68話
獰猛な笑みの下であたいは思考を巡らせる。
どうすればあの右腕を奪えるのか……
考えてる間にもあいつはその右腕で攻撃してくる。
思考に意識を取られていた一瞬の隙を付いて大柄になったあたいは腹を殴られてしまう。
「がっ! 」
ただ右腕がチカラ強くなっただけでは無い事を、ズンッと体に残る重さが証明している。
「何しやがったよ……」
「悪魔よ、我輩の拳を受ければ受けるだけ体が重くなる。耐えてみよ」
はっ重力系統の魔法って事か。
「丁度いいハンデになるなっ!」
「強がりを言えるのも今のうちだぞ悪魔めっ!」
今のあたいは凄惨な笑みを浮かべているであろう。
この血が騒ぐ状況を楽しんでいた。
拳と拳がぶつかり合いお互いに撲殺する為だけに全力を尽くすこの状況に。
しかし、攻撃を受ける度に重くなるこの体が鬱陶しいし、あの右腕も邪魔くさい。
お互いに血だらけの体で殴り合いしている合間に、あたいは魔法陣を展開する。
「ズィーク、卑怯とは言わねぇよなっ! 」
頭上に展開した魔方陣は黒い光を放ち、あたい達の上から降り注ぐ。
「ぬっこれはっ! 何だっ! 」
「あたいの空間にさせて貰ったよ、ようこそ魔界へ」
魔界の障気で徐々にと肌が腐敗していくズィークに渾身の一撃をお見舞いすると、耐えきれず膝を付く。
「くぅっ! 流石は悪魔か……何でも有りだな。何故この国を狙う」
「ん? 国何か要らねぇよ。欲しいのはあんたの右腕だよ」
「そうか……我輩ではこの調子のお主には勝てそうも無い。望みがこの国で無いのであれば持って行け」
突然そんな事を言い出したズィークは自身の右腕を引き千切り、あたしに渡して来た。
あたいの腕の中でズィークの体を離れたトキヨミ様の右腕は細く華奢な女の腕になり、淡い光を放ち干からびたミイラの様になってしまった。
「っ何だい……不完全燃焼だよ……」
右腕を無くし体を障気に蝕まれながらも雄々しく立つズィークに好感を覚えつつ、あたしはズィークを連れ元の世界に戻った。
魔方陣の黒い光が徐々に消えていき視界が良くなると、馬鹿みたいな顔をして見ているクロと目が合う。
目があったまま何も言わないクロを睨み付けていると
「その角ってひょっとしてカールさんなのか? 」
あぁこの姿は見た事無かったなと、納得したあたしは言ってやったさ
「馬鹿か?この美しい姿があたい以外の誰だって言うのさ、あたいは右腕を貰ったよ、あんたは遊んでた訳じゃないんだろうな?」
「っ大丈夫、何か凄い事になってるから驚いただけだ。俺は目を取って来て、これからディアナの所に向かうんだ」
ほー目を回収したのか、とあたいが驚いていると
「少年よ、目の賢者を倒すとはなかなかやるな。我輩が五体満足なら挑むところだ」
「おっおう……俺はもういいや。と言うか行くから」
言うが早いかクロは走り去ってしまう。
「なぁ悪魔よ、お主達は何を成す気なのだ? 」
「さあな。あたいは知らないよ、ただ気のいい奴らと旅してるだけだ」
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カールさんと別れ、ディアナの気配がする方向にひたすら走って来ると、壁に大穴の空いた教会が見えて来た。
また教会か……教団やら教会やらと、少しうんざりしつつ教会の扉を開けると直ぐに光る十字架に貼り付けられたディアナの姿が飛び込んで来た。
「っ……これか……」
俺は自分の手足の傷を一瞥して、教会奥のディアナに駆け寄り声を掛けた。
「ディアナっ! 大丈夫かっ!」
「あんたはほんと馬鹿ね……痛いに決まってるでしょ……」
痛みに顔をしかめつつも何時もの軽口が叩けるなら大丈夫だろう、降ろしてやるかとさらに近寄ると急に声を掛けられ足を止める。
「それ以上は近くに来ちゃ駄目よ。そのうちコウイチのヤツが来るからこのままでいいから、あいつトキヨミ様の両足を持ってるからとっとと倒して早く帰りましょう」
「何で降ろしたら駄目なのかはどうせ説明してくれないんだろ。……分かったよ、俺が目をカールさんが右腕を持ってるから後は、ハヤトかフォルスが左腕を回収したらコウイチだけなんだな……」
「やれやれ……賢者共が見当たらないと思ったらアイツら負けてたのか。使えねぇなぁ……」
突然聞こえて来た声に慌てて振り返ると、教会の扉からニヤケ顔のコウイチがゆっくりと入って来た。
「やっと来たなモブ……いやチート野郎、亜人の味方をする人間の敵はこのオレ様、魔導の勇者コウイチ様が直々に殺してやるよ」
姿を見せたコウイチは何だかやたらと立派な、金色に輝く鎧を身に付け白銀のマントを纏い見るからに勇者然とした姿をしていた。
だが、この肌に感じる気持ちの悪い魔力は一体なんなんだ……
「コウイチ、見た目に反するこの気持ち悪い魔力は何だっ! 」
「試せば分かるさ。もういいだろう、早く殺したい」
そう言うとコウイチは待ち切れないとばかりにニヤリと笑い、気味の悪い魔力を爆発させた。
「始めようか、オレが主人公の物語を……なぁ灰色っ!」




