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73話

 私の魔法で地面から吹き出した水柱は残念ながらコウイチの奴に当たる事は無かったけど、盛大にアイツの足元が濡れてくれたわ。

 私は詠唱していた雷を水浸しの教会横に落とす。


 直撃しなくてもいい、リオスさんなら避けるでしょ。アイツの動きを止めてくれるなら何だっていいわ。


 耳を裂く轟音が聞こえて来たのを合図に私はアイツ目掛けて駆け出した。

 光の槍を呼び出した私は、脇目もふらずアイツ目掛けて走っていたのだけど、リオスさんと可愛らしい顔をした羨ましいぐらい真っ直ぐな黒髪の女の子に止められてしまった。


「まてっ!」

「待って下さいっ!」

「何よっ! リオスさん邪魔しないでっ! ……ええと……」


 勢い任せに突っ走る予定だった私は、気持ちを削がれた感じで仕方なく足を止めた。


「ええと……あの……黒髪の一族さんですか……?」

「あっはい。お姉さん美人さんですねー、シズネって言います。この銀髪の亜人さんは知り合いですか? 」


 何だかマイペースな人だなと思ったし、今はそんな状況じゃ無いんだけどなぁ……

 けど、無視も出来ないし困ったわね……


「あっディアナです。リオスさんは助けてくれたと言うか仲間? なのかな? 本当はいっぱい話したいんですけど、コウイチを倒して仇を討たないといけないので……」

「おい魔女、仲間から聞いて無いのか? 」

「何がよっ!だから……取り敢えず止めないで下さい」


 先を急ぐ私の言葉にリオスは頭を抱えてしまい、シズネちゃんは変に食い付いて来る。


「随分不穏な響きですけど、仇ですか? 」

「そう、私の大事なクロがアイツに消されたの……」

「クロ? ……え? …白い髪……魔女……ひょっとして灰色の髪の不死者? 」


 私は溢れそうになる涙を堪え静かに頷く。

 何でシズネちゃんがクロの事を知っているのか、少しだけ気になったけど……


 私の頷きを見て少しばかり黙り込んだシズネちゃんから突然、嵐のような殺気が溢れる。

 膝が震える感覚を押し殺しシズネちゃんが見ている先、コウイチに私も目をやった。


「おいシズネっ! オレに殺気を向けるのやめろ、敵はそいつら……」


 私の魔法が効いた気配も無くニヤニヤと私達を眺め、話に入って来たコウイチの腹部が突然横に裂け血が噴き出す。

 今まで私の前に居たシズネちゃんがコウイチの横に立ち、見ているだけで気を失いそうな殺気を放っている。


「……ねぇリオスさん、シズネちゃんどうしたの……」

「何が切っ掛けかは知らんが、あの人間死んだな。あの女あれでも剣聖だからな」


 私達が話してる間にも次々と、コウイチの体に致命傷になり得る深い切り傷が増えていく。

 やっと合流して来た三人も、あまりのシズネちゃんの剣幕に話せずにいると、空気を震わす程の声でシズネちゃんが吠えた。


「お前っ!わたしの弟子をっ!クロさんを殺したのかぁぁぁ! 」


 叫びと共に繰り出す斬撃に、コウイチの姿はなぜ生きているのかわからない程の傷を負いながらも魔法を発動したのか、空中に浮いた大きな禍々しい黒い扉が現れるとシズネちゃんの隙をついてその中に逃げ込んでしまった。


 殺気が消え肩で息するシズネちゃんの元に走った私はクロとの会話を思い出した。


『「実は森人の村の外れで剣を教えて貰ったんだ」

  「ふぅん。森人に剣の達人なんて居たのかしら? 」

  「いや、黒髪の女の子……」

  「ふんっ! 」 』


 そうか……シズネちゃんだったのね……


「……シズネちゃん、貴女だったのね……クロが剣の達人に……」

「うぅディアナさん……ぅぅ」


 やっぱりクロの顔が浮かぶと涙が止まらない……私達は抱き合い二人で涙を流した。


「……あーもしもしお嬢さん方……泣いてる所、実に申し訳ないが灰色の不死者は生きてるぞ」


 私とシズネちゃんはそのリオスさんの言葉を聞き魂が抜けたみたいに二人で皆を見ると、リオスさんは勿論の事、ハヤトやフォルス、カールさんまでもがうんうんと頷いている……


「っ!……何で早く言わないのよっ!! 」


 恥ずかしくて勢い任せで怒鳴った私はきっと真っ赤な顔をしている筈……だってシズネちゃん、真っ赤な顔をしているから……


「あれだ、灰色のには魔女に伝えてくれと頼まれてたんだが……アイツ、塩の塊になっただろ? だからな、ちょいと復活するには時間がかかるんだよ。何も無い状態だからな……それにアイツの剣の中に居る奴らにも捕まってるしな。まぁそろそろ戻る頃だろ」


 リオスさんはそんな大事な情報を今更教えてくれた。

 私の中のこの言い様のないモヤモヤに悶えていると、コウイチの出した禍々しい黒い扉が錆び付いたような音を立てゆっくりと開き始めた。


 私達六人は各々武器を構え、ゆっくりと開く扉を警戒する。

 肌をジクジクと刺すような空気を垂れ流し開いて行く扉の奥は、真っ黒で光の一つも無く何も見えないが、いつコウイチが出て来ても対応出来るようにしておかないと。


 一度散った気を引き締め私が詠唱を始めた頃、ふとカールさんとリオスさんが呟いた。


「「魔界の門だ……」」


 ジクジクと刺す空気が石畳に落ち紫色の煙を上げる。




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