っておこう。孫策は賈詡に、曹操との交渉は荀攸が担当してくれ」


 二人は同じように頷く。



「殿下」


「ん、荀攸か。どうした?」


「殿下は、何をお考えですか? このまま同盟関係を保ち、動かない、とは考えないと思いまして。せめて今後、どう動くかを、お聞かせください。そうすれば如何に無理な話でも、心構えは出来ます」


「陛下が目指されるのは、漢室の再興。それを実現するには、力が必要だ。そして俺は『漢』を超える、そういう国を作りたい」


「漢を、超える?」


「かつての秦をも超える。俺の天下は、中華だけには収まらない。もっと広く、匈奴も鮮卑族も、全てをこの赤き旗で塗りつぶし、歴史史上類を見ない、圧倒的な国家を築きたい。それが天下の統一だと、俺は思う」


 荀攸も、賈詡も、唾を呑む。

 彼は決して「英雄」などではない。


 戦を求め続ける「赤龍」なのだ。

 あまねく大地を飲み干さんと欲する、戦禍の暴風。その激しさが、少年の体に宿っている。


 確かに、これが龍に選ばれた証を持つ「劉」の血統。


「多くの、血が流れますぞ」


「それが今まで繰り返されてきた歴史だ。しかし、その血で平和が続くのも事実。平和にも、血が必要だ」


「怖くはないのですか。数多の血と、怨嗟を被り、どうしてそこまで」


「とにかく高い景色を見てみたい。誰も見たことのない景色を。俺だけじゃなく、俺に付き従うお前らにも見てほしい。そういう夢に、憧れてしまったんだ」


 そして、手元に置いてある駒を一つ手に取り、涼州に置く。



「騎馬隊が必要だ。強力な騎兵を何よりも最優先で生み出す、その為にも涼州は欠かせない。俺の描く戦略は、まず、この騎馬隊の確保から始まる」


 俺の頭にあるのは、歴史上最大の国土を有したモンゴル帝国(元)の軍隊であった。

 圧倒的な速さと強さで、一気に戦場を支配する。それは、騎馬兵の力があればこそ。


 騎兵があったからこそ、素早い連絡が可能になり、広大な国土を管理できた。

 騎兵があったからこそ、野戦では無類の強さを誇った。


 全ては、精強な騎馬兵が、天下を握る最強の手段。



「曹操、孫策で袁兄弟を牽制し、俺らは涼州の地盤をしっかりと固め、匈奴を何度か打倒し、こちらと交渉させる。駿馬を集めるんだ。そうやって戦力を整えた後に、中原を圧倒する」


 涼州はその地盤より、良質な馬が育ちやすい。

 ここに商人や牧場主を呼び、産業を育ててもいいかもしれない。



「そこまで悠長に構えるのを、群雄が許すでしょうか。それに、異民族は想像を絶する精強さを誇ります。果たして、勝てますでしょうか?」


「外交は俺の仕事じゃない。そこは賈詡、お前がどうにかしてくれ。戦で勝つための戦略を描くのは、荀攸の仕事だ。俺はその分、この命を張ろう。いくらでもお前らの道具になるぞ」


 無茶な、夢物語である。

 ただ、それでもこの少年を、漢の旗に掲げる事を決めたのだ。


 二人は、大きな溜息を吐き、その英邁な頭脳を両手で抱えた。



「まずは、曹操との同盟だ。秘密裏に、進めるぞ」




面白かったらブクマ、評価、どうぞよろしくお願いします。


それでは、また次回!

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