89話
真横に引っ張られるような落ちるような感覚の中、俺はある言葉を思い出していた。
『重い剣を使い誰よりも速く振れば斬れぬ物は無し』
この世界で初めて剣聖と呼ばれた男の晩年の言葉にすがり付くかのように、コウイチに近付く俺は石畳に突き刺さった大剣を掴み色の無い世界に駆け込んだ。
誰の言葉だったろうか
『で、続きだが衝撃は速度の二乗だから、取り敢えずスピードを出した状態で突っ込むと死ぬ確率が倍って事だ』
ふと頭に過る、聞いた事は無いが何だか懐かしく感じる男の声が頭を過り、俺は居るかどうかも分からない魔女に怒鳴り付けた。
「代償ぐらいくれてやるっ! もっと速く、もっともっと速く、もっともっともっと速くだっ! 」
俺の視界が真っ赤に染まる。
見える範囲が猫の額ほどになる中、コウイチはすぐ目の前まで来ている。
目を見開き戸惑いを隠せずこちらの方を見ているコウイチの目を見て、心の中で小さく謝った俺は今まで体感した事の無い速度の中、飛び上がった俺は右手でチカラ一杯握り締めた、この馬鹿みたいに重く大きい剣をコウイチの脳天目掛けチカラの限り振り下ろした。
あまりにも手応えが無かった……
まさか外したのかと、剣の先を見るとコウイチの股下の石畳を大きく抉り刀身の半分程が埋まっている。
慌ててコウイチの顔に視線を上げると、コウイチはピクリとも動かず、振り抜いた俺を見ている。
視界が赤に染まったまま動きを止めた俺の目の前で光の粒子が舞い、左腕に僅かな重みを感じて目をやれば慣れ親しんだ左手がいつの間にかそこに居た。
パキン……と小さな音を響かせたコウイチは臍の辺りを中心に光の粒子になっていく……
「お前、チートすぎるだろ……」
コウイチの小さな小さな呟きを残し、光の粒子は俺の目の前から風に流されたように、荊の蔦に巻かれている体の方に吸い込まれていってしまう。
「ったく、魔臓だけ斬るとかどんな曲芸だよ……」
光の檻から解放されたリオスが、ボサボサになった銀髪を手で撫で付けながら近寄ってくる。
「何だそれ? 」
「ん? 知らずに切ったのか? とんでもないな……まぁあれだよ心臓の魔力版だ」
リオスが説明してくれるが、何となく分かった様な顔をして聞いておく。
「なあ、最後にコウイチはあれに入って行ったのか? 」
「あぁ、魔力を練れなくなって自分の体に戻らされたんだろうよ」
よく分からないがそう言うものなのか?
リオスは当たり前みたいに言うがいまいち意味が分からない
「で、コウイチは死んだのか? 」
「いや……」
「クロやるじゃないか、アイツは死んじゃあいないね。まぁ死ぬより苦しい監獄門が待ってるがね」
フォルスを担ぎ通常サイズになったカールさんは楽しげに話に入って来る。
そうか……と、死んでないのかと変に安心した俺がいることにふと気付く
何となく皆に罪悪感を感じつつ周りを見渡すと、相変わらず青い顔をしているが何とか元気そうなディアナがシズネさんの隣に座り込んでおり、ハヤトの足は俺の左手のように戻ったみたいで貧血気味な顔色をしているが、まぁ運がいい男だし大丈夫だろう
俺は荊の蔦で出来た塊に近付き覗き込んで見てみた。
「てめえ、オレをどうする気だっ! オレこそが主人公だぞっ!! 」
俺を睨むと恨み言を言ってくるコウイチにカールさんがバッサリと斬り捨てる。
「魔王城の地下の監獄門に幽閉だよ死ぬまでな。あたいが法律さ、この魔王バフがね。残念だったな主人公」
カールさんが魔王とか何かほざいてるが、一体何を寝ぼけた事いってるんだか……
やれやれと面倒臭くなった俺の向いた先に、瓦礫の山の中を必死に走るおっさんがチラチラと見える。
……どこかで見たような……
「ハヤト、あれって助けたおっさんだよな? 」
「あぁ、あれはこの国の国王陛下ですよ。ハウル様です、クロさんを勧誘しろって言ってましたよ」
何だその面倒臭そうな話は……大体何の為に
「何で……? 」
「なんでも灰色の勇者とか何とか……」
ハヤトはとんでもなく面倒な話を持ってきたようだ……全く
慌てて思考を回転させディアナを確認すると動けそうだな……よしっ!
「ハヤト、転移の石あったよな、貸してくれっ! 」
強引にハヤトから奪った俺はディアナの元に駆け寄り、ディアナの手を離れないようにしっかりと握りしめた俺は皆に片手を上げる。
「じゃあな、先にトキヨミ様の所に行くからまた後で」
「ちょっ! 待ちなさ……」
ディアナの言葉が終わる前に、皆を呆然とさせたまま俺達は青い光に包まれていく……
「またなっ! 」
……………
こうして俺達の最初の冒険は幕を下ろした。
トキヨミ様の体が戻った後の一悶着や、ハヤトがフォルスと共に王都の復興にチカラを奮ったとかは、また後の話……
ご覧いただきありがとうございます。
処女作で色々気になる所もあると思います。
私の表現が下手で、思うようにクロ達を動かしてあげれなかったのが後悔として残っていますので、もう少し色々勉強をして是非ともリベンジしたいと思っています。
本当に読んで頂きありがとうございました。




