33話
投稿を始めて一月が経ちました。
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徐栄将軍の出陣後、洛陽では幾度も軍議が執り行われていた。
勿論、俺も軍議に参加している。
案外何とかなるもんだね。
戦に行かないなら、せめて軍議には出たい出たい出たぁああい!!
って駄々をこねたら婆さんが根負けして、何とか俺をねじ込んでくれた。
やったね!
そんでさっき、賈詡と董承が裏にお呼ばれしてたんだけど、何かあったのかな?
俺の教育がちゃんとなってないって説教かしらん?
そんなこんなで不快な状態の董卓さん。
大きく鼻息を鳴らし、地図を疎ましげに眺めた。
「董旻、各地の勢力はどうなってる」
「袁術が迫ってはいますが、その他の諸侯は動いていません。袁紹は兵力を有しているとはいえど、半ば無理やり奪った土地ですので、大規模に動く事が出来ないでしょう。豫洲の孔伷はそもそも文官であり、野心は無く、戦は素人。兵の供出だけをして進軍はしないと思われます」
「陳留はどうだ。あの小男が、まるで宙から取り出したかのように、五千の精兵を擁したと聞いたぞ」
「曹操の動きを確かに軽く見ていました。張邈の下に身を寄せ、動きが無かったので、客将の身分に甘んじたものだとばかり。されど、陳留は諸侯が多く、連携が取れていません。孫堅軍が勝てば動くでしょうが、負ければ分裂を始めるものと」
「全ては徐栄次第か」
「ただ、徐州の陶謙は密かに兵糧を我らに供出しており、幽州の公孫瓚も、我々との不可侵の密約を提案してきています。包囲網も完璧ではなく、よく見れば穴だらけです。御心配には及びません」
おぅふ。
三国志演義の、二大性格イケメンが、まさか史実ではここまで狡猾だと誰が思おうか。
劉備を良い人主人公にしようとした結果だから、まぁ、仕方ないことではあるが。
「──報告します!」
軍議の最中、どたどたと足音を鳴らして駆け込んできたのは、伝令の兵であった。
中々に慌てている様で、息も結構荒い。どうしたのかしらん?
「陳留に集結していた諸侯が一斉に進軍を開始! 兵力は八万! 二万の前軍を率いるは、張邈、鮑信、曹操!」
「董旻、陳留の奴らは動かないのではなかったのか? ん?」
「そんな、まさか」
董旻は報告を聞き、顔色を青くした。
やっぱりただ隠れていただけじゃなかったのか、曹操め。
どんな手品をしたのか分からんが、諸侯を動かしたのは間違いなく曹操のはずだ。
さぁ、精鋭は徐栄軍に集まり、洛陽は手薄。
董卓はどうするのかな?
「動かせる兵力はどれくらいだ」
「騎兵の精鋭は全て、徐栄将軍の下です。精鋭でなければ、ですが、五万を動員できるかと」
「牛輔、どうだ。勝てるか」
「戦えと仰せならば、戦います……しかし」
「あぁ! もうよい!!」
おどおどとした牛輔将軍の物言いに苛立ったのか、董卓は激しく机を叩きつけた。
勇猛で気性の荒い将軍達も、この一瞬で硬直してしまう。
ただ一人を除いて。
「董相国、何故、私の名を呼ばれぬのですか」
「呂布か」
前に進み出たのは、呂布であった。
「私にお命じ下され。必ずや勝利をお届けいたします」
「お前は入って日が浅い、涼州兵が大人しく指揮下に収まるとは思えん」
「涼州軍の力を借りるまでもございません。我が執金吾の軍のみで結構」
「なんだと?」
「我が執金吾の兵のうち、騎馬隊の精鋭三千のみで、八万を蹴散らしてごらんに入れます」
あまりに大胆不敵な物言いに、諸将は怒りを、そして嘲笑を浮かべる。
ただ、董卓と呂布。この二人だけが真剣な目をしている様に見えた。
「負ければ首を貰うぞ。しかし、勝てば恩賞は思いのままを与えよう。何が欲しい」
「更なる戦場」
そう言うと呂布は頭を下げ、諸将の間を通り、部屋を出た。
なにあれ、めちゃくちゃカッコイイんだが。
「董卓、俺も行きたい!」
「陛下は戦場を、何と勘違いしてるのですかな? はやく董承を呼んでこい!」
「ぐぬぬ」
☆
董卓は精鋭を全て、孫堅軍に充てるはず。
そうなれば後は、戦に慣れない官軍が残るのみ。
出てくるならば、牛輔の軍だろう。
ただ、あれは涼州騎馬隊を率いる李傕、郭汜が脅威なのだ。
その騎馬隊を失っている牛輔の軍は、そこまで怖くはない。
他に目立った将軍と言えば、胡軫だろう。
ただ、あれは個人の武勇に秀でているだけで、大軍の指揮に向くような軍人ではないと聞く。
「先鋒は俺に任せる、そういう手筈で良いな? 張邈殿、曹操殿」
盛んに息を巻いているのは、諸侯の一人であった鮑信である。
人格は大らかで、正義の心に厚い武人である。
張邈とは気の合う友人らしく、連合にも真っ先に駆け付けた一人だった。
「どうだ? 曹操」
「そう約束してしまったからには仕方ない。鮑信殿を先鋒、張邈を中軍。後軍は奴らに任せておけばいい。居ないよりはマシだ」
「お前はどうするのだ」
「俺は遊軍として、戦況を見極める。別に鮑信殿の戦功を奪おうだなんて思っちゃいないさ」
「ならばよいのだ!」
大口を開けて、鮑信は笑う。
浅はかなところはあるが、裏表が無く、どうにも憎めない。
人に慕われそうな男だった。
「伝令です! 迎撃に出てきた董卓軍の正体を掴みました!」
「誰だ? 牛輔か? 胡軫か?」
「いえ、呂布です!」
「呂布だと? 数は?」
「騎兵のみ、およそ三千!」
「……あり得ない」
曹操は眉をひそめる。
それを心配そうに見ていたのは、張邈である。
「何をそんなに考えてるのだ? むしろ好機ではないか。恐らく徐栄の兵が戻るまでの時間稼ぎの兵だろう」
「いや、時間稼ぎなら牛輔に大軍を与えるだろう。しかし、まともに戦うにせよ、兵力が少なすぎる。こちらは総勢で八万、前軍だけで二万だ」
「しかし呂布は、武勇に秀でているとはいえ、まだ幼少の陳留王に馬上から落とされた男であろう。そこまで心配せずともいい気はするが」
鮑信も頷く。
しかし、あの董卓が何も考えず、このような無意味な一手を打つのか?
曹操の自問自答は止まらない。
まさか本気で、三千で戦いに来てるというのだろうか。
「……斥候を倍放ち、伏兵を警戒する。董卓は、何か手を打つはずなんだ。軍はこのまま進むが、鮑信殿は十分に注意されよ。敵が退いても深追いは禁じる」
「もともと作戦は貴殿に任せているから従うが、警戒し過ぎではないのか?」
本当に張邈の言う通り、呂布の軍はトカゲの尻尾切りなのだろうか。
考えてみれば、もともとは執金吾の軍だ。
董卓にとって使い捨てても惜しくはない軍であるのは間違いない。
この違和感が、ただの杞憂であればいいが。
曹操は嫌な汗が、背に滲むのを感じた。
・胡軫
董卓配下の武将。配下に校尉の華雄をもつ。
勇猛な武将ではあるが、我が強過ぎた為に配下や他の武将との折り合いが悪かった。
呂布と共に孫堅と戦った際、呂布の虚報に惑わされ華雄を失い、孫堅に大敗した。
・鮑信
儒学の名士を輩出してきた出自の持ち主。寛大で節度のある態度で、多くの人に慕われた。
反董卓連合に参加し、曹操、張邈と共に徐栄と戦うも大敗。弟が戦死した。
青州黄巾軍に曹操が襲われた際は自ら助けに入り、曹操を救うも命を落とした。