11:信じる心が力になる
「でもまあ、どんな魔法が使えるか確認はしときたいよね」
そう言いながらハルは何冊か本を取り出した。……ラノベ?
「とりあえず普通にファイアーボールとかは使えそうかな? 興味があるのはワープ系とかの魔法だけど」
あー、うん、ファイアーボールは使えそうな気はする。ワープってどうやるのかね?
「ワープはだいたい時空系魔法って言われてるから空間をつなぐような感じでやるのがいいんだって」
「て、言われてもなあ……」
「やっぱりイメージの問題じゃないかな? ほら、迷路の端と端を折り紙で折って重ねるみたいな」
そう、魔法に必要なのはイメージ! とりあえずはハルの部屋と私の部屋を繋げる感じで。他のところだと誰かいるかもしれないし。イメージ、イメージ、イメージ。ハルの部屋のイメージ……また散らかってんだろうなあ。しばらく行ってないから今度また掃除しに行かなくちゃ。……じゃなくて、そういやまたカップ麺の空容器とか転がってるかもね。ちゃんと捨てなさいって言ってるんだけど「何かに使えるかもしれないから」って取ってるんだよね。何とかなんないかなあ……でもなくて!
「ダメだあ、イメージ上手くいかない。なんかハルの部屋が散らかってるかどうかばかり気になっちゃって」
「あー、うん。ソレハシカタナイヨネー」
「ところで本当に散らかってないよね?」
「……やっぱり時空系魔法は難しいかあ」
誤魔化しやがった!
「次はさ、やっぱり召喚魔法じゃない?」
「……何呼び出すつもり?」
「やっぱ最近の流行りはフェンリルとかドラゴンとかスライム辺りじゃない? 一番最初に呼び出すのはケルベロスっていうのもあったみたいだけど」
流行るほどに呼び出されてるらしい。
「じゃあ、何が出てくるか分からないけどやってみるよ」
私はそう言うと何か出てこい、と頭の中で祈った。のはまあいいんだけど魔法ってイメージ大事みたいだから具体的な姿分からなくて呼び出せない。うん、無理、ダメだこりゃ。
「これもダメかな」
「まあ、私自身出来ると思ってないしね」
「なんでよ! 信じる心が力になるって偉い人が言ってたじゃん!」
どこの怪しい宗教だよ!
「ならあとは……回復かなあ」
そう言うとハルはポケットからナイフを取り出して、
「よいしょっと」
親指の腹を切った。
「何やってんの!? 今薬箱を……」
「いや、魔法で治してよ」
むむっ、これはちゃんと治したい。とりあえず血を止めて傷口を塞がないと。血小板を集めればいいかな? でもどうやって……
「治癒魔法は光か水属性が多いらしいよ」
そうか、血流。水の精霊に止めてもらって……あ、止まった。なんか小さい水の精霊ね。んー、それとも血液の精霊? とりあえず血流止めてもらってる間に傷口塞ぐから血流の中から血小板だけ動かすイメージ……うん、何とかなりそう。よし。
「あ、治った。ありがとう! で、どうやったの?」
「血小板を凝結させてそこにフィブリン作って血を止めた」
「異世界語!?」
「いや、生物だよ。高校で習ったでしょ?」
まあ、ハルは聞いてなかったんだろうな。私も何となく覚えてただけなんだけど、まさか理科の授業が治癒魔法に活かせるなんて思ってもみなかった。どこで何が役に立つのか分からないね。ともかく、治癒魔法は使えるみたい。もっと重い傷だと分からないけど。治すのに医学知識とか必要そう。
「うーん、治癒魔法と攻撃魔法は使えそうだね」
「いや、攻撃魔法っていつ使うのよ……それに治癒魔法も多分軽い傷ぐらいしか治せないんじゃないかな?」
「道は険しいねえ」
その日は他の魔法も試そうとしたが結局成果が上がったのは治癒魔法の他には
温風の魔法(ドライヤーみたいに使う)
湯沸かしの魔法(火の精霊に沸騰させてもらう)
扇風機の魔法(風の精霊に吹いてもらう)
などのいわゆる「精霊の力」で出来る事(ハル談)だった。
それからしばらく魔法の事は置いておいて友人との休日を満喫したのだった。あ、明日はハルのうちにお掃除に行くことになりました。まったく。




