62話
「あたしはどこに飛ばされたのでしょうか? 」
「ここは城の大広間だ」
あたしの独り言に返された、背中が凍るような聞き覚えのある声に振り返ると、そこには気配の無い金髪の男、左腕の賢者が剣を手にあたしを見ていました。
「よぉ久しぶりだな小さいの、今日は灰色は一緒では無いんだな」
「さっきまで一緒でしたっ!」
「ほお、魔導の勇者の作戦成功ってところか。何でも一定量の魔力の集まってる集団をバラけさす集団転移を作ったらしいが……まぁどうでもいい。無駄話はこれぐらいにして殺るか」
左腕の賢者はさらりとそう言うと、暴風のような殺気を惜し気もなくあたし一人に向けて来る。
「あたしだって負けませんっ!」
背中の斧を構え、静かに目を見ながら近寄るあたしを観察しているのか、片手間に剣をクルクルと回す賢者の視線が少しだけそれる瞬間がある。
あたしはその視線が逸れるタイミングを見計らい飛び込みました。
石造りの床を掠め横凪ぎに振り上げた斧をつまらなそうに体を少しだけずらし躱した賢者は、右手で回していた剣を握り直しあたし目掛け振り下ろす。
斧の勢いを無理矢理止め体を捻り躱すあたしに見下した目をした賢者が言います。
「つまらんな。所詮はドワーフか、大人しく土の中にいればいいものを」
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「全く、あたいまで飛ばされるとは人間もやるねぇ」
ここは街中だろうか、住人達が避難もせずに呑気にこちらを見てる。
「魔族のレシよ、情報とは肌の色が違うがここ迄だっ! 」
あたいは今、数十人の騎士に囲まれ剣を遠巻きに突き付けられている。
「魔導師達を呼べっ! 大捕物だ、間違いなく仕留めろっ! 」
やれやれ、どうやらレシと間違えられているようだが、あたいはレシでは無いんだがなぁ……
と、言うかあんまり派手に動くとフォルスちゃんに怒られそうだし……どうしたもんかね?
なんて呑気に考えつつ、襲い来る騎士達を華麗に躱し続けていると、急に騎士達が左右に分かれその間を鬼族程の巨体の筋骨隆々な男が歩いて来る。
「賢者様っ! 右腕の賢者様っ! 」
「ふうん、あれが右腕の賢者かい。あたいの運も捨てたもんじゃ無いねぇ」
鎧も身に付けず、ズボンとシャツだけの大男はあたいの目の前まで来ると
「初めて見るがお主が魔人のレシか? 只の騎士達相手ではつまらんだろう、我輩この右腕の賢者ズィークが相手になろう」
そう言うといきなり丸太よりも太い腕で至近距離から殴り付けて来やがった。
「がっはっ! 」
何故か躱す事が叶わず吹き飛ばされた、あたいの口の中が切れる。
「このハゲっ! いや髭っ! 痛ぇっ何をしやがったっ! 」
「いきなりの罵倒とは随分だな。戦いは始まっているんだ、気を抜いたお主が悪い」
ちっ! 正論ってムカつくよな……とりあえず躱す事が出来なかった謎は分からんが一発殴ってやる。
「おらぁっ! 」
飛び掛かり殴るあたいの拳を受け止めニヤリと笑うハゲ……いや、髭は拳を握り潰そうとチカラを込めてくる。
反対側の拳で殴るもそちらも受け止められ、大きく歯を見せる。
「そうかい、あんたはチカラ勝負をあたいとしようってんだね」
「我輩とその細腕でチカラ比べとは、魔人とは物の道理が分からぬらしい」
チカラを振り絞り、ハゲ……いや髭の腕を持ち上げようとチカラを入れギリギリと腕の筋肉が悲鳴を上げるが、魔族のプライドとして只の人間にチカラ負け何か出来る訳ない。
頭二つはあたいより背が高いハゲは上から抑えつけながら
「お主のチカラでは我輩に押し勝つのは無理であろう、諦めて大人しく潰されるがいい」
「はんっ!人間風情が吠えるなっ!」
一瞬の隙をついてがら空きの腹に蹴りを入れ離れたあたいは大きく飛び上がり蹴りを放つ。
上下移動に目がついてこないのか、頭頂部に蹄の一撃が入ったが、ハゲはその太い首のおかげかぐらりとする事も無く耐え、あたいの足首を掴み振り回すと何度となく地面に叩き付ける。
「ぐはっ! 」
「ははは、魔人はいい声で啼くのだな」
そう言い最後に、民家と思われる石造りの建物に投げ捨てられた。
何度も何度もしつこく叩き付けられたあたいの体はボロボロになり、至るところが血を滲ませ目が回る。
「……ったく、この姿じゃ無理か……」
あたいの体が軋む音をたて変化していく。
本来の姿に近いところ迄体を変化させながら、ふと思う。
この姿を見たらフォルスちゃん怒るんだろうな……
「ハゲ…いやズィークだったか、待たせたな今まで退屈だっただろ?」
崩れ落ちた民家の残骸、石のブロックを掻き分けあたいが姿を現すと、今までに無い明らかな動揺が見えた。
「なっ!お主その姿は……」
「あー、フォルスちゃんに怒られるからと思ったが、負けるともっと怒られそうだからな。悪いが本気でいかせて貰う、せいぜい足掻きな……貧弱な坊や」




