17:ジャッジメントタイム
顔がバレると色々拙いので顔を作る。あれあれ、ホッケーマスク。某金曜日に働く殺人鬼さんの顔だよ。夜道で会うと怖いよね。
「ひっ、な、なんなんだ、お前はっ」
怯えながらも声を発する事は出来たらしい。
「グッドモーニング、ミスター。ご機嫌いかが?」
少々芝居がかった言い方にしてみる。声は変えてないから顔とのアンバランスさが半端ない。ん? 声変えなくて良いのか? こんな状況で声だけ覚えてるなんて芸当、普通の人間に出来るわけないよ! マンガとかラノベとかじゃあるまいし。
「ぼ、僕をどうするつもりだ?」
「それはこっちのセリフだ、ミスター。彼女をどうするつもりだったのかね?」
彼女は魔法で眠らせて草でクッションを作って寝かせてある。なんか精霊魔法ってよりも植物操作だよね。
「そ、そんなこと、アンタには関係ないだろう!」
……この人、自分の置かれてる状況分かってんのかな?
「だったら、私がどうしようともあなたに関係なくないか?」
ニヤリと笑う。いや、マスクの下でじゃなくて、「マスク自体の表情を変えて笑わせる」と言う芸当をした。幻覚って便利だね。
「な、何が目的だ? 金か? 金ならやるよ。親父は不動産会社を持ってるし僕自身もエリートだ。それとも女か? それならそこにいるやつを好きにすればいい。もっといい身体のやつがいいなら適当に見繕ってもいい」
ピクッ(怒り)と反応したので女の線で攻めることにしたらしい。そのまま喋り続けた。
「これでも女を引っ掛けるのは得意なんだ。今日はむしゃくしゃしたから手近な所で間に合わせようとしたがもっといい女だっている。そうだ。今来てる支店に美人の同期が居るんだ、ちょっとつんつんしてるが美人なのは……」
おいおいおいおい! そりゃもしかして私の事か? 美人と言われるのは嬉しいが自分のモノの様に扱って差し出そうと? ギルティだよ、ギルティ!
「もういい、さえずるな。ただ殺すのも生温い。一生苦しむ呪いを掛けてやる!」
具体的に言うと勃つと激痛が走る様にしてやる! こんな犯罪起こされちゃたまらないからね。やり方は分からないけど今の気分なら呪えそうな気がするよ!
後で聞いた話なんだけど、呪いにはどす黒い感情が必要で感情を司る闇の精霊がやってくれるんだそうな。ドライアドに「あまりやると闇の精霊に愛されて戻ってこれなくなるよ?」ってにこやかに言われたので以後気をつける事にした。
「来たれ、闇の精霊、この者のモノに悪夢を刻み込め!」
高らかに宣言すると何かが水島の下腹部に吸い込まれていって消えていった。そして水島の拘束を解くとガクリと彼は崩れ落ちた。気を失っているようだ。水島はそのまま放置することにして女の子に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
揺り起こして声を掛けた。
「ううーん、えっと、ここは……ひうっ!」
あれ? 気絶した……ってホッケーマスクのままだったよ!
急いで解除だ解除。ついでにピポパ、あ、もしもし、お巡りさんこっちです! 通報しておいた。五分以内に来るそうだ。出前迅速落書き無用。
「もしもーし、大丈夫ですか? 大丈夫?」
ペチペチ叩いて起こす。
「ううーん、えっと、あ、気のせい? ……とても怖かった」
可哀想に、震えてる。私は彼女をギュッと抱きしめた。
「あの、さっきの人は……?」
「あっちでのびてるわ」
「そうだ、警察、警察呼ばないと!」
「そうね。もう呼んであるからそろそろ来ると思うわ」
「何から何までありがとうございます!」
などと話してると警察が来た。警察には「そこの人が女子高生を路地裏に連れ込もうとするのを見かけて体当たりをしたら壁にぶつかったらしくて気絶した」と説明しておいた。
そのまま帰ろうとして女子高生に引き留められた。
「待ってください! あの、私、水無月澪って言います。お名前教えてください」
「私? 霜月ひとみよ」
「ひとみさん……あの、お姉様って呼んでもいいですか?」
なんか物凄く熱の篭った視線向けられた! なんとか宥めてそのまま別れる。今日は色々あったなあ。さてと、ラーメンでも食べて帰ろっと。




