表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/94

7話

日間ランキングが、2位になっていました!

嬉しさと驚きで一杯です!


これからもよろしくお願いします!


「殿下、何やら近頃はご機嫌なようですね」


「いやぁ、楽しみって大事だよね。って話」


「沐浴で鼻下を伸ばしてる話ですか?」


「そうそう! いやぁ、侍女達も脱いでくれればいいのに、恥ずかしがって……ん? なんでその話を知ってるのだ、曹操そうそう


「後宮だけでなく、色んなとこで噂されてますよ。殿下、色を好むのは結構ですが、もう少し秩序というものをですな。彼女達とて同じ人間なのですから、嫌われるようなことは控えて下され」


「え、嫌われてんの? 俺?」


「今日も稽古、張り切っていきましょう」


 マジで? 侍女達の愚痴がもしかして、俺の知らないとこで広がってんの?

 我、皇帝陛下の弟の、陳留王ちんりゅうおうである劉協りゅうきょうぞ?


 心が引き裂かれる。これは間違いなくトラウマだ。

 とにかく首のヤツも人に見せられないから、包帯巻き付けたままにしてたら、それだけで怪訝な目を向けられるし。


 女の子ってどうしてこんなに残酷なんだろ。

 これからは、少し考えないといけないらしい。


 どうしてもソープのイメージが先行してしまうあたりが駄目なんだろうか。


「……あ」


「如何されましたか? 殿下」


曹操そうそう、そういえばお前も、そっちの話では良い噂は聞かないぞ?」


「ッ……な、何の話ですかな?」


「この熟女好きめ。他人の奥さんばかりに色目使ってるんだろ?」


 曹操そうそうは、史実に残るほど、他人の女が好きなタイプだったはずだ。

 特に滅ぼした敵勢力の側室や妾ばかりを妻にとっていたとか。


 しかも、その性癖のせいで自分の息子と、猛将を一人失う様な失態も犯していたはずだ。

 確か「宛城えんじょうの戦い」だったかな?


「殿下、今日はどうやら、私とて手加減は出来ませんなぁ?」


「かかってこいよ。散々今まで苛めてくれやがって。今日こそはこの恨み、晴らしちゃるぞ」





 俺はボッコボコのボロッボロになった体を台に伏せ、汚鼠おそに傷薬を塗ってもらっていた。

 あのチビオヤジ、手加減を知らねぇのかよ。


 一応、汚鼠おそには入れ墨を見せることは出来ていた。

 というのも稽古の度にボロボロになるから、こうして薬を塗って貰わなくちゃならん。


 別にそこまで驚かれなかったし、他言無用という事で。


「今日は手酷くやられましたね」


「いつか絶対、ギャフンと言わせてやる」


 そうだ。

 あの天下の英雄たる曹操を、実力でもってひっぱたくことが出来れば。


 今の俺の、武術に対する情熱は、全てそこに集中していた。


「しかし、今日は静かだな。十常侍じゅうじょうじのヘタレ共を見かけてない気がする」


 いつもの後宮は、宦官や侍女が忙しなくせこせこと動き回り、皇帝やその側室、宮女の世話をしているのだ。

 皇族なのにここまで放置されてるのは、たぶん、俺くらいなもん。


 そりゃ、毎日剣を振り回して、侍女と沐浴三昧なヤツの世話なんか、したくないわな。

 あれ? おかしいな。涙がとまんないや。


 婆さんがここにいたら、まだ贅沢出来たんだろうなぁ。

 なんて。


「何やら後宮の外でも、兵士らが不穏な動きをしているみたいですからな。皆、不穏を感じ取っているのでしょう」


「ふーん。そういえばこの前、張譲ちょうじょうが皇太后に言ってたな。何進かしんが各地の将兵をここに集めてるって」


「はい。既に、西涼せいりょう地方の董卓とうたく将軍は逸早く駆けつけておいでです。ただ、騎馬隊で先行していた為に歩兵が追い付いておらず、郊外で待機中とのことですが」


「よく知ってるね」


「鼠の鼻はよく効きますので」


 特に自慢する様子もなく淡々と。何を考えているのか、全く分からない顔をしてやがる。

 ただ、後宮内における味方らしい味方は、いまんとこコイツだけだった。


 名前くらい教えてくれてもいいと思うんだけどねぇ。


「ん? あれ? 汚鼠おそ?」


 傷薬の替えでも取に行ったのか、いつの間にか汚鼠おそは姿を消していた。

 影の薄さまで鼠なのかよ。不気味ったらありゃしない。


 とりあえず体も痛すぎて動かないし、このまま横になっていよう。

 幸いなことに静かで、日も雲に陰って涼しいしね。


 そんな事を思いながら、うとうとしていた俺の穏やかな時間は、けたたましい足音でぶち壊される。


 扉は押し倒され、ぞろぞろと槍を手にした宦官が部屋へとなだれ込み、俺の周りを包囲した。


 突きつけられる矛先。

 少しでも動いたら刺さりそうだが、生憎、体が痛くて動けんねん。


「俺が誰だか、知っての事か」


「はい。殿下に、この張譲ちょうじょう拝謁はいえついたします」


「玉無しヘタレジジィか。良いからこれをどけろ。謝れば、兄上には黙っておいてやる」


「こんのガキが……おい! こいつを縛り上げろ!」


「痛い痛い! 痛いって言ってんのぉ!! 体動かないのぉ!!」


 あっという間に俺は半裸のまま縄で縛りあげられ、猿ぐつわまで噛まされる。

 縄がキツイってより、曹操そうそうにボコボコにされた筋肉がもう、張って張って死ぬほど痛い。

 痛すぎて普通に涙が止まらん。


「ふん、今更泣いても遅いんだよ。生意気な面で、いつもいつも私を見下しよって。クソガキの分際で、目障りだったんだよぉ!」


 俺は何度か腹を蹴られて、そのまま担ぎ上げられる。


 マジで殺す。

 このジジィ、ほんとに殺す。


「なるほど、確かに龍の文様があるな。だが、それが何だと言うのだ。お前の命はこの張譲ちょうじょう様の手の内にある。ふん、皇帝など何するものよ。おい、連れて来い」


 外は、武装した宦官がずらりと並んでおり、異様な殺気に包まれていた。

 俺が運ばれた先には、数台の馬車と、十常侍じゅうじょうじの面々がずらり。


「早く乗れ、ここを去るぞ。外ではあのお方が待っておられる。そこまで駆ければ我らの勝ちよ」


 張譲ちょうじょうがそう叫ぶと、十常侍じゅうじょうじらはそれぞれの馬車に乗り込んだ。

 俺は張譲ちょうじょうの馬車の荷台に放り込まれ、上から蓋が閉じられる。


 放り込まれた荷台の中。

 俺と同じように、体を縛られて猿ぐつわを噛まされた、皇帝「劉弁りゅうべん」の姿がそこにはあった。


 なるほど、どうやら今日が「十常侍じゅうじょうじの乱」の当日らしい。



・宛城の戦い


 曹操が降伏した張繍の居城である宛城で、張繍の叔母である鄒氏と密通。

 それに張繍が激怒して曹操を裏切って攻めたことで、曹操は大敗を喫した。

 この戦いでは曹操の長子である曹昂と、猛将の典韋が戦死した。



・十常侍の乱


 宦官勢力の排除を何進が計画していたことを察知した十常侍は、何進を暗殺した。

 その為、同じく計画を進めていた袁紹は激怒し、後宮へ攻め入り、宦官を残らず虐殺。

 この乱によって十常侍は皆が死亡し、宦官の権勢は失墜した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ