72話
「いやいや、人間よ楽しいなぁ」
オレの影から伸びる手を、無様な舞でもしてるかの様に左右に避ける堕ちた人間……コウイチとか言ったか? この必死になって避ける様を見てオレは顔がニヤケてしまう。
いやいや、本当にあの灰色の不死者に目をやって正解だったな。
「楽しいなぁ、早く攻撃して来いよ人間、魔法が得意なんだろ? 」
「調子にのるなぁぁっ! 」
叫びと同時に時差無く飛んでくる馬鹿みたいに魔力の篭った光の矢を片手で受け止め握り潰す。
「どうした遠慮は要らんぞ」
こいつの魔力は確かに凄い量だし質も良い、詠唱も無く早いがそれだけだな。
分かっちゃいねぇ。
「人間、お前は誰に魔法を教わったんだ?随分と下手くそだな」
「っ教えなんかっ! オレより強い奴なんか居ないんだよっ! 」
叫んだ人間が巨大な光の球を瞬く間に作り上げた、その速さは素晴らしい。
「けど、軽いなぁ。それじゃ駄目だ」
オレは右手の指先から、髪の毛程の黒い光を放ち人間の魔法を相殺してやる。
顔を歪めオレを睨み付けてくる人間は手元の魔方陣に手を入れ、荒々しく紅い刀身の片刃の剣を抜き斬りかかって来るが所詮は素人、見るまでもない。
「血斬刀だったか? いくら強い武器を使っても、当たらねばなまくらと変わらんな。いかしよくもまぁ剣聖の武器を集めたもんだ」
蝿が止まるようなヘロヘロの太刀筋の一撃を掴み弾いたあと、オレも剣を出してやる事にする。
左の手のひらからゆっくりと出てきた剣を右手に持ち軽く振るう。
「銘無しの剣を受けてみな」
オレは煙になり人間の目の前に姿を出し胴を薙いだのだが、金色の随分と立派な鎧に当たる寸前で弾き返されてしまった。
ふぅん、物理攻撃は効かんか……
少しばかりオレが考え事をしてると、突然何か閃いたのか機嫌良く人間が声を掛けてくる。
「ひょっとして『銘無しの剣』ってあんた国落としか? 」
ニヤニヤと気持ちの悪い顔をして、嬉しそうに聞いてくる人間にオレは呆れるしか無かった。
「話を聞かん奴だな、以前そう教えてやったと記憶してるんだがなぁ」
「なら、これが何かは分かるよなっ! 」
そう声を上げ後ろの魔方陣から抜き出した剣を見てオレは言葉を失った。
「見覚えあるだろ、国落としさんよ」
ニヤケ顔の人間が取り出した剣は忘れもしない、千年程前にオレを半死にまで追い込んだ光の剣……
「ほう、人間よどこで見つけたんだ? 」
焦りを見せない様に努めて冷静に聞くオレに、自信満々な人間は片手で剣を回しながら黒くヒビ割れた顔でニヤリと笑う。
ちっ何勘違いしてるんだか、剣聖でもないただの人間が持つ光の剣にオレが負けるかよ。
オレは体を煙に変え飛び掛かるが、人間が横に凪いだ剣に強制的に実体化されてしまった。
「ったく……鬱陶しい」
「これは、楽しいね」
ったく嬉しそうに言いやがって……っ!
突然、妙な気持ち悪さに襲われ飛び退いたオレと人間の居た場所に数え切れない程の剣が生えた……
「おいおい、これ『剣山』だよな……剣聖の登場とかちょいとばかり荷が重いな」
「何なの? 化け物同士の殺し合い? 」
声のした方に振り返ると黒髪の腰に反りのある細い剣を二本提げた女が呆れた様子でこちらを見ていた。
「おい、シズネっ! コスプレ女っ! 味方を殺す気かっ!! 」
人間が何やら剣聖に怒鳴っているが、肝心の剣聖はキョロキョロと辺りを見回し
「コウイチどこにいるのっ! 出て来なさいよっ! わたしのセーラー服を馬鹿にするのは許さないよっ! 」
おいおい、人間の仲間かよ……分が悪すぎるだろ……
オレが逃げようかと考えてる間も二人は不毛な言い争いをしてるが、剣聖よ……その黒いのがコウイチとやらだぞ。
「……て事は何? 人間辞めたの? 馬鹿みたい」
ほう、どうやら剣聖がやっと黒いのがコウイチだと気付いたようだな、さてオレはどうしたものか。
灰色の不死者の仲間達はここからでは見えんし、とりあえず殺るしか無いだろうな。
「剣聖よ、話し合いはもういいか?」
「律儀に待ってくれてたの?もういいよー、とりあえずあなたとコウイチを殺すだけだし」
おぉ、なかなか面白い奴だな。
やはりどの剣聖も戦う事しか頭にないらしいな、全く物騒な連中だな。
殺すと言い切った剣聖から静かな殺気が溢れ出て来た。
オレの肌にピリピリと刺す懐かしい感触。
唐突に動きのない剣聖が僅かにぶれたかと思うとオレのすぐ脇で剣を振る、辛うじて煙になりかわすも脇腹の薄皮一枚持っていかれてしまった。
「ふぅん。避けれるんだー」
にこやかにそう呟いた剣聖の殺気が一回り大きく膨れ上がり、姿がまたしてもぶれたその瞬間、地面から魔力の篭った大量の水柱が吹き上がった。
「っ!クロの仇っ!! 」
魔女が来たか。どうやら口振りからして、あの変な人間は伝える事が出来無かったようだな……
使えん奴だ……




