70話
得体の知れない声達は次々と何かを伝えようと話し掛けてくるが、今はそんな事に時間を割いている余裕は無い。
俺は自分で刺した剣を抜き背中に戻すと、大木横の十字架に貼り付けられたままのディアナに駆け寄った。
「ディアナっ! 」
俺の声が聞こえたのか静かに目を開けたディアナは
「ねぇ、クロ何したの? 魔力が戻ってるんだけど? またその剣なの? 」
「やっぱり魔力を回復してくれるんだな。まぁ取り敢えず降ろしてやるから我慢して」
手足から血を流すディアナを優先とばかりに、剣の話は置いておき手足に刺さっている杭をチカラ任せに抜き落ちて来るディアナを受け止めた。
「あんた、相変わらず無茶するわね……けど……もう触れられ無いと思ってた……」
泣きながら落ちて来たディアナはそう呟くと、俺にしがみつき大泣きし始めてしまった。
どうしたものかと、大木の横でディアナを抱き締め頭を撫でていると、見知った顔が次々と現れる。
「やれやれ、どう言う状況だこれは? 」
「ディアナさん無事ですかっ! 」
「クロさん、フォルスたんも無事でしたっ! これで両手と目は確保ですね」
やたらデカかったカールさんは通常サイズに戻り、フォルスは何だか所々火傷をしているようだが取り敢えずは元気そうだ。ハヤトはなぜか上半身裸でお肉を震わせている……
上半身裸のハヤトから俺とディアナは治療薬を貰い、ディアナが顰めっ面をしながら飲んでいる間に状況説明をしようと俺が話出したその時異変が起きた。
突然、大木が葉音を立て大きく身震いし始めた。
「っ! ヤバイな……皆出ようっ! 」
俺が声を掛けるのが早いか皆急いで壁の穴から飛び出した。
見上げるとやはり大木だけが大きく枝を揺らし葉音を立てていた。
「なぁディアナ……これどう言う状況だ? 」
理解が出来ていない皆を代表して聞いてみたのだが、肝心のディアナは見上げたまま青い顔をして固まってしまっている。
どうしたものかと皆の顔を見るも首を捻られてしまう。
俺達が見守る中、大木は一際大きくその身を震わすと前触れもなく幹の中腹から真っ黒な炎を噴き出した。
「なっ! 魔界の炎だとっ……クロっあの中に何がいるんだっ! 」
炎を見た瞬間、慌てた様子のカールさんが俺の胸倉を掴み聞いてくる。
「ディアナの魔法で、コウイチをあの木が飲み込んだんだ……」
「エント様の魔法なのあれ……閉じ込め栄養にして森を作る筈なんだけど……」
不安気なディアナの言葉を聞き、俺の服から手を離したカールさんはもう一度燃える木を見て小さく呟いた。
「ありゃ、生きた魔人を喰いやがったな……どうやら人間を捨てたみたいだな……」
カールさんの呟きが聞こえたその時、大木が中腹から弾け飛び赤く染まった金色の鎧が現れた。
破けた白銀のマントに身を包み、血に染まった金色の鎧を身に付けた黒くヒビ割れた肌のコウイチがゆっくりと降りてくる。
「お前達、ゆるさねぇからな覚悟しろよ」
黒くヒビ割れた顔で笑いそう吐き捨てたコウイチは、無制限の魔力をこれでもかと使い空中に幾つもの魔法陣を展開させていく。
「簡単には死ねると思うなよ」
武器を構えた俺達にそう呟いたコウイチは、自身に一番近い魔法陣に手を入れ闇を凝縮した様な一本の両刃の剣を静かに引き抜いた。
俺の左目には黒い剣にしか見えないが、リオスの目、右目にはその剣に纏わり付く幾多の死霊が見て取れる。
「コウイチ……お前、何したんだ……」
俺の言葉を聞き、ゆらりと揺れたコウイチは突然俺の目の前に現れると、黒く濁った目で俺を観察するように見たあと、ニタリといやらしく笑い
「なあに、主人公は強く無いと駄目だからな。チカラを集めて来ただけさ」
そう言い死霊まみれの剣を俺の胸に静かに差し込んだ。
その瞬間、俺の中の何かがゴッソリと持って行かれた気がして、痛みよりも気持ち悪さに襲われた俺の意識はここで途切れた。
ーーーーー
「クロっ!」
私の目の前で化け物の様な姿になったコウイチが、クロに剣を刺した。
すぐに回復する筈の倒れているクロが、一向に動き出そうとしない様子に思わず声を上げたのだけど、それを聞いてコウイチはニコリと不気味な顔で笑うと
「まずは一匹」
軽く本当に軽く、まるで道端で蟻を踏んだくらいの軽い気持ちでそう呟いた。
皆が武器を構える中、私は変な感覚に襲われていた……
左胸にいつもあった、ふんわりと暖かい何かが静かに少しずつ抜けて行くような変な感覚。
おもわず胸を押さえ座り込む私と横たわるクロを、ゴミでも見るかの様な目をしたコウイチが見ているが、動いてしまえば無くなってしまいそうな儚い感覚に私は動けずにいた。




