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86話

 二人に言われディアナの木まで来て、改めて見ると大きな立派な木だ。

 リオスはとんでもない魔力を秘めているとか言ってたが、近くに居るだけでどこか安心する様なそんな気がする。


「……起こせ……か……」


 起こせと言われても、そもそもどこからどう見てもただの木で、ディアナがどこかに居るとは思えないが……

 恐る恐る触れてみた俺はこの木が何だかエント様のような、何処か安心するし安らげる気がした。


「……ディアナー……」


 触れながら呼び掛けてみたのだが、木なんだから当たり前だけど返事は無い。

 だよな……と、どうしたものかと木にもたれ掛かり考えていると、ドクンと一度小さく脈動したのが背中から伝わってくる。


 慌てて振り返り幹に手を当てた俺は、もう一度呼び掛けてみる。


「……ディアナ? ……ディアナ……ディアナっ! 」


 馬鹿みたいに叫んでみた俺の声が届いたのかどうかは分からないが、突然に木の幹が光を放ち徐々に大きさを変えていく。

 想像の上を行く状況に呆気にとられ、ただ呆然と眺める俺の耳に嬉しい怒声が響く。


「煩いわねっ! 眠れる女の子を起こすのは常識的に考えて熱いベーゼでしょっ! 馬鹿っ! 」


 光が少しずつ収まる中、目の前にはいつもと変わらず不機嫌そうな顔をして腕組みをする全裸のディアナがいた。

 呆けている俺の顔を少しばかり胡散臭そうに見たディアナは鼻を鳴らし


「いつまでも呆けて無いで……」

「あのさ……取り敢えず俺の服でも羽織ってくれないか? 目のやり場に正直困る……」


 また怒鳴り出しそうなディアナに顔を背けつつ、そっと鬼族のゴードンさんから貰ったプテルスの上着を掛けてあげる。

 俺が着ても膝下位まであった上着はディアナの足首が辛うじて見える位の長さがあり、裸の上に一枚では少々心許ないが見える事は無いだろう。


「よしっ! さあ……どうした? 」


 裸も隠れたし取り敢えず早く戻らないと、と声を掛けたのだがディアナが俯いたままプルプルと震えている。

 よくよく見ると白い髪の間から赤い耳も見える。

 これは何か怒られるな……と、思っていた俺の意表を突き何も言わずに駆けて行く。


「っと待てってばっ! 」


 慌てて追い掛ける俺の事を見向きもせず駆けて行く、ディアナの後ろ姿を見て久しぶりに左胸が暖かくなった気がした。


「てめえらイチャイチャしてんじゃねぇっ! ディアナ、エントの魔法でアイツの足を止めろっ! 」


 戻るなり響くカールさんの怒声に、慌てて詠唱を始めるディアナを横目にコウイチへの攻撃に加勢した。


 実体のある黒くヒビ割れた肌のコウイチにハヤトとシズネさん、実体の無い黒髪のコウイチにリオスとカールさんが攻撃をしているが、実体のあるコウイチは傷を付けても蠢く肌のせいですぐに治り、実体の無いコウイチは攻撃が通らない。


 俺はリオスの槍に続き剣撃をコウイチにしてみるが、無表情な黒髪のコウイチはまるで亡霊のように身動きもせずただそこにいて空気を切る音だけが辺りに響く。


「おいっ! 不死者下がれっ! 」


 リオスの叫びに咄嗟に後ろに跳んだ俺達の足元に、緑色の大きな魔法陣が現れたと思うと無数の蔦がコウイチに絡み始める。

 皆がそれぞれ適正な距離を空けながら見守る中、以前よりも滑らかに魔法を使うディアナにチラリと視線をやり、実体のあるコウイチを見ると無数に伸びた荊の様な蔦に全身を巻かれ身動き一つ取れずにいる。


 蔦の中から何か聞こえてくるのを無視して、そのコウイチを指差した巨大化して男っぽくなったカールさんは忌々しそうに眺めながら


「こいつはあたいが連れて行くからな、監獄門にブチ込むっ! 」


 監獄門と言うのがよく分からないが、まぁリオスの顔を見る限り任せておいた方が良いだろう。

 で、肝心の実体のない黒髪のコウイチだが、蔦に絡まれる事は無かったようだが、相変わらず表情の無いまま人形の様に佇んでいる。


「ディアナ、見えないだろうけどコウイチがここに……」

「見えるわよ。多分トキヨミ様の加護のお陰とは思うけど……うん、確かに居るわね……」

「……トキヨミ様の加護って凄いな……」


 まさかのディアナの発言に驚きを隠せないが、取り敢えず見えないハヤトやシズネさんに倒れてるフォルスは置いておくとして、リオスとカールさんそれにディアナと、このコウイチをどうするか決めなくては。


 リオスに聞いてみるかと口を開けようとすると、リオスが手を出して来た。

 不思議に思いリオスを見ると、一度カールさんに視線をやった後、小さく呟いた


「おい、この人間の周りに魔法陣なんか浮いてたか? 」


 リオスの言葉に釣られた俺達が目を向けると、確かに先程迄無かった魔法陣が一つコウイチの目の前に浮かんでいた。


 驚きお互いを見回す俺達の目の前で、黒髪のコウイチは静かに少しだけ口角を上げた。

 ぞわりと背中を悪魔が撫でたような、気持ち悪い感覚に襲われた俺はディアナを庇いつつ叫んだ。



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