7話
うん。
この子あれだ、きっとバカだ。
暫くの放心から解放された男二人の思いはここに一致した。
この木で作られた隙間風のある小屋で俺とゴードンさんは目を剥き、信じられない物を見るかの様にディアナを見る。
「えっ……ええと……クロもおじ様もどうしたの……」
俺達二人の姿に若干引きつつ聞いて来るのだが、当事者の俺はまだこちらの世界に完全には戻ってこれて居らず、何とか年長者のプライドを見せたゴードンさんが代わりに説明を始めた。
「あのなぁ、嬢ちゃんが死に掛けてた坊主を助けたのは凄い事だし褒められる事だ。けどな……一生に一度の大魔法だろ?普通は身内や仲間に使うもんだと思うし、下僕?にしたって、普通見ず知らずの言葉も分からない相手にするものじゃあ無いと思うんだがなぁ……」
ポリポリと鼻の頭を搔きながらゴードンさんが説明をしてくれた。
「俺も、ゴードンさんと同じでそう思うかな。ただディアナがその時どんな覚悟で俺を助けてくれたのかは、分からないけれど……下僕の……仕事は分からないけど、助けてくれた恩位は返せる様に頑張るよ……ありがとう、これからよろしく……」
尻切れ蜻蛉の様に小さくなっていく声しか出ないが、何とか伝わった筈だ。
しかしそもそも何だろう下僕の仕事って、ゴードンさんと俺の扱いの違いもそう言う事何だろうか?
「覚悟も何も困ってたら助けるでしょ?何を大袈裟な。……ところでだけど」
いまいち腑に落ちない様子のディアナだったが、気にせず話を進める事にするらしい。
「これからの事になるんだけどね、此処の場所が少し曖昧だけどまずは王都に向かうから。で、あんたのそのみすぼらしい格好を途中の村ででも変えるわよ。」
どうやら予定は決まっているらしいし、俺の意見は聞いてくれないみたいだな。
まあこのボロボロの服を着替えられるのならこれと言って文句は無いが。
「おじ様、助けて頂いてありがとうございました。クロも動ける様ですので私達は王都に向かおうかと思います。……私は用意してくるから。あんたはおじ様とお話でもしてて。」
ゴードンさんに向き、優雅に礼をし話を締めたディアナは、俺の寝かされていた部屋へ布を潜り入って行ってしまった。
男二人になった途端、ゴードンさんはニヤニヤしながら近寄って来ると
「まぁあれだな、折角だから服とボロい剣位やるから持っていけばいい、坊主は剣士なんだろ?寝てる間嬢ちゃんが自慢してたぞ。……剣を無くしてしまって、けど私を守る為に木の枝を上段に構えて打ち込んだ姿が格好良かったやら何とか言ってたな。」
俺、そもそも剣なんか持ってたんだろうか?と言うか剣士なのか?
ゴードンさんは相変わらずのにやけ顔で話し掛けて来るが、俺の中の疑問は全く解消されないままだ。
誰か真実を教えてくれないだろうか。
俺から反応が無いのを見てゴードンさんは、薪の横に刺してあった薄っすら錆の浮いた両刃の剣と、その剣に掛けてあった鱗模様の上着とズボンを投げ渡して来た。
「ぅおう!」
予想より剣が重く変な声が出た。
「まあ、鉈代わりに使ってたがまだまだ使えるから使ってやってくれ。服はオレが鞣した魚の革だから質はボチボチだが、丈夫だし水には強いから雨合羽代わりにもなって便利だぞ。まあ、オレ用に作った服だからサイズは我慢してくれ。」
がはは、と笑いながら説明してくれた服を着て見ると、鬼族で俺より頭三つ分は大きいゴードンさん用だけあって、上着がコートみたいに裾が長く袖も余るので捲り、ズボンに関しては腰回りも足の長さも大き過ぎて履くのを諦めるしかないみたいだ。
ただ水を弾くと言う割には、そこそこ通気性もあるらしくなかなか快適なので上着だけありがたく頂く事にした。
で、この思いの外重たい剣だが構えて見ると変にしっくり来た。
長さは地面から腰程の、何だか使い慣れた様な長さで上段に構えて見ると凄くしっくり来る。
重くて腕がプルプルするが……
「あら?やっぱり様になってるわね。色々可笑しな所もあるけど……」
鎧を身に付けてローブを羽織ったディアナがクスクスと笑いながら奥の部屋から出て来て、そんな身も蓋もない事を言う。
「あんたの準備も終わったみたいだし、それじゃあ出発するわよ。……本当におじ様お世話になりました。」
相変わらず俺の意見は全く聞いてくれないと言う安定っぷりを見せながら、この小屋の中では立派な扉を開け出て行く。
俺も慌てて付いて行こうと動くと、ゴードンさんが少しばかり寂しそうに
「気を付けろよ。川沿いに行けば街があるからカムラから来たと伝えるといい、悪い様にはならん筈だ。また気が向いたら遊びに来いよ。」
そう言って俺の背中を大きな手で叩いて送り出してくれた。