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35話


 董卓の喜び様は、それはもう凄かった。


 八万の軍を、たった三千の騎馬隊で無茶苦茶にしたのだ。

 洛陽に残った全軍で、大いに呂布を迎え、祝った。


 呂布を見た途端、董卓は「我が息子よ!」とまで言うほどの歓待ぶりだったとか。



 鮑信軍、張邈軍は有力な将を討たれ、曹操は軍の半数以上を討ち取られた。

 諸侯は前軍の崩壊を見た途端に逃げたという。


 曹操軍だけ兵の損害割合が大きいのは、最後まで逃げずに戦ったという事だ。

 最後は僅か数騎ばかりの兵と、側近の将だけで、命からがら退却したらしい。


 決して、戦いから逃げない。

 史実にもある通り、それが曹操の尋常ならざる特徴だろう。


 そうやって覇道を切り開いたのだ。


 同じところを目指す者として、どんな戦いぶりだったかを知っとかないと。



「呂布と曹操の戦いぶりを聞きたいんだけど」


「私は牛輔様の管轄なので、聞かれても困るのですが」


「今回、私は徐栄軍の兵が不足した場合の追加部隊なので、そちらの戦況はあまり」


 難しそうな顔で首を傾げる賈詡と董承。

 なんだこいつら、腹立つな。


 皇帝になって、少し広くなった俺の部屋には、いつもの様に監視役の二人が居た。


「全く聞いてないってことはなかろうもん。特に賈詡なんかは、把握しとくべきじゃないの?」


「まぁ、ある程度でしたら……しかし」


「どうした?」


「あまり現実的ではない話なので。そもそも二万の張邈、鮑信、曹操軍に、三千で挑むという話が土台無理な話なのです」


「えっと、つまり、呂布が無茶苦茶にしたと?」


「はい。鮑信軍も張邈軍も曹操軍も、呂布将軍の前では同じだったのです。容易く断ち割られ、蹂躙され。素手の人間と、虎が戦っている様なものです。いくら人間が鍛えたところで、虎には敵いませんから」


 丁原軍と董卓軍の戦を思い出す。

 確かに呂布の前では、どんな精兵でも同じだった。


 まるで水を泳ぐ魚の様に、空を飛ぶ鳥の様に、地を駆ける馬の様に。


「あの曹操ですら、か」


「されど、曹操は将を失わず、自らも生き延びています。兵の損害を考えれば、これは奇跡に近いことかと」


「私は、兵は全滅しても、何度も生き延びていますが」


「董承殿は別です」


「え」


 もしかして軍部でもこんな扱いなの?

 董承さん、いじめられてます?



「まぁ、とりあえず、孫堅を抑え、張邈んとこの連合軍は退けた。洛陽はこれで当面は安泰か?」


 壁に掛けた大きな地図。

 中華全土が簡単に描かれ、大体中央より少し上に「洛陽」と記されていた。


 賈詡は立ち上がり、クマの残るやつれた眼で、地図を睨みつける。


「安泰というよりは、戦線の膠着でしょう。南は徐栄将軍が残り、睨みを利かせています。袁紹は半ば無理やり冀州を奪いましたからな、兵力は大きけれど、進軍することはありますまい。幽州の公孫瓚が、北方より冀州を狙っておりますし」


「張邈のとこは?」


「主戦派の三人がボコボコですからなぁ。曹操なんかは南方にまで逃れておりますし、再度兵を集めるとこからやるとすると、時間がかかります。まず動きません」


「豫洲を抑える孔伷こうちゅう、は、あれか。戦の素人だから、まず軍すら機能してないと」


「左様。しかし、袁紹の圧力は動かずとも大きい。もし公孫瓚と密約でも結べば、洛陽攻めはあり得ない話ではない」


 史実と違い、既に袁紹は冀州を抑えている。

 孫堅と曹操が敗北したところで、まだまだその地力は残っているといったところか。


 つまり、反董卓連合が成功する可能性も、史実より高い。

 主力の徐栄軍は袁術、孫堅の軍と睨み合っているし、流石に今回の様に呂布の軍だけで袁紹軍と対抗は出来ないだろう。



「なぁ、董承。お前が袁紹なら、どう動けば勝てると思う?」


「え? 私ですか? あまりそういう考え事は得意ではないのですが。そうですね」


 話を振られ、董承もまた立ち上がり、地図に寄ってくる。

 やはり軍人としての血が疼くのか、どこか少し楽しげにも見える。


「そもそも、孫堅、曹操が動いたときに、動けばよかった。冀州を失っても、洛陽を奪えば良いですし」


「賈詡はどう考える」


「ほっときます」


「は?」


「連合を作る意味など無いという事です。連合を作ったところで結局諸侯はバラバラ。こちらは一つの塊ですから、一つ一つ潰して行けばいい」


「でも、それだと董卓の勢力が大きくなるだけじゃないの?」


「その間に、青州の賊の反乱を抑え、幽州の公孫瓚を下し、北方を治めれば、独力で抗し得ます」


 ふーむ、なるほどな。

 そういう手もあるのか。


 連合を作って勝負を焦るよりは、確実に自分の力を蓄えろって話ね。


 でも、董承の話も尤もだ。

 リスクを恐れずに行動しないと、戦では勝てんでしょ。


「陛下であれば、どうなさいますか?」


 賈詡は俺を試すように、視線をこちらに移す。


「んー……分からん!」


「え?」


「分からんよ、そんなもん。俺はただ『敵をぶっ潰す!』ってだけ言ってりゃ良いと思ってたんだけど」


「そんな、それでは話になりません」


「あ、ちなみに董承の策の方が好きだった。でも、賈詡の策の方が正しいと思う」



 呆れたように溜息をつく二人。


 だって俺、馬鹿だし。兵法なんてしらんし。

 歴史を知ってても、戦の仕方は分からないですもの。



 だったら、分かる人に任せよ?


 って思う俺は、間違ってるんでしょうか?



「確かに人の上に立つ者はそれで良いですが、何というか、本当に陛下は本能のままに生きてますなぁ」



 あ、単純にバカだって呆れてただけね。




公孫瓚こうそんさん


 幽州を治める豪族。最強の騎馬軍団「白馬義従はくばぎじゅう」は天下に恐れられた。

 顔立ちが良く、弁論が爽やか、才気溢れる風貌をしていた。劉備と同じ盧植門下生でもある。

 幽州牧の劉虞りゅうぐは名声が高かったが、殺害してしまった為に人心を失い、袁紹に滅ぼされた。



孔伷こうちゅう


 豫洲刺史に任じられた文官。

 反董卓連合に参加するも、董卓軍からは「孔伷こうちゅうは戦が不得手」と評されていた。

 彼の死後、袁紹と袁術がこの地を巡って争い、袁術より派遣された孫堅の手に渡った。


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[気になる点] 主人公じゃなくてただのチンピラがイキってるだけ。 どこが面白いの?
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