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65話

「あたいもこの姿は久しぶりなんだ、手加減は出来ないよっ! 」


 あたいは背中の黒い皮膜のある羽根を広げ男らしく大柄になった自分の体を確認して飛び掛かる。


「あたいの名はバフ、死出の土産にするといいよズィークっ! 」


 瓦礫から飛び出し、真っ直ぐズィークに向かうと奴は目を見開き驚いた顔を見せたが、すぐにニヤリと笑うと飛び込むあたいに掛かって来た。


 完全体のあたいは大柄だったズィークを一回り程の大きくした程の体格があり、チカラ比べとばかりに出して来た手を掴みそのまま押し込んでやった。

 衝撃で石畳が捲れ騎士達が慌てふためく様子を横目に、チカラ任せに押し込むとズィークの足が石畳にめり込むが、あたいの抑え込みを耐えてる辺り右腕の賢者とは大したもんだ。


「あんたなかなかやるねぇ」

「ぐぐっお主こそ、それが本当の姿か…悪魔めっ! 」

「悪魔か……褒めても何もでないぞっ! 」


 チカラを更に込めると遂にズィークは片膝を付く、 周りで見ていた騎士達がざわついている。

 片膝を付いた状態のズィークはまだ踏ん張り何やら小さく呟いているようだな。

 全く諦めの悪い……と、あたいが考えていると突然光り出したズィークの右腕が膨張し、自身の胸囲ほどの太さになった。


「古の賢者の右腕の能力を思い知れ悪魔よっ! 」


 右腕一本であたいを押し返したズィークは、そのまま右手で殴って来た。


「ぐっ! 」


 胸を殴られ一瞬息が止まったあたいは、大きく距離を取りその歪な右腕を見て呟く。


「そうかい、あんたの大事な右腕はそこにあったんだねぇ」


 思わず獰猛な笑みが出るのが自分でも分かった。



 ーーーーー



「私は貴方を拒絶する」


 私の詠唱は言霊になり、六角形の透明な壁に囲まれた私にコウイチの魔力の干渉が途切れた。

 引かれるチカラから解放され一息付いた私は、改めて透明な六角柱を見る。

 まるで水晶の結晶の様な、これは拒絶を示す私の魔法なんだろうか?

 触るとほんの少しだけひんやりとしたこれは、完璧に外と私を切り離しているのか、声が聞こえないから分からないがコウイチの口が動いている所を見ると、何か怒鳴ってるんでしょうけど……


「ふふっ割と間抜けな光景よ」


 しかし、このままでいる訳にはいかないのだけどどうしたら良いのかしら?

 確かに拒絶は出来たのだけど攻撃はどうしたらいいの?


 私がそんな事を考えていると六角柱から小さな六角錐が細くコウイチの方に少しだけ飛び出した。


「え? 」


 何これ?

 飛び出た六角錐が淡く魔力を含む光を放っている。

 ……そう言う事なの?


 半信半疑ながら私は言葉に魔力を込める


「私は貴方を拒絶するっ! 攻撃してっ! 」


 六角柱が光ったと思うと、六角錐の先端に魔力が集まり私のあやふやな言葉を魔法に変える。


 飛び出した魔法は白く輝き、目では追い付けない速度でコウイチを貫き教会の壁を抜き消えて行く。


 もうもうと粉塵が舞い、状況を確認出来ないが直撃した様に見えたのは間違いでは無いはず。


「……やったのかしら? 」

「それフラグだぜっ! 」


 真後ろから聞こえる嫌な声に、振り返ろうとする私の周りの六角柱が消え殴り飛ばされてしまう。

 小さく呻く私を見下ろしコウイチは吐き捨てた。


「糞女がっ! もういいやお前死ねよっ! 」


 目の前で目を吊り上げ怒り狂うコウイチの両足が、異質な魔力を放ち光っている。


「……あんた、その足って……」

「あぁそうさ、足の賢者達から奪ったのさ。あのモブより速く動く為にな」


 そう言うと光を放つ足で倒れている私を蹴り付けてきた。


「がっはっ! 」

「変な魔法を使うし、オレ様に攻撃するしお前何様のつもりだ? 」


 腹部を襲う痛みと吐き気に朦朧としながらコウイチを睨み付けると、コウイチが脇腹から血を流しているのが目の端にうつる。

 どうやらさっきの魔法が掠めはしたみたいね……


「……ふふっいい気味ね……」


 悔し紛れに言い放つ私の首を掴むと、左手で光の十字架を作り始めたコウイチは


「ただでは死なさんからなっ! あのモブのくせに卑怯者なチート野郎の前で殺してやるっ! 」


 作りあげた十字架に私を魔法の杭で打ち付けたコウイチはそう怒鳴り散らすと、青い光を放ち消えてしまった。


 手足を杭で打ち付けられ身動きの取れない私は、落としたトキヨミ様の枝を拾う事も出来ないが、口は動く。


 小さな頃に大婆様から教わったあの魔法、エント語だからとにかく時間の掛かる魔法だけど、今の状況なら何とかなりそうな気がする。

 クロの顔が浮かんだ。平たいエキゾチックな顔……


 今だけでいいからハヤトの運を分けて欲しいと願い、皆の顔を思い浮かべ、静かに目を閉じた私は手足の痛みで呻く時間も惜しいと、クロの分の魔力を残しつつ詠唱を始める事にした。


 閉じた瞳から流れる涙に私は気付かない





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