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84話

 シズネさんの亡骸を前に、俺は変な違和感を感じていた。

 よくよく考えてみると、俺に『剣山』を教えたのはシズネさんで、そのシズネさんが暗闇とは言えそんな簡単に『剣山』で死ぬだろうか?


 灯り一つ無いこの暗闇で、俺はさらに近付き触れれる程の距離まで近付き目を凝らし観察をする。


 真っ直ぐに伸びた黒髪、眉の上で横一文字に切った前髪……そしてセーラー服って言ったか、特徴的な服に腰に差した二本の……


「あれ? 刀が無い? 確かブシの魂とか言って肌身離さずだった筈……」


 思い返している途中に右目の視界が一瞬だけ砂嵐のように乱れ、俺は咄嗟に大きく距離を取った。

 その途端、『剣山』に串刺しにされ切り刻まれたシズネさんが乱立した剣だけを残し姿を消した。


「え? なんだっ? 」


 いまいち状況が飲み込めずに混乱する俺の足元が不意にキラリと光り、背中をぞわぞわとした嫌な感覚が走った俺は咄嗟に色の無い世界に飛び込み駆け出した。


 真っ黒闇の中で先程まで俺が居た場所に無数の刀が生え、更に上から無数の刀が降り注ぐ……


「これは『剣山』と『剣山・裏』……殺しに来てるよな……」


 色の無い世界を駆ける俺の背中に嫌な汗が流れる。

 シズネさんだよな。と考えつつ走る俺の目の前に剣撃が一閃走る。


「うぉっ! 」


 転がるように躱し色の無い世界から出された俺の前に、心臓が潰れてしまいそうな殺気を放つシズネさんが構えていた。


「また、クロさん擬きなの? 」


 小さく呟いたシズネさんは、腰だめに刀を鞘に納めたまま構え目の前から消える。

 右目だよりに微かに追えた俺は剣を抜き、横凪ぎの一閃、打ち下ろしの一閃を辛うじて剣で受けるが、それを受けシズネさんは長い髪を靡かせニヤリと凄惨に嗤う。


「今度の擬きはちゃんと動けるのねー」


 大きく後ろに跳び、臍の前……正眼に構えたシズネさんは大きく息を吸い踏み込んで来る。

 相変わらず初動の無い、猫科の動物のような獰猛さを感じさせる動きは間違いなくシズネさん本人だろうと考える俺の胸に、矢の様に飛び込んでくる刀を体を捻りかわした俺の耳に聞いた事の無い技名が聞こえてきた。


「『天道鳥兎人中下昆秘中活殺水月関元釣鐘・九殺』っ! 」


 躱した筈の俺の頭頂部から始まり、体の中心部を激痛が走り血を吹く。

 痛みに叫び声も出ず息を吸う事も出来ず血だまりに崩れ落ちる俺を、肩で息をするシズネさんが見下ろす。


「『九殺』で死なないなんて、本物そっくりねー」


 口調は楽しげだが、体の芯から凍えるような殺気を抑える事もせず刀を逆手に持ち直したシズネさんは、一拍置く事も無く俺の左胸に刀を下ろす。


 と、前触れも無くガラスの割れるような音か聞こえ、刀を止めたシズネさんが振り返り俺は何とか助かったと、痛む体で芋虫のように転がり離れる。


「……お前ら馬鹿か? 味方で殺し合いかとは随分元気がいいな」


 小馬鹿にしたような声に目を向けると、リオスとカールさんと思われる大きな何かがフォルスを担ぎ、ハヤトを引き連れ何もない真っ黒な空間から突然現れた。


「なぁ剣聖よ、その芋虫は一応本物だぞ」


 そう言いリオスが俺のすぐ側まで浮くように移動してきて、くそ不味い液体を口に流し込んでくる。


「ぶっふぇっ! 」

「おいおい吐き出すなよ、有り難く飲んどけよ今のお前は不死じゃ無いからな」

「え? ……本物のクロさんっ!? 」


 あまり不味さに吐き出そうとする、俺の口を押さえ付けるリオスにとんでもない事を聞かされ、横ではシズネさんがあたふたとして……

 混沌とした今の状況だが、合流出来た事に妙に安心している俺がいた。


「さてお前ら、あたいはいい加減この茶番を終わらせたい訳だ。あのコウイチって奴はとっとと殺す。いいな」


 やたらと巨大で筋肉質になった羽根のあるカールさんは威圧感のある声でそう言うと、俺達の返事を待つこともせずに大きく飛び上がったカールさんは、右手で真っ黒な何かを掴むとそれは突然溶け始め、その溶けた物を左手で固めていき門を創り出す。


「ほら行くよっ! 」


 唖然とする俺達を尻目に、一度降りてきたカールさんはフォルスを担ぎ門に消えていく。


「……ん、行くか……?」


 何だかよく分からない状況に慌ててカールさんの後を追い掛け門に飛び込むと、そこには紫色の煙を上げる王都が広がっていた。


「なぁリオス、カールさんって何者なんだ? 」

「……自分で聞け。オレは言いたくない」


 カールさんの凄さに思わずリオスに訊ねて見たのだが何故か教えてくれず、カールさんに聞こうにもスタスタと歩いて行ってしまうので聞くに聞けない……


「まぁ、終わったら聞くか」


 聞くのを諦めた俺の視線の先、カールさんの前方に暇そうに頬杖をつき教会跡の瓦礫に座っているコウイチが見える。


「ふうん、出て来れたんだ」


 コウイチが小さく呟いた。

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