66話
とりあえず魔方陣の消し方は分かった。
あとは、奥に隠されているトキヨミ様の目をどうにかしない事には、同じ事の繰り返しになるな……
思考を巡らし、さて動くかと言うところで突然俺の手の甲、足の甲から血が吹き出した。
「おやおや。あなたの主人がピンチの様ですね」
先程とは一転、楽しそうに俺の様子を見る目の賢者は、ニヤニヤと薄気味悪い表情でそう話し掛けてくる。
何だよこいつは、こっちの状況までお見通しかよ……
しかしあれだ、一つ言えるのは早く合流しないと不味いって事だな。
俺は小さく気合いを入れ直し廊下の奥にある、トキヨミ様の目を目掛け色の無い世界に飛び込む。
「馬鹿の一つ覚えとはよく言ったものですね」
賢者の呟きが聞こえた気がするが、とにかく廊下の奥に向け走る俺に尋常じゃない数の光の線が絡み付く。
光の線の大元に向かってるから、当たり前なんだがこれは不味い……
大量に絡み付き俺の速度を落とそうとする光の線を斬りながら進んではいるが、光の線の発生の方が早く剣撃が間に合わず足を止められてしまった。
足が止まった瞬間に賢者の放った魔法だろうか、氷で出来た槍が背中から胸に貫通する。
槍の穂先が胸から血と一緒に飛び出して来る様子を見ていると、ふと頭を過った……
「ディアナごめん」
俺の意識は暗転した……
……………
意識が戻った俺は足元を氷付けにされ、直立姿勢で立っていた。
「戻りましたか。今からどこまで耐えれるか実験を始めようと思います」
大袈裟にそう言うと賢者は俺に向け、様々な魔法を撃ってくる。
多少なりとも鍛えたお陰か歯を食いしばり何とか耐えれはするが、足が動かないので避けるにしても上半身が精一杯だ。
俺が耐えてるのをいい事に好き勝手やってくれる……
俺は何をしてるんだ、全身血だらけの黒焦げだらけだが、考えてみるとどんな大きい怪我をしても治る筈だし現に治ってる。
腹をくくり足元をチラリと見て心の中でもディアナに謝ると、俺は凍った両足を迷うこと無く剣で斬り飛ばす。
「づぁあっ! 」
歯を食いしばり声を出すまいとしたが出るのは仕方ないだろう。
両足が無いまま石造りの廊下に転がり魔法を躱した俺は、足が生えてくるまで、踏ん張りは効かないが魔法を斬る事に集中する事にした。
「随分、足掻きますね」
まだまだ優位に立っているつもり何だろうが、足が完治したらとっておきを喰らわせてやるから待ってろ。
肌の炭になっていた所も剥がれ落ち、傷も塞がった足も取り敢えずは踏ん張れる。
ならっ!
「喰らえ目玉野郎っ! 『剣山』っ!! 」
ありったけのチカラを込め、シズネさんから教わった唯一の技をここぞとばかりに放つ。
俺の体から出ていく微量の何かに変な違和感を覚えつつ、俺から目の賢者に向かい百本程の両刃の剣が生えて行く。
目を見開き声にならない声を出した目の賢者は、足元から生えて来た数本の剣に体を裂かれ崩れ落ちていく。
「……成功したのか……? 」
体から抜けていく微量の何かの感覚に馴れず気持ち悪さが残ったが、三枚下ろしになった目の賢者はどうやら動きそうもない。
「しかし、咄嗟に思い出して本当に良かった……」
肩のチカラが抜け少しばかりへたりこむ俺の耳に、聞いた事の無い声が聞こえて来た。
「ひぃぃぃっ! 」
廊下の反対側から来る、丸々と太った小綺麗な服を着たおっさんを見て思わず溜め息が出た。
何やら坑道で出会ったミノタウロスの小さい版みたいな奴に追い掛けられているようだが、見逃すと流石に寝覚めが悪そうなので取り敢えず、廊下奥のトキヨミ様の目を素早く拾い懐に入れると、そのまま色の無い世界に飛び込みおっさんを担ぎ走る事にした。
「おっさん大丈夫か? 取り敢えず危ないから外にでも出てた方がいいと思うけど……」
話し掛けては見たが、おっさんはこの速度に目を回しているのか返事が無い……
ひたすら重たいおっさんを担いだまま走っていたのだが、ふと気付くと何だか室温が凄まじく熱くなってきて何だか鉄の扉は赤くなってるし足の裏は焼けて来るしでたまらず窓から外に出ると、多数の少年少女の惨殺死体が転がった血の池が広がっていた。
血の池は気になるが、取り敢えず邪魔なおっさんを肩から下ろし、軽く頬を叩いて目を覚まさせた俺は
「おっさん、ここは外だから取り敢えず後は一人で逃げてくれ。俺は仲間を探さないと」
「きっ君の名前はっ!」
「えっ?あっああクロだよ。じゃあなおっさん」
何だか挙動不審なおっさんに軽く返事し、さて行くかと歩き出した所で聞き覚えのある声が聞こえて来て振り返るとボロボロのハヤトが走って来ている。
走って来たハヤトは俺に話し掛けようとしたみたいだが、おっさんを見て絶句してしまった。
「ん? ハヤトの知り合いか? まぁいいや知り合いなら任せる、俺はディアナ達を探して来るからハヤトはおっさんを頼む」
そう告げ呆然としたままのハヤトを置き去りにして街に向かって走り出す事にした。




