36:貴様っ、見ているな!
という訳で澪ちゃん編です。体調崩したので書き上げるのが遅くなったけど、予約投稿には間に合って良かったです。
私がエルフになってから1ヶ月が過ぎた。まあ、戸惑いながらも変わっていくもの、変わらないものはあるわけでそんなものに囲まれながら日々を過ごしている。そんな中で常々疑問に思っている事がある。水無月澪。クズ男から助けてよりこっち、妙に私に懐いてくる子である。いや、それだけならばまだいいのだ。問題は「謎な部分が多過ぎる」という所。最早ストーカーの一言では処理できないくらいになってる。……いや、ストーカーで放置しちゃダメなんだろうけど。
「で、あたしにどうしろと?」
「どうしろって訳じゃないけど、ハルに相談に乗って欲しくってさ」
と、彼女のマンションを片付けながら言った。空き缶を飲みっぱなしで転がすな! 服はちゃんとハンガーに掛けろ!
「んー? そりゃまあ調べる事は出来ると思うけど、それなら魔法使って調べたらいいんじゃないの?」
「うーん、やっぱそれが手っ取り早いんかなあ?」
「だって、普通の高校生とか名前で検索しても出てこな……うぇっ!?」
カタカタキーボードを叩いてた(私に片付けさせながらパソコンしてたんだよねえ)ハルが素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたん?」
「いや、ひとみん、こ、これ……」
言われてパソコンの画面を見るとそこにはあのお嬢様の顔が。ハッキングでもしたのかと思って画面をよく見た。
水無月澪。聖ザビエル女学院高等部二年生。水泳部所属。二百メートル背泳ぎ県記録保持者。結構な有名人みたいだ。って、なんでそんな子がほぼ毎日私の所に来てんの?
「そこそこ分かっちゃったねえ」
「うん、まあ素性はわかったけどさ、その他の事はなんも説明つかないんだよね……」
やっぱりストーカーってやつ? でも、執着が物凄いこと以外は素直ないい子なんだけど。
「それならやっぱり魔法で調べてみるしかないでしょ」
「潜入とかするの? さすがに人様の家に忍び込んだりするのは……」
お店ならいいのかって? だってお店はお客様に入ってもらうための空間だからね。プライベートは侵食して……あ、高宮さんの家? いや、あっちの時は、ほら、なんだ。猫がいるって言うから……
「あー、そうじゃなくて使い魔。ほら前も召喚試したと思うけど、それを精霊でやれば良くない?」
「あー、うん、それはそれで考えたんだけどね」
「なんか問題あるん?」
「偵察させるのは出来るけど情報の共有が出来ないのよ」
まあ忍び込ませることは出来るし、それは簡単。でも、見た物を詳しくこっちに伝える事って出来ないみたい。ほら、精霊と私たちってなんか感覚違うみたいだし。
「なるほどねえ……風の精霊くっつけて会話盗聴するとかは?」
「盗聴自体は出来るけど受信側の音量調整が難しくてね」
そうなのだ。高宮さんのところで使った風の精霊によるアラーム。あれは本当にアラームとしてしか機能しない。細々な音まで拾ってどれが大事か分からなくなる上に精霊の声ではないので周りにまで聞こえてしまうのだ。
「なかなか難しいもんだねえ」
二人して思案顔。部屋の後片付けはあらかた終わったので洗濯機を回してるところだ。
「他に使えそうなのは……あ、水鏡とかに映像映すとかは?」
おお、なるほど。やってみよう。深く集中してみる。像が浮かび上がって……水着姿の澪ちゃん。あ、これ、練習中かな? 水面に映ってる姿がそのままこっちに見えてるって感じ。音も聞こえないから割と不便かも。それにしても……年の割には大きいよねえ。とか思ってたら水鏡の向こうの澪ちゃんに動きが携帯を取り出して……私の携帯が鳴った。
「はいもしもし」
「お姉様、わざわざ覗かなくてもいつでもお見せしますのに……」
気づかれた!?
「そんなにお姉様が私のことを知りたがってるなら教えても構いませんけど。明日の放課後にお迎えに行った時に詳しくお話します」




