71話
「なんなの……」
私の呟きは風にかき消される。
コウイチに刺され動かなくなったクロがじわじわと白く輝く塩の結晶に変化していく様子に私の思考は停止してしまった。
「憤怒の剣って知ってるかい?大昔の剣聖の物らしいけどなかなかの代物だと思わないかい」
誇らしげに語り出したコウイチ目掛け、ハヤトは矢をフォルスは斧をカールさんは殴り掛かって行くけどあの金色の鎧の効果なのか何一つ傷付ける事が出来ない。
いくら死なないと言っても塩の塊になっては流石に駄目かも知れないと、私は涙を止める事も動く事も出来ずにいる。
動けずにいる私とクロ目掛けコウイチが何らかの魔法を放ったのか弾き飛ばされた私はサラサラと風に流されるクロを見ながら、魂の抜けたまるで人形の様に転がった……
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何だこの状況は……
俺の体は動かないし、ディアナは泣いてるし……
不死者である俺はどうやらあの禍々しい剣の効果で塩の塊にされたらしく、ピクリとも動かないが何故だか意識はハッキリとしていてこの状況を上空から見下ろしている。
三人がコウイチに飛び掛かっている様子が見えるが、やはりあの鎧の効果で攻撃が無効化されているらしい。
何とかしたいと焦る俺の前に静かにリオスが現れ俺を見ている。
「なぁリオス、俺は死んだのか?」
俺は今一番不安な要素をどうしても確認したくて、聞いたのだが一笑されてしまった。
「はははっ!笑わせる、お前の呪いがそんな軽い訳無いだろう。あの樹の女王の呪いだぞ。それにだ、剣聖でも無い奴に剣聖の剣が使いこなせる訳ないだろ」
リオスは俺にそう言いながらも、少しばかり真面目な顔をすると
「まぁお前の主人はあのままじゃ不味い、オレがちょっと助けてやるからお前はそいつらの話しでも聞いてやれ。どうせ復活するにしても少々時間が掛かるしな」
「そいつら?」
「あぁ過去の魔女の眷属達だな、言いたい事があるらしいぞ。聞いてやったらどうだ?」
リオスは俺にそんな事を言い目の前から消えてしまった。
残された俺に、お喋りな過去の不死者達が声を掛けてくる。
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僕の矢が全く届かない、コウイチのあの魔力を放つ鎧の効果なのか。
「フォルスたん、どうやら物理攻撃は効かないみたいです……」
「それじゃあ……あたしが……」
僕とフォルスたんの会話を邪魔するかのように突然リオスさんが姿を現した。
「よう、変な人間。不死者が戻るには時間が掛かるからちょっと手伝ってやるよ。魔女の嬢ちゃんにも伝えといてくれ、あいつは戻って来るってな」
そう教えてくれたリオスさんはコウイチに向かい飛んで言ってしまった。
「人間よ、少し見ない間に随分と男前になったな。勝つために魔人まで喰らうとは、いいなぁ。人間を捨てるか、そういう無様な所が人間臭くて実にいい」
コウイチの前まで行ったリオスさんが物凄い勢いで煽ってる。
「……何かリオスさん楽しんでるね……」
フォルスたんのもっともな意見に頷きながら、僕とフォルスたんはディアナさんの元に走る。
泣き崩れているディアナさんを僕とフォルスたんで抱え上げ、コウイチの近くから引き離しているのだが暴れてどうにも上手くいかない。
胸を押さえてクロさんが居なくなったと、小さな子供の様に泣くディアナさんを見ていると僕達まで泣きそうになるが、泣いている場合じゃないリオスさんの伝言を伝えないと。
どうにか泣きじゃくるディアナさんをコウイチから遠く引き離したいのだが、駄々っ子の様な様子に途方に暮れていると、ツカツカとカールさんが蹄を鳴らし近寄って来る。
「ディアナ、泣くのは今じゃ無いよ。まずはあいつを倒すんだよっ! 」
そう強く言うと、ディアナさんの襟元を掴み放り投げる。
僕とフォルスたんは、泣き腫らした赤い目を丸くして放物線を描き飛んで行くディアナさんを慌てて追い掛ける事になった。
教会横から少し離れた路地に落ちたディアナさんを追い掛けつつリオスさんに目をやると、全く動きの無いリオスさんに対しコウイチは右に左にと忙しなく移動している。
「フォルスたん何してるか分かりますか? 」
「いえ……全く意味が分かりません」
「あー多分、幻術でも掛けてるんじゃ無いのか? 吸血鬼の始祖で国落とし何だろ? それぐらいするんじゃ無いのか? 全く怖い怖い」
追い掛けて来たカールさんが軽く言っているがそんな事が出来るんだろうか?
正直、吸血鬼って血を吸うだけじゃ無いんだろうか?
そんな事を考えながら走っていると目の前の土埃の中から腕組みし、充血した目のディアナさんが僕達に叫んで来ました。
「もう充分泣いたわっ! 胸の温もりは消えたけどクロは私の中にいるっ! 弔い合戦よっ!! 」
あぁ……リオスさん、この荒ぶってるディアナさんに何て説明すれば良いんですか……




