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88話

 私に声を掛け飛び出したシズネちゃんは、体の芯が凍るような殺気を放ちながらコウイチに飛び掛かって行った。

 コウイチは馬鹿みたいに大きい剣を地面に突き刺すと、最初から持っていた小回りの効きそうな剣で、先程までクロと戦っていた時とは別人の様な動きを見せている。


「クロさんに何をしたのっ! 」


 シズネちゃんの問いに答える事もせずに、どこか淡々と剣を捌くコウイチに私は魔法を放つ。

 コウイチの足元に荊の蔦を生やし絡み付けるも、自身に発動した風の魔法で後ろに吹き飛び躱したコウイチにハヤトの矢が雨のように襲い掛かるが、頭上に展開した魔法陣に阻まれてしまっている。


 どうしたらいいの?とリオスさんとカールさんを見てみると難しい顔をし腕組みして何やら会話をしているみたい。


「全くっ! 」


 二人をジト目で睨み付けつつ、人形の様に動かない左手の消失したクロを見て私はふと思ったの。


「ねぇっ! アイツの体ってクロの左手を吸収したから実体化したんじゃないの? 」


 私の言葉が届くよりも先にハヤトの両足が消失していた……

 崩れ落ちていくハヤトに駆け寄ったシズネちゃんの胸を背後からコウイチの剣が貫く。


「余所見はダメだよ」


 どこか他人事のように吐き捨てたコウイチは、シズネちゃんの背中に足をかけ剣を引っこ抜きつまらなそうに鼻を鳴らし離れて行く。


 両足の膝から下を失い血の池を作るハヤトと、胸と背中から血を噴き出すシズネちゃんを確認した私は心の中でもハヤトに謝りながら、シズネちゃんに駆け寄り治療を始める事にした。




 ーーーーー


 何だろうか?

 頭の中がぼんやりとする。

 そう言えば記憶がどうとか言っていたような気もするが……俺の記憶が戻るのか?


「なんじゃ? お主、消えた記憶に未練があるのか? 」


 不意に俺の意識の外から聞こえて来たトキヨミ様の声に、ドキリとしてしまい何だか恥ずかしくなった俺は声を荒げてしまう。


「っ……そらそうですよっ! 何処で産まれたとか何をしていたとか……親とか友達とか……」


 声を張り上げたものの、自分のよく分からない感情に段々と尻すぼみになってしまった俺に、目を細めたトキヨミ様が顔を見せ


「そうか、どんな記憶か分からぬが大事なんじゃの。……しかしの、お主は記憶と引き換えの能力(ギフト)を貰ったんじゃろ? 返すのか」


 そう……俺の速く動ける、色の無い世界で動けるのは能力(ギフト)のお陰だ……

 これのお陰で今の俺があるのは間違いない。

 けど……無くした記憶も……


「俺は大事な人達の記憶が何も無いっ! 」

「お主は森で倒れていた所からの記憶はあるんじゃろ? 何をしてきた? 何があった? 誰と知り合った? 」


 トキヨミ様の優しい問い掛けに俺は冷静になり、ふと考えてみた。


 ディアナに助けられ……ゴードンと知り合い……フォルスと仲良くなり……カールさんを引き連れ……村の連中と……ハヤトと……森人達と……トキヨミ様と……落雷様にエント達と……シズネさんと……ドワーフのおっさんと……リオスと……


 何だ……仲良くなった奴等も、大事な奴等も、守りたい人もこんなにいるじゃないか。

 皆の顔が脳裏に浮かぶ……俺には何も無いと思い込んでいた……ふと気付いた時に俺の頬に水が流れる。


「確かに失ったかも知れんが、得たものや関係は沢山あるようじゃの。」


 俺の涙をそっと拭き取り、トキヨミ様は俺の左胸を人差し指でトンッと押す


「さぁ戻るがいい、皆が待っておるぞ。勿論じゃが妾も待っておる、次は森で会おうぞ」


 俺の意識がゆっくりと静かに暗転していく……


 呻き声が耳につく、静かに目を開けた俺の視界には胸に夥しい量の血を付けて動かないシズネさん、光る檻に閉じ込められたリオスにフォルスを庇う様に倒れているカールさん……ディアナはっ! と目をやると真っ青な顔をして両足を失ったハヤトを治癒している。


 どう言う状況かは分からないが、コウイチが起こした惨劇だと想像するのは容易かった。


「っ! コォウイチィィィっ!! 」


 惨劇を目の前に頭に血が上った俺は咄嗟に色の無い世界に飛び込み、何の計算も無く右手に持ったままの落雷様から貰った剣をコウイチに目掛け振り下ろす。


 先程よりも何だかよりいっそうと実体感のあるコウイチは小回りの利きそうな小振りな剣で俺の斬撃を流しそのまま斬り掛かってくるが、ディアナの負担を考えるとこれ以上の魔力の消費は不味いと大きく躱す。

 が、コウイチの唱えた魔法だろうか? 石畳を突き破り飛び出して来た石柱に右手一本で持っていた剣を弾き飛ばされてしまった。


 大きく舌打ちをした俺を見て嫌らしく笑ったコウイチは


「戻るとはねぇ。まぁあ遅かったけど」


 と、嫌味を一つ溢し魔法陣を展開すると、俺を強制的に引き寄せ始めた。


 大地が横にでも在るかのようにコウイチに引き寄せられる俺の目に、ディアナ程ある両刃の分厚く大きな剣が映った。

 

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