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80話

 遠距離攻撃が出来るハヤトはありがたいし、あの炎は多分フォルスの助力だろう。


 離れた場所に居て弓を引くハヤトと、その横で炎に身を包みフォルスが立っている。


 二人に目を向けていた俺の頬を剣が掠め、慌てて身構える俺の前で目を吊り上げ怒りの形相の剣聖が、左肩に刺さった矢を荒々しく抜き捨て腰だめに剣を構える。


「クロさん不味いですよっ! 」


 シズネさんの叫びよりも早く走り出した俺を、嘲笑うかのような剣聖の叫びが聞こえてくる。


「『剣山』っ! 」


 俺の目の前に生えた数千はあろう剣が、ハヤトとフォルスを中心に放射状に乱立する。


「ハヤトっ! フォルスっ! 」


 目の前の惨劇に声を上げた俺だが、ふと空気が暴力的なまでに熱を帯びている事に気付く。


 押し寄せる熱風に肌の水分が持っていかれるのを感じながら、思わず足を止め目の前の光景に見とれてしまった俺の前で、剣聖が作り出した放射状に広がる剣の山が中心部から赤熱し、その形を変えていく。


「剣聖さん知ってましたか? 鉄も溶けるんですよ、ドワーフの常識です」


 赤熱した剣の塊の中から、炎を纏うフォルスと汗をかきながらも何故かそれほどは暑く無さそうなハヤトが顔を見せる。

 あまりの熱気に弓を引くハヤトがゆらゆらと揺れているように見える。。


 少しばかり顔をしかめ汗を流す剣聖が次の剣撃を放つ前に、勢いに任せ懐に踏み込んだ俺は剣聖の腹を横凪ぎに斬り付けながら叫び叩きつけた。


「くそったれっ! 『剣山』っ! 」


 やけくそ気味に発動した俺の『剣山』は剣聖の腹を切り裂きながら発動したからなのか、まるで剣聖の体の中に発動したかのように、肉を突き破り血を吹き出しながら剣聖の体から数十本程の剣が飛び出す。


「ぐぉぉっ! 」


 流石の剣聖も体を突き破る剣には勝てないのか、大きく吼え血の雨を降らせながら膝をつく。


 その隙を付き横凪ぎの剣を振り切った俺の上から、シズネさんが飛び掛かり上段からの打ち下ろし、リオスが後ろから剣聖の首を飛ばし、ハヤトとフォルスの矢が剣聖を燃やし尽くす。


「「……はぁ……はぁ……」」


 全身から剣を生やし頭部を飛ばされ、目の前で燃え尽きようとしている剣聖を前に俺達は息を切らせ、ただただ呆然と見るしか出来なかった。

 集中し過ぎたのか、こめかみがズキズキと鈍い痛みを放つ。

 あれ程の男がこんなにアッサリと命を飛ばした事が半ば信じれず、気が抜けたまま目を離せば動き出すのではないかと見続ける。


「あれ? 勝ったんだ? 流石の剣聖もチートの集団には勝てないか、まぁいいや」


 剣聖の亡骸を半ば放心して見ている俺達に、魔界の門から歩いて来たコウイチは剣聖だった物を一瞥してそう吐き捨てた。


「どうする? 全員で掛かって来ていいよ。疲れてヘロヘロだろ? 」


 無防備に俺の目の前まで歩いて来た、黒くヒビ割れた肌で皮膜のある翼を生やし金色の鎧を着たコウイチは、おもむろに両手を広げ軽薄な笑いを浮かべながらそんな事を言う。


「あぁ、俺達全員でお前を殺してるから心配するなっ! 」


 コウイチの軽薄な笑いを見ていると、ディアナが倒れた時の笑い声が頭を過り、自分が思うよりも怒りの籠った声になってしまった。

 笑みを浮かべたままコウイチは静かに浮かび上がり、何やら詠唱を始める。


 その光景に危機感を感じたのだろうシズネさんは素早く『剣山・裏』を展開しコウイチの頭上に数えきれない程の刀を落とすが、ほんの一本も、ただの一掠りさえもする事無く通り過ぎていき、ハヤトの放つ矢もリオスの打ち出す黒い光さえも、まるでそこに何もかも無いかの様にただただ通り過ぎていく。


「まぁ待ちなよ。少しは落ち着いたらどうなんだい? 」


 詠唱を終えたのかコウイチは軽口を叩くと、自身の頭の上に巨大な禍々しい魔方陣を一つ展開した。


「オレの両足に宿る古の賢者が面白い魔法を教えてくれてね」


 魔方陣は、コウイチを通り抜け魔界の瘴気に侵され紫色の煙を上げる地面に吸い込まれて行く。

 何が起きるのかと身構える俺達を嘲笑うかのように、魔方陣は二三度点滅をするとその姿を消してしまった。


「え?」


 誰の声だろうか?ひょっとしたら俺の声かも知れないが、消えた魔方陣は何かを起こす訳でもなく、完全に消えている。

 呆然と見ていた俺は、はっとコウイチの顔を見るが相変わらずの軽薄な笑いを浮かべている辺り失敗と言う訳では無いのだろう。


「何をしたんだっ! 」

「まぁそのうちだから見てな」


 何とも言えない内心の不安を吐き出したのだが、コウイチは相変わらずと軽薄に笑っている、が……何だろうとてつもなく嫌な予感がする。


「皆さん僕信じて逃げて下さいっ! 」


 ハヤトの焦った叫びが聞こえたその時、コウイチの表情はは糸をひくような凄惨な笑みに変わっていた。


「さあ、始めようか」





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