13:ウソつきは友情のはじまり
昼食に行こうとしたら声をかけられた。
「ねえ、君、ちょっといいかな?」
先程太田君と話してた同期の人だ。
「なんでしょう、トイレならあちらですよ?」
にこやかに廊下を示す。
「いや、良かったら食事を一緒にどうかと思ってね?」
……めんどくさい。
「いえ、これからやる事もあるので買ってきて食べようかと思ってますので」
「ああ、それもいいね。ボクもそうしようかな」
やんわり断わったつもりなのに通じてない……だと!?
「あのー、単なるコンビニですからそんな珍しいものもありませんが?」
「食事って言うのは何を食べるか、よりも誰と食べるか。そう思わないかい?」
と、これみよがしにキメ顔で言う。えっ、何これ、キモチワルイ……
「あー、私、一人で食べるの好きなんですよ」
「それは良くないな。食事とはコミュニケーションだよ。一緒に食べる人がいないならボクと二人で食べよう!」
ダレカタスケテー、この人日本語通用してない!
「水島」
あ、救世主!
「ん? 太田? どうしたんだい?」
「いや、一緒にご飯でもどうかと思ってさ」
「気持ちは嬉しいんだけどちょっと取り込んでて……」
おい、食事はコミュニケーションじゃなかったんかい。
「太田君もご飯? シェフボン行くけど一緒に行く?」
「ああ、あそこのカレー食いたかったんだよね。なら霜月さんと行こうかな」
「えっ?」
「じゃあ行こっか」
「了解。ならまたな、水島」
ポカーンとしてる水島とやらを置いて太田君と食事に行く。彼は草食系なのか全然がっついて来ないので安心感がハンパない。
「あー、太田君、ありがとね」
「ん? 何が?」
「さっきの人の件」
「あー。水島の件? 悪いやつじゃないんだけどね。ちょっと女ぐせ悪いっていうか……」
なんか怖気が走ったんだよね。やっぱりかー。
「本店に居るんだけど、親が大口預金者でコネで入ったって話聞くし、上役の人も立場弱くて叱れないみたいだよ」
コネ入社は私たちの業界ではよくある話らしい。コネで入って預金してもらって沢山借りてもらうのが地方金融機関の処世術だ。地縁は大切なのだ。そうなるとなんか色々めんどくさそうだなあ……
「太田君はそういう浮いた話とかないの?」
ちょっと興味が湧いた。
「あー、うん、僕はそういうのあまりないね。好きな子なら居るんだけど」
「そうなの? 初耳だわ。どんな子?」
「いや、引っ込み思案だけど芯がしっかりしたいい子だよ。友だちのために行動できるとてもいい子。夢に近づくために努力のできる子なんだ」
「へえー、凄いんだね。そんな子がいるんだ。デートとかには誘わないの?」
「そんな、とんでもない。頑張ってるのを見てるだけで十分だよ! 忙しいからいつも会える訳でもないしね。ずっと応援してるから頑張って欲しいって思ってるよ」
そう語る彼の顔は非常に愛おしそうな輝きを目に宿していた。こんなにも好きになれるなんてお相手はすごく素敵な人なんだな。
「私はあんまりそういうの興味無いかなあ……」
「霜月さん、美人なのに勿体ないよね」
あれ? 私、美人なの?
「一般的な視点で言うと美人だと思うよ。だからこそ水島が気になったんだけど……」
「ああ、やっぱりわざと助けてくれたんだね」
「あっ、いや、まあ、その……聞きたいこともあったからそれだけじゃないんだけどね」
「聞きたいこと?」
カレーの最後の一口を水で流し込んで彼は言った。
「銀行強盗を霜月さんが捕まえたって話」
「あー……話してもいいけど理解してくれるかどうか」
「? どういう事?」
太田君には初日に耳も見られてるしいいよね?
「実はね、私、エルフで魔法も使えるんだ」




