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23話

レビューやコメント、本当にありがとうございます!

いつも読者様の声に救われております( ;∀;)


これからもどうぞよろしくお願いします。


「……ウッ」


「動かないでください」


 長いこと、眠っていたような気がする。

 体全体が鉛の様に重く、少しでも動こうとすれば、胸に焼ける様な痛みが走った。


 見てみれば、左腕が無い。

 無くなった左腕を見て、ようやく記憶が戻り始める。


「何故、儂は生きている」


「流石に戦場で生きてこられた丁原様です。普通であれば死んでました。とはいえ今も、何とか命が繋がっているだけ。安静に」


 丁原の傷を見ているのは、宦官である。

 しかし、いつも陳留王「劉協」から使者として来ていた、あの宦官ではない。


 もっと若く、色黒な青年だった。

 あの宦官よりももっと、表情が出ないらしい。


「あの戦で、儂は死ぬつもりであった。死に場所を求めていた、無意識に。息子の道の、邪魔にはなりたくなかった。だからこそ、生きているのが不思議なのだ」


「丁原様にはまだ、為さねばならない事があります。なので、生かしました。あの一騎打ちの最中、丁原様の馬に吹き矢で痺れ薬を盛り、体勢を崩したのです」


 呂布は無意識のうちでは、丁原を殺したくはなかった。

 そして丁原も、長年の戦で染みついた体術で、致命傷を避けようとした。


 単純だが、それが噛み合ったのだ。


 一か八かの賭け。それに勝った。この青年が。

 いや、青年ではない。この青年を動かした者が、だ。


「この老骨に、何を成せる。死なねばならないのだ、ここで」


漢室再興かんしつさいこう大業たいぎょう。それが、丁原様の為さねばならぬことです」


「……なんだと」


「我が主には、力がありません。蓄えるには、信頼のおける勇猛な将、忠義の兵、これらが必要です。丁原様はかつて并州へいしゅうの刺史であられました。洛陽を離れ、同志を集め、主の号令と共に、天下の兵を挙げる、貴方にならそれが可能なのです」


「ふっ……まだ、この老骨に、戦えと言われるか。全ては、息子に託したつもりなのじゃがなぁ」


「戦わなければなりません。戦わねば、滅びゆく。ご存じでしょうか、執金吾まで旗下に組み入れた董卓が、次に何を成すか。それは、陛下の廃立です」


「なっ」


「これでもまだ、戦わないと?」


「いや……そうか、これは天より与えられた命なのだな。ならば、この命を振り絞らねばなるまい。并州へいしゅうにて、賊にでもなり、兵を集めるのもまた痛快よ」


 丁原の顔には気色が戻ってきていた。

 これで、大丈夫だろう。青年は丁原の脈拍を測り、一つ、二つ頷く。


「そなたの名は、何という」


「『汚鼠』と、お呼び下され。いつも丁原様がお会いしていたのは、別の鼠に御座います。丁原様が出奔しゅっぽんの折は、別の従者も付けます故、お使いになられて下さい」


「なるほど、ならばお前の主というのは、そうか、そうか。ならばまだ死ねぬわ。もう一度、あの馬鹿息子を叱りつける事も、出来るやもしれんなぁ」


 死に場所を求め、愛する息子の夢の為、覚悟を決めた老骨の血潮は、再び熱くたぎり始める。

 かつて命知らずの猛将として、賊徒や異民族から恐れられた、武者の意地が明かりを灯したのだ。


 なぁ、奉先よ。どうやら儂はまだ死ねんらしい。

 かすれた声で、痛む胸の裂傷をかばいながら、ゴフゴフと丁原は笑った。





 呂布がついに董卓へ降った。

 それはすぐに洛陽中へ喧伝され、いやでも俺の耳に入ってくる。


「丁原は、無事だろうか……」


 賈クや董承という監視が付く中、宗越と会う事は難しい。

 だから予め最低限の指示を渡して、後は宗越の独断で実行に移る様に、と定めておいた。


 最優先は勿論、劉弁の命。

 そして次に優先すべきとして、丁原を生かす事を挙げた。


 丁原はかつて、并州の刺史であったはずだ。

 という事は、土地勘や人脈はまだ生きていると思う。


 今の俺には実権が無い。実権を持つには、単純に力が必要だった。

 董卓をも超える様な力を。


 でも、僅かは八歳で実績もない俺が力を持とうなんて到底無理。

 だからこそ、呂布に兵を奪われた丁原を何とか生かす。


 并州へいしゅうにて兵を集めさせ、俺の号令で動くようにすれば、必ず将来は役に立つ。

 それに并州へいしゅうは、今の董卓の根拠地だと言って良い。

 執金吾となり并州刺史へいしゅうししを離れた丁原の後任という形で、并州牧へいしゅうぼくになっているのが董卓だからな。


 その并州へいしゅうにて、急に賊徒の集団が力を持ち始めれば、董卓の「天下取り」への歩みも不安定になるはずだ。



「おい、董承」


「お呼びでしょうか、殿下」


 頭に薄く包帯を巻いた董承が、爛々(らんらん)とした目で俺にかしづく。

 そのサイコパスな目つき、どうにかなんない? すっげ怖い。


 ちなみに賈クは本業の、牛輔将軍の補佐に行ってる。

 優秀な人間は休む暇が無くて大変だい。


「たまには外に出たい。お前の話はつまらん」


「なにぶん軍師殿と違い、私には学が無いですからね!」


 賈クであれば各地の情勢や兵法なんかの話が出来てそこそこ楽しい。

 ただ、董承はどうにもならなかった。


 何を聞いても首をかしげるばかり。ならば武術でも習いたかったが、こいつは武術も全くの素人。

 マジで持ち前のタフネスと、常識外れの野心だけで、戦場を生き抜いてきたらしい。


 つまり、何も教えてくれないんだコイツ。


「俺に外出の許可なんてあるのか? このまま飼い殺しか?」


「人聞きの悪いことを。まぁ、場所にはよりますが、ある程度なら。勿論、私は同行しますよ」


「うへぇ……まぁ、いいや。ちょっと行きたいところがあるんだよね」


「行きたいところ? と、いいますと」


 丁原は、宗越に任せた。

 じゃあ俺も、俺の為すべきことをやらないと。


 実権を手繰り寄せる「力」は決して、武力だけじゃない。



蔡邕さいよう殿のところだ」



 武力ではなく、政治。

 その足掛かりとなるであろう人物に、会いに行く。




・~刺史しし


 各州を治める「太守」が不正を働かない様に監査する役職。

 その権限は太守に並び、後漢の末期には行政権まで掌握するようになる。



・~ぼく


 黄巾の乱が発生すると、鎮圧をさせるべく「州牧」を各地へ派遣。

 本来は「刺史」の名を変えただけだが、その土地には元々の刺史も居たことで、刺史と州牧が対立しあう地域もあった。

 乱の鎮圧目的で設立されているので、大きな軍権を持つことを公認され、群雄が力を持つようになった。


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