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81話

 コウイチのその呟きが、まるでスイッチだったかのように大きな地響きと共に王都全体を包む黒い光の帯が地面から空に向かい伸びる。


「ハヤト、いくらお前の運が良くてもこれからは逃げられないよ」


 恍惚の表情を浮かべ伸びてゆく光の帯を見ながらコウイチは呟く。

 その呟きに反応するかのように光の帯は点滅を始め、やがてそれは肉感のあるものに次第に変わっていき、点滅が鼓動に変わる。


「どうだい? 凄いとは思わないか? 俺達は今、女神の体内に居るんだ」


 まるで劇役者の様に大きな身振り手振りで、コウイチ自身の溢れる程の感動を表現しているようだが、俺達は正直それどころではない。


 俺とシズネさんはこの黒くて脈打つ壁に突破口を開けるべく斬撃を繰り返しているのだが、傷付いてはすぐさま治ってしまうこの状況に体力だけを消耗していく。


 リオスの色々な術もフォルスの炎もハヤトの矢も傷を付ける事は出来るのだが貫通とまでは行かず、すぐ元の脈打つ肉壁に戻ってしまう。


「見事なものだろう? ……さてと、それじゃあ行きますか」


 まるで近所に遊びにでも行くかのように軽く言うコウイチは、ハヤトの目の前に転移すると胸ぐらを掴み引き摺り倒し


「強運の勇者……いや豚メガネ、先ずはお前だな」


 そう言い指先に小さな光を出し、そのまま左胸に押し当てた


「ぼふぉっ!」


 吹き出したハヤトは大きく跳ねると白目をむき、ピクリとも動かなくなってしまう。

 ハヤトの服の左胸の辺りが小さく焦げて鼻をつく臭いがしてきた。


「ハヤトさんっ! 」


 いつの間にか炎を収めていたフォルスは、ハヤトに駆け寄り抱き締める。


「さて、それじゃあ次はロリ巨乳の番だな」


 そう言いフォルスに手を向けたハヤトに、鋭い視線を送り魔力を練るフォルスだが一向に炎が現れない。

 手を翳したまま、必死に魔力を練るフォルスをニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべ見ているコウイチに俺は『剣山』を放つ。

 シズネさん程の数の剣は生やせないが、それでも数百本の剣をコウイチの足元に目掛け生やすが、まるでそこに実体が無いかの様にコウイチの足元を抜けフォルスとハヤトの両脇に抜けて行く。


「バカか? 何度やっても同じだ。じゃあなロリ巨乳、豚メガネによろしく」


 そう言いニヤついたコウイチが手に凝縮した魔力を放とうとしたその時、おもむろに起き上がったハヤトが手にした矢をコウイチの右足に突き刺した。


「ハヤトっ!」


 痛みにコウイチの魔力は分散し、慌てて後ろに飛び退いていく。

 矢が刺さったままの足からは血が滲み、初めて攻撃が通った事を示していた。


「ふむ、僕のフォルスたんに手を出そうとした罰ですかね? 次はどこに刺してみましょうか? 」


 大声を出して泣くフォルスに抱き付かれながら、ハヤトはコウイチに声を掛ける。


「ハヤト何でっ!? 」


 俺の言葉を聞き、服をめくったハヤトは中に着込んでいた鎖かたびらを見せなが


「コウイチの攻撃が雷の魔法だったみたいで、どうやら鎖かたびらの表面を電気が流れたようですね。今日も運が良いみたいです」

「はあっ? ふざけんなっ! そんな事でっ! 」


 ハヤトの言い方が余程気に入らなかったのか、激昂するコウイチの矢が刺さったままの右足を俺が、左足はシズネさんが怒鳴り散らす隙を付き太腿から切断する。


「ぐあぁあぁっ!! 」


 痛みにのたうち回るコウイチの足から剥がれるように光り輝く女の人の足が落ち、瞬く間に干からびたミイラの様になり地面に転げ落ちると、王都を囲っていた肉感の脈動する壁が音もなく静かに消えた行く。


「何でだっ!」


 壁が無くなり、ヒステリックにコウイチが叫ぶ中、俺達は各々の武器を構えにじり寄る。


「愚かな人間よ、古の賢者の魔法なら賢者の体を手放せば消えるのは当たり前だろう」


 リオスが諭すように呟いたその言葉の何かが逆鱗に触れたのか、コウイチはまたしても無数の魔方陣を展開し始めた。

 自身の体を囲むように四方八方に展開した魔方陣はコウイチの無尽蔵な魔力により、最早数えるのも億劫になる程の数の魔方陣が色とりどりの光を放つ。


「ちょっとばかり計算が狂ったが、予定通り皆殺しにしてやるよっ!」


 そう唾を撒き散らし叫ぶコウイチのすぐ後ろにまるで重なるように、出来の悪い絵を見ているような右目にだけもう一人のコウイチが見える。

 黒い髪の俺やハヤトと同じ色の肌をしたコウイチが、黒くヒビ割れた肌をした翼のあるコウイチに重なっている。


「……なぁ……リオス、見えるか? 」

「何だ今頃やっと気付いたのか? 」


 右目にだけ見えると言う事はと、すぐ側にいるリオスに訊ねてみると、少しばかり呆れたように目を細め小さく返事を返してきた。


「あれが多分本体なんだろうが、実体が無いな、どこまで人間を捨ててるんだアイツは」


 リオスの感嘆とも取れる呟きは俺の耳に妙にこびりついた。



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