78話
剣聖は何度か呟き剣を振ると俺に向き
「たまには人の話を聞いてみるものだな、これでまた一つ上がれた気がする」
そう言い口角を上げると次は腰だめに剣を構え腰を落とした。
「……嘘だろ……」
俺は驚愕の声を上げざるをえない。
小さく呟いた剣聖の前に無数の剣が生えたのだから……
「なるほど、少しばかり鍛練が必要なようだな。これはいい、黒髪の二人よもっと見せてくれ」
俺とシズネさんは金髪の剣聖から視線を外せずにいた。
目の前で見せた剣技を教わるまでもなく、易々と使うこの男と戦うのに剣技は使えない……
流石は我流で剣聖までなった男なのか……
「……クロさん、何この化物……多分『剣山・裏』もその気になれば使えるよね……」
「この人が多分、歴代最強の剣聖だと思う……見取りが巧すぎる」
小さく会話する俺とシズネさんを呑気に見ていた剣聖だが、瞬きをした瞬間にシズネさんの眼前に現れたかと思うと、小さく初動の無い突きを放つ。
二本の大小の刀を交差させ、咄嗟に受け止めたシズネさんがその質量の違いか弾き飛ばされ、地面を土煙を上げ転がる。
「話はもう良いだろう? 続きを始めていいか? 」
何の気負いも無く凛と立つ金髪の剣聖に俺はただただ、焦りを覚えていた。
本能が逃げろと、こいつには勝てないと訴えてくるのを感じながら、震える膝を叩き睨み付ける。
「何だ? 震えてるのか? 」
「武者震いだよっ! 」
とても不思議そうな顔をして聞いてくる剣聖に吐き捨て、俺は色の無い世界に飛び込む。
最短距離を走り剣聖の腹に全力で剣を叩き付ける。
僅かに躱された俺の斬撃は剣聖の左脇腹を少しばかり抉り、そのまま返す剣で流れるように左脇の下から首の皮を切り裂き、頭頂部に剣を叩き付ける瞬間に剣聖と目が合ってしまった。
「見付けたぞ」
血化粧の剣聖は糸を引くようにニタリと口を歪めると、色の無い世界にいる俺にすら見えない剣筋で、まずは胸を一閃……腹を……腰を……足を腕を首を……
瞬きすらする間が無い速さで、俺の体に幾本もの赤い線が入り剣聖が剣を引く。
俺が引き摺り出され石畳に落ちた瞬間に、全ての赤い線が俺の体から血の雨を降らせる。
「ガハッ! ぐぐっ」
血を吐き呻く俺を見下ろし、剣を突き付けた剣聖は
「楽に死ねんとは不死者とやらは大変だな。で、お前が何を知ってるか教えて貰おうか」
「剣聖さんよ……さっきから言ってるだろ……トキヨミ様しか分からねぇよっ!」
見下ろし、気を抜いている様に見えた剣聖に治った体を酷使し、剣を突き付けたのだが見え見えだったようで蹴り飛ばされてしまった。
剣聖は弾き飛ばされた俺の剣を拾い丹念に眺めると
「いい剣だ、これなら耐えられそうだな。新しい術をお前に見せてやる、後で感想でも聞かせてくれ」
そう俺にボソリと呟いた剣聖の金色の髪の毛が逆立っていく。小さくバチバチと何かが弾けるような音が聞こえて来て、その音の発生源の剣聖は俺の剣を持ったまま高く高く飛び上がった。
「『落雷』っ! 」
見えない程の高さまで飛び上がった剣聖の声が聞こえるより速く、俺の体に凄まじい熱量が降り注ぎ意識が暗転しそうになった瞬間、見えた光景は何かに弾き飛ばされる金色に輝く剣聖だった。
……………
意識が戻った俺の視界に、映ったのは水の膜に包まれ赤い顔をしたディアナが、口から血を流しながらも俺を抱きしめていて、その胸からは両刃の切っ先が飛び出しその剣の柄を口の端から血を流す剣聖が握っている光景だった。
「クロ、ごめんね……邪魔しちゃった……」
ゆっくりとディアナを包む水の膜が消えていく……
ーーーーー
クロと剣聖の戦いを一番遠くから見ている私にもクロの劣勢は分かる……
水の膜を展開しながらもガクンガクンと持って行かれる魔力に、クロがどれ程の怪我をしているのか目を閉じていても分かるわ。
クロと剣聖の戦いが激しくなった頃から魔人達が再び暴れ出し、皆一様に戦いの中に向かってしまいクロを助けれそうな仲間はいない……
どうするべきかしらと私が考えていた時、剣聖の叫びが聞こえ顔を上げると雷の魔法に包まれた剣聖がクロに向かい上空から降って来た。
雷を纏った剣聖はクロを焼き切り、消し炭にしようとしている……それを見た私は自分でもよく分からないけど咄嗟に、またクロが消えてしまう……またこの暖かい繋がりが消えてしまう……と、トキヨミ様の枝を向け無詠唱で唱えた魔力の塊を、燃やし尽くそうとする剣聖にぶつけ弾き飛ばすとそのまま夢中でクロの元に向かってしまったの……
魔力の尽きそうな私は兎に角夢中で走り、この胸にクロを抱きしめ小さく願ったわ
けどね……起き上がった剣聖の方が早かったみたい。
胸から剣の生えた私に出来る事は貴方を抱きしめる事と貴方に謝る事
「クロ、ごめんね……邪魔しちゃった……」




