63話
「あの馬鹿、魔力を持って行き過ぎよ……」
私が飛ばされたのはどこかの教会らしいわね、教会って良いイメージが無いんだけど……
と、考えていると聞き覚えのある聞きたく無い声が聞こえてきた
「やあ、久しぶり。君ならここだと思ったよ。」
黒髪の嫌らしい奴、コウイチが教会の祭壇で面白そうに私を見ていた。
「どういう事かしら? 」
「大した事じゃないよ。オレの強制転移が働いた時に君が来た気がしたのさ。これは運命だろ」
「ふぅん。そう、良かったわね。けど残念ね、私の運命はクロのものよ」
私は話しながら同時展開していた詠唱を完成させ、コウイチに光の矢を落とした。
コウイチの頭上で絡めとられたように停止した大量の光の矢を見る事もせず、コウイチは立ち上がると大袈裟に手を広げ
「あんな奴の事なんかすぐに忘れさせてやるさ。」
私の体が唐突にコウイチの方に引っ張られる。
何かをしたようには見えないが、何らかの魔法を行使しているのだろう。
雨粒が大地に落ちる自然さで、まるで大地が真横にあるように私は引っ張られる。
両手を広げたままのコウイチは満面の笑みで私を受け止める体制にいる。
トキヨミ様の枝を握り締め詠唱を始める
「オレに魔法は効かないよ。どんな魔法使いだろうがオレより速く強い魔法は射てないさ」
コウイチの言葉を無視した私はひたすら魔法をイメージする。
魔法は言葉の重み、詠唱と想像力、イメージで決まる。
コウイチがどの程度のイメージをしてるかは分からないけど、私が勝てるとしたらそこしかない。
私は小さく呟いた
「私は貴方を拒絶する」
ーーーーー
一か八かで色の無い世界に飛び込んだ俺だが、見られてる。
目の前、賢者の視線は追い付いていないのは分かる、が見られている。
斬りかかる俺に賢者の目が追い付きニヤリと笑ったその時、俺は色の無い世界から追い出された。
「なっ! 何でっ! 」
あまりの事に驚きを隠せない俺に得意気な賢者は楽しそうに話す。
「この目は特別でしてね、古の賢者の目なんですよ。知ってますか?古の賢者の魔力の籠った目を抉り宝具にしたと言う訳です。お陰で何でも見えるんですよ」
得意気に話す賢者を横目に再度、色の無い世界に飛び込むが再び弾き出されてしまった。
まるで見えないロープに絡め取られ弾き返されるような感覚だけが残っている。
「やはりトリ頭なんでしょうか? 見えるんですよ。分かりませんか言ってる意味が? 残念な人ですねぇ」
そんな馬鹿な話があるのか?
光を追い越す速度の俺を目視出来るのか?
しかし、もし本当に見えるとなると俺には手が無い……
速く動けるのと、死なない事しか出来ない俺に何が出来る……何を出来る。
賢者の言葉に考え込む俺の頭の中に突然楽しそうな声が聞こえて来た。
「灰色の不死者よ、こんな雑魚相手に何を遊んでるんだ? オレの目があるだろう。見えない物を見る目、リオス様の目で見えない物はない。試してみろよ 」
頭に響くリオスの声だが、見ていたのなら助けて欲しいものだ……
「見えない物を見る目か……」
目を凝らして見るが、何の事だか。
「何をしているのですか? 全く、所詮は亜人薄気味悪い……そろそろいいですか?」
賢者はそう言うと、キョロキョロと辺りを見回している俺を訝しげに見つつ、空中の光る輪を量産していくのだが、ふとその光る輪達から細い輝く線が出ているのが見える。
「なんだそれは……」
「魔方陣ですよ、今更何を言ってるのでしょうか? さて、貴方の主人の魔力は何発まで耐えれますかね? 」
俺の疑問とは見当外れの答えが帰ってくるが、集中している今はそんな事はどうでもいい。
「『重い剣を使い誰よりも速く振れば斬れぬ物は無し』かっ……試して見るか」
俺は剣聖の言葉を思い出し、もう一度色の無い世界に飛び込んだ。
この世界から俺を追い出そうと迫る線が見える、が見えるなら斬れる筈だ。
上から伸びて来る線を鋭く早く掬い上げるように断ち切る、まるで水を斬るかのように僅かな抵抗を残し切れた線はゆっくりとその姿を消して行く。
賢者の視線が俺を追えて無いことを確認して一つの魔方陣から出ている薄い線を断ち斬り、色のある世界に戻った俺はたった今、伸びていた線を斬った魔方陣が薄くなり消えて行くのを確認する。
この線は賢者から出ているのでは無く、先程賢者が出て来た廊下の角から伸びて来ている。
ひょっとしてあの奥に何か秘密があるのか?
「っ! 何をしたっ! ……宝具に何をしたっ! 忌々しい亜人風情がっ! 」
想像の外の出来事が起こったのか、賢者は消えた魔方陣と俺を交互に見ると大声で叫んだ。
「成る程ね。そう言う事なのか、しかしあれだなあんたの焦る姿、随分と滑稽だな」
たった一個魔方陣を消しただけだが、これ見よがしにドヤ顔で賢者に言ってやった。




