02:魔法も、精霊も、あるんだよ
「ふざけとるのかね、君は」
開口一番そんな言葉が飛び出した。場所は支店長の机の前。周りの目から隠れてはいない。
「いえ、ですから朝起きたらこんな風に……」
「言い訳はやめたまえ。社会人だろう。その格好はおかしいと思わないのか?」
これは完全におふざけと思われてるなあ。何か証明出来たらいいんだけど。……触られたくないし。
と、思案していると視界の端で何かが手を振るのが見えた。なんだろう、キラキラしてる。
「あら、あなた、私が見えるのね」
キラキラとエメラルドグリーンに輝いているそれは私に話しかけてきた。支店長の隣に置いてある観葉植物の鉢植え。そこに小さな少女が乗っかっていた。
「え、あれ?」
「一体どこを向いてるんだね。話を聞く時はちゃんと私の方を見てだな……」
支店長がまだ何か言ってるがそれどころではない。軽いカルチャーショック、未知との遭遇だった。デビルスタワーじゃないんですけど、ここ。
「えーと、あなたは?」
「私はドライアドよ。決まってるじゃない」
コロコロと楽しそうに笑う。
「それにしてもまだエルフって残って居るのね。久しぶりに見たわ」
……今エルフって言った?
「それってさ、私の事?」
「そうよ。あなたよ。昔はもっと沢山いたんだけど出てこなくなっちゃったからね」
エルフ……昔は存在した……という事は私は先祖返りと言うやつなのかな。隔世遺伝?
「さっきから何をブツブツ言っとるんだ!」
あ、支店長忘れてた。ん? そういえば……
「支店長はこの子見えないんですか?」
「何を言ってるんだね君は?」
「あははー、ムリムリ〜。普通の人間には見えないよ。あなたがトクベツなのよ」
それじゃあさっきから私は支店長に呼ばれたのになんか独り言を大声で言いながら騒いでたってこと? うわ、それはさすがに拙い。なんとかしなきゃなんだけど。
「そろそろ時間だから君の処分については終業後にな」
ああ、そろそろ9時だ。支店を開けなくちゃいけない。シャッターのスイッチを押しに行こうとすると支店長が止めた。
「君は裏で伝票整理してなさい。その姿をお客様の前に出す事は出来ない」
まあ、そうだよね。どう見てもコスプレでふざけてるとしか思われないよね。大人しく従った。ってあれあれ? ドライアドさんもついてくるの?
「久々に同族以外とおしゃべりしたいからね」
そのまま会議室に言って帳票の入ったダンボールを漁る。オンライン化の波が来ている我が行でも昔の帳票をデータベースに入力する作業に手を取られている。ひたすらパソコンでカタカタ入力するだけのお仕事だ。
「なんか、タイクツそうなおしごとー」
小一時間カタカタやってた私にドライアドは言った。
「仕方ないでしょ、これもお仕事なんだから」
「手伝ってあげるよ、はい」
ドライアドはそう言うと軽く手を振る。重いダンボールがふわりと浮いて私の所に移動した。いや、助かるけど。
「何、今の?」
「何って魔法だけど?」
「ま……ほう? 魔法が使えるの?」
「やだなあ、あなただってさ エルフなんだから使えるでしょ?」
あれ? 私、魔法使えるの?