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三国志の「劉協」になったけど、漢は滅亡寸前でした ~献帝が狂武帝と諡されるまで~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第二章 董卓という奸雄

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12話

歴史ジャンルの月間10位に入る事が出来ました!

これでトップページにも掲載されます!(*'ω'*)


本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!


 曹操そうそうの目が離れたことで、日々の鍛錬がめんどくさくなった。


 だってまだ八歳じゃん。

 遊んで寝る事が仕事みたいなもんだっしょ?


 こんな日は煙でも吸って、適当に目についた女に声を掛けて暇をつぶすのだが、勿論このご時世で出来るわきゃねぇ。


 そういえばタバコで思い出した。

 転生して初めて感謝したことがあるんだよね、神様とやらに。


 タバコが無いと死ぬってくらいのヤニカスだった俺が、なんと禁煙に成功中である。

 この世界にタバコは無いし、俺の新しい体にはヤニの蓄積が皆無。


 空気ってマジ美味しい。

 食欲旺盛な体が素敵すぎる。


「婆さんの過保護がまた戻ったから、暇すぎるんだよなぁ。世間は董卓とうたく登場で忙しないだろうけど、平穏な日々だ……稽古するか」


 結局、剣を握ることしか、今の俺には選択肢が無いらしい。


 いつも曹操そうそうを相手にしていたからか、一人の稽古の仕方がわかんね。

 もういいや。目指せホームラン王。

 剣よりバットの方がしっくりくるね、うん。



 ゆらりと、背後に視線を感じた。

 庭や部屋には入るなと、宦官共には難癖付けて追っ払ったはずなんだが。


 俺はふと視線の方に目をやると、そこには見知った顔の男が一人、背中を丸めて佇んでいた。


汚鼠おそじゃねーか! 無事だったのか」


「殿下も、ご健勝で何よりで御座います」


 それは、十常侍じゅうじょうじの乱で死んだとばかり思っていた、側仕えの宦官かんがんの姿だった。


 えん兄弟の虐殺は凄惨せいさんを極め、宦官はそのほとんどが殺されてしまっていた。

 今の後宮に居る宦官は皆、新しく雇い入れた者達がほとんどである。


 汚鼠おそも、その例に漏れず殺されたとばかり思っていたのだ。


 俺は、剣を振る腕を止めた。


「相変わらず物音一つ立てない、不気味な奴だ」


「所詮は汚いねずみですので。逃げるのも、隠れるのも、得意なのです」


「今まで何をしていた」


「嵐が過ぎ去るのを待ち、怯えておりました」


 返答も何かとうやむやにされる。

 聞かない方が良い人間ってのは案外、色んなとこに居るもんだ。


 無理に首突っ込むとこっちが損をすることになる。


 店で働いてる嬢が浮かない顔してたから出来心で話を聞いてみれば、あれよあれよと草のバイヤーに絡まれて、酷い目に遭ったなんてよくある話だ。


 いくら俺が底辺でも、流石にドラッグには手を出しちゃないよ。

 あれは心の弱い奴がハマるの。


 俺みたいに、好きで馬鹿やってるやつは絶対手を出さないし、そもそもバイヤーも売ってこない。

 一目で分かるんだね、金ないヤツだって。元取れないって。


 ハイリスクノーリターン。


「言いたくないなら良いや。それで、これからどうすんの? ここに戻るの? それともどっか逃げるか?」


「宦官は後宮に居てこそ、人の暮らしが出来ます。ここ以外に生きる場所は御座いません」


「そうか。んで、今まで通り、俺の世話役してくれるの?」


「その件について、お話ししたきことがあります」


 汚鼠おそはその場で膝をつき、頭を下げた。


 何をしてるんだろうか。

 俺は木刀片手に側に近寄った。


「何してんの?」


「私はこれまで通り、殿下にお仕えしたく思っております。されど、許されざることを、私は殿下にしておりました故、裁いていただきたいのです」


「裁く? 何を?」


十常侍じゅうじょうじの乱にて、殿下を張譲ちょうじょうに売ったのは、私で御座います」



 驚いた。

 同時に「なるほどな」と、どこかで全てが腑に落ちた気もした。



 ずっと不思議だったんだ。

 何で後ろ盾も無いガキの世話を、四六時中ずっとやってくれているのかって。


 汚鼠おそ自身がめちゃくちゃ不思議な奴だったから、そういう変人だとばかり思っていた。

 しかし、話は簡単な事だった。


 張譲ちょうじょうの手の者として、俺の身辺を探らせていたのね。

 俺は監視されてたってことで、乱の最中に、利用できるとして売られた。


 結果は、まぁ、残念なことになったけどさ。


「親分が死んだから、今度は俺に寄生したいと。また俺は、お前に売られるのかもしれないな」


「この際全てをお話しします。殿下の身柄や情報を欲しいという者が、相応の金を渡してくれた場合、私は再び殿下をお売りします。全て、報酬で私は動きますし、どんなこともやります。だからこその『汚鼠おそ』なのです。卑しく汚い、鼠なのです」


「おいおい、ふざけんじゃねーぞ」


 俺は滾る血をそのままに、木刀を振り抜き、汚鼠おそを打ち飛ばした。


 小柄で細いその体は、何度も荒れた土の上を転がり、横腹を抑えてあえいでいる。

 そんな男の上にどかりと座り、俺は木刀でその首根っこを押さえつけた。


「何で俺を売った男を、また側に置かなきゃならん。馬鹿にするのも大概にしとけ。お前は打ち首以外に道は無いよ」


「もとより……その覚悟で、参りました。陛下に雇っていただけないのなら、私に生きる道はありません故」


「鼠がわざわざ、どうして殺されにやってきた。しかも、何故、俺だ。董卓とうたくなんかは、喜んでお前を雇いそうだがな」


「殿下は『呂不韋りょふい』という男を、ご存知ですか」


「初めて天下を統一した『しん』の、宰相の一人か」


「まさしく。彼は元は商人でしたが、当時、王位継承順の末端に過ぎなかった秦国の王子に目を付け、金を注ぎ込み、王子を王位に就けました。将来化けるやもしれぬ『奇貨きか』を、呂不韋りょふいは見出したことで、商人から大国の宰相さいしょうへと出世したのです。私は今、その呂不韋りょふいの気持ちが分かります。殿下は『奇貨きか』です、董卓とうたく以上の値打ちが御座います」


「だから俺なのか」


「はい。自らの命を元手に、賭けに出ました。十常侍じゅうじょうじの乱を切り抜けられた、その強運と、狂人の如き精神力は、まさに天下人の証」


「そんなに金が好きか」


「宦官は性欲がありません故、人一倍、立身出世を望むものです。金の為なら、命さえ私には安い」


 腹が立ったから木刀で頬を強めにぶった。

 それでも汚鼠おそは歯を欠けさせ、口から血を流しながら、不気味に笑っている。


 なるほど、嘘じゃないらしい。

 別に嘘でも良いんだけど。それよりも、気に入った、と言った方が良い。


 頭がおかしくて、馬鹿みたいに真っすぐな奴に、不思議と惹かれてしまうんだこれが。

 こういう奴らは確かに怪しくて嫌われやすいけど、話してみたら案外面白いのが多い。


 俺も、その内の一人なんだろうけど。


「その欠けた歯で罪を許そう。歯の抜けた鼠は、何も怖くないからな」


「私は、殿下の命を金で売った人間ですが、お許しになると?」


「許して欲しかったんだろ? それに、俺は生きてる。それでいいじゃねーか。それに、金に正直な奴は信用出来る。忠義とか忠誠とか、そういうあやふやなのが一番疑わしい」


「それでは、私は」


「仕える事を許すって言ってんだよ。これからは俺の為に情報を集めて、汚れろ。俺に奇貨の価値が無くなったとき、売ってもかまわん。まぁ、売られる気はさらさら無いけど」


 汚鼠おそから腰を上げ、今度は地面に座る。


 痛む脇腹を抑えながら、汚鼠おそはその場にひれ伏した。

 僅かに、体が震えている気がした。


「この汚鼠おそ、必ずや殿下のお役に立ってみせます」


「名前を教えろ。別にこれからも汚鼠おそと呼ぶが、それでも名は知っておきたい」


「……名など、とうの昔に捨てましたが、幼き頃は『宗越そうえつ』と呼ばれていたような気もします」


「分かった。よろしく」


 宗越そうえつはひれ伏したまま顔を服でこすり、体を起こした。


 いつもの無機質な、凡庸とした表情である。

 ただ、僅かにその瞼は、赤く腫れていた。




しん


 春秋戦国の七雄の一国にして、初めて中国を統一した王朝。

 始皇帝という英傑の下で厳しい法治政治を敷き、民心の反感を買った。

 そして始皇帝の死後、各地で反乱が起き、楚漢戦争へと発展していく。



呂不韋りょふい


 元は豪商人であった、秦の宰相の地位に就いた男。

 秦の王子の一人「子楚しそ」に目を付けて援助を行い、彼の即位を手伝った。

 類稀な才覚で国の発展に寄与するが、「ロウアイの乱」の責任を始皇帝に問われ、自害した。


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