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79話


 集まったのは、総勢で三十人余りの首長達である。

 涼州の豪族や、異民族の長達が一堂に会す。


 董卓以来の伝手を持つ張済が、各地に触れを出して招集した面々である。

 誰もが血の気が多そうな顔つきをしている。うーん、怖い。


 俺の傍らには、楊奉が立っていた。

 つい先日、罪が許されて将に復帰したばかりである。

 涼州の荒くれ者達に気後れするまいと、腰に下げた剣の柄に、手を置いていた。


「今日は皆、よく集まってくれた。此度は、馬騰が朝廷に帰順したことにより、各々方と懇意にしたいと思って宴を催す事とした。涼州は、貴殿らの協力の上に成り立つ。よろしく頼むぞ」


 蔡邕に考えてもらった挨拶文を、何とか淀みなく披露。

 いや、声に感情が籠ってないとか、記憶しただけだろとか、そういうのは止めて。


 対して荒くれ者達は、特に反応もせず、ニヤニヤとこちらを見てくる奴らまでいる。

 ははーん、これは舐められてるな? 調子に乗ったガキだと思い込んでるんだろ?


 あ、調子乗ったガキだわ。

 合ってる。正解。



「殿下に予め申し上げたいが、我らには我らのやり方がある。急に上の者が来て、税だ徴兵だと言われても、それは承服しかねまする。干渉せねば、こちらから歯向かうつもりも御座らん」


 首長らの中でも、一際、体に傷跡が目立つ男が、声高らかにそう宣言する。

 それに合わせ、周囲もそうだそうだとはやし立てた。


「うーん、それは困るな」


「どういう意味ですかな?」


「こちらとしても無理な事を言うつもりはないが、税は納めてもらうし、戦になれば徴兵もする。それを断るという道理は通らないよ」


「その結果が、今の朝廷の有様ではないのか? 賊は蔓延り、群雄が乱立し、権威は失墜した。そのような朝廷が、我らの風上に立とうなどとは、思い上がりも甚だしい」


「随分率直にものを言うんだな。俺が誰だか、分かってるのか?」


「事実を述べたまでです。英雄と誉れ高き、皇太子殿下様」


 明らかな皮肉であった。

 これが、涼州の男達である。


 代々に渡り、長く中央に背き続けてきた、辺境の武人ら。

 ここまでくると、いっそ清々しいまである。


「俺は話し合いが苦手でな」


 右手を上げると幕舎の裏より衛兵が殺到し、首長達をぐるりと取り囲む。

 武器を取り上げられている男たちは皆一様にその場から立ち上がり、俺に向けて抗議の声を挙げた。


「これはどういうつもりだ!」


「この中に罪人が居ると聞いたのでな。俺はそいつらを処刑せねばならん」


「ふん、俺を殺すつもりか。不敬罪とでも言うつもりか? ハッ、見下げた根性だな!」


「早まるなよ、お前じゃない。確かに立場は弁えた方が良いが、田舎者に礼儀が分かるなどと思ってない」


「なんだと?」


「捕らえよ」


 俺が命令を出すと、威勢の良い武人とは別に、他の六名ばかりの首長達が兵に取り押さえられ、俺の前に引き出される。



「殿下っ、これはどういう事に御座います!?」


「この宴席にかこつけて、俺の軍を叩こうと、密かに兵を募り待機させている。違うか?」


「何を根拠に、殿下は嘘も見抜けないのか!?」


「総勢で五千。軍営の後方に潜んでいるのは何だ? いつ攻め込むつもりだった? この宴会が終わってからか? 帰還の支度をしているときか? ん?」


「く、くそっ」


「お前らもだ! この企みを知りながら静観している者達ばかりだ! むしろ、面白がっている奴すらいるだろう!」


 誰も答えない。苦い表情を浮かべている。

 それだけ分かれば十分だった。


 すると今度は捕えられている男の一人が、あざ笑いながら、俺を睨みつける。


「俺らを殺すのか? だからと言って、この涼州は決してお前には靡かんぞ、坊主。むしろ、抑えつければ抑えつける程、我らはお前に牙をむき続ける」


「なるほど、分かった。ならば一つ、逃げ道を与えよう。その五千の軍が、我が軍を打ち破る事能えば、お前らを許そう。言い分も聞いてやる。しかし負ければ、死んでもらう。まさかここまで譲歩されて拒絶するほど、お前らも子供ではあるまい」


 ガキの俺が言うのだ、これ以上にない皮肉である。

 捕らえられた者達だけではない、周囲の首長達も皆、顔を赤く染めている。


「兵数は倍以上あるんだろ? こっちは新参兵だ。さぁ、どうする?」


「後で、吠え面かくなよ」


「よし、伝令兵を呼べ。敵軍に開戦を伝えよ、迎え撃つぞ」


 首長達は皆、幕舎の外へと出された。

 散らかった食事が、なんだか勿体ない。



「殿下、まさかご自身で指揮されるのではないでしょうな?」


「え、あ、駄目?」


「駄目に決まってるでしょう!」


 何か、楊奉くんさぁ、この前しごかれてからというもの、俺に対して当たりが強くない?

 いや、まぁ、ちょっとでも俺が怪我して帰ったら、今度はどうなるか分かったもんじゃないもんな。


「徐晃!」


「ここに」


「天下の官軍としての、お前の初陣だ。殿下の前で恥をかくようなことはするな」


「お任せください」


「兵はどれぐらい必要だ。敵は、正規兵ではないとはいえ、涼州で暴れてきた精鋭ばかりだ。その数は五千」


「打ち破るだけなら、千もあれば十分です」


 え、まじで?

 しかし、徐晃の目には、怯えも、驕りも一切ない。


 てか、寡黙すぎるんだよなぁ。何考えてんだろ。

 五倍もある相手を打ち破ることを、さも当然かの様に考えてやがるな。


「負けは許されないぞ」


「敵がどこから攻めてくるかが分かっているなら、負けはあり得ません」


 そう言うと静かに、背丈ほどもあろうかという大斧を片手で持ち、徐晃は幕舎を後にした。



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