60話
なんの気無しにチラリと天井を見た、俺の右目にだけ女の人が居るのが見えた。
「なっ! 」
「ちょっとっ! いきなりびっくりするじゃない。何なのよっ! 」
声を上げた途端、驚いた様子で大きく肩を震わせたディアナが怒り気味に聞いて来たので、天井を指差し
「いや、あそこに女の人が……ほら、手を振ってる」
にこやかに手を振ってくる、右目にだけ見える女の人をディアナに教えると、チラリと天井を見て小さく肩を震わせながら
「あんた馬鹿なのっ!そう言う冗談は性格悪いわよっ! 」
……まさか見えて無いのか? そもそも右目だけって事はリオス絡みなのか?
考えても埒があかないと三人に聞いてみる。
「いや、ディアナ……右目にだけ見えるんだよ……ハヤトにフォルスっ、カールさんも見えないのか? 」
「全くっ何の話だ? バカバカしい」
「ふむ、気のせいでは無いですか? 」
「ごめんなさい。見えないです」
何と言う事だ……
「ごめん、もういいや進もうか」
手を振ってる女の人を視界に入れないようにした俺は、皆にそう言うとディアナを引っ張り進む事にした。
「全く、騒がせないでよね」
「ごめんごめん。ところでハヤト、終点はどこなんだ? 」
暗く狭いこの空間の先を見ようにも光が届かず、どこまで行くかも分から無いので質問してみたのだが、聞こえ無いのか、ずんずんと進んで行くハヤトは暫くすると、急に止まり振り返って人差し指を前に向けると
「ようこそ王城へ」
ドヤ顔のハヤトの後ろに、上に昇る階段が見えていた。
誇らしげな顔のハヤトを華麗に置き去り、登って行くと石造りの小さな部屋にたどり着いた。
ディアナが部屋の隅々まで確認するように見て、俺に聞く
「ねぇ、女の人が手を振ったりしてないわよね? 」
「……大丈夫だから……で、ハヤトこれからの流れは? 」
ディアナの質問を軽く流しつつ、ハヤトに聞いてみると、この部屋の唯一の扉に耳を当ててたハヤトが振り返り
「そうですね、取り敢えず外から音は聞こえては来ないので、このまま侵入して賢者の部屋に直行しましょうか? 」
遂に賢者と対決か……左腕の賢者に勝てるとはとても思えないが、上手く隙を付けば腕を盗む位は何とかなると信じたい。
俺達は静かに頷き、靴のスパイクが音を立てないように靴底に布を巻き付け静かに扉を開けた。
目に飛び込んで来た光景は、以前見たような赤い絨毯が端から端まで敷かれた長い石造りの廊下で、見た限り誰も見当たらない。
俺が左右を確認していると、後ろから上着の裾が引っ張られる。
「どうした?」
顔を引っ込めてすぐ横のディアナに聞くと、ハヤトを指差し
「扉を閉めた方がいい気がするらしいわよ」
チラリとハヤトを見てみると頷き俺を見ている。
ハヤトの運を信じ扉を静かに閉め皆が話をしているところに顔を出したその時、けたたましい音がしたと思うと立って居られない程の激しい揺れに襲われた。
激しい音と揺れが数回続き、扉の外を走る音が聞こえてくる。
「なっなんだ……何が起きたんだ? 」
状況について行けない俺にディアナがポツリと呟いた。
「とんでもない魔力を感じたわ。外で大量の魔力が飛び交っているみたいよ……」
「僕はディアナさん程は分かりませんけど凄い数の魔力でしょうか?」
「ひゅう、凄いねこりゃ。この魔力、人間だな、凄いヤツもいたもんだ」
三人の話を聞きながら俺とフォルスは顔を見合わせる。
「俺にはちょっと分からないけど、人間でそれだけの魔力って事はコウイチの奴が戦ってるのか? 」
「ひょっとして今がチャンスでしょうか? 」
俺達がそんな事を呑気に話していると、目の前のフォルスが淡く青の光を放ち出した。
驚き皆を見ると、ディアナやハヤト、カールさんまで青く光出す。
「え? 俺だけ光って無いけど? 何事? 」
「呑気な事言ってるんじゃないわよっ! 強制転移よっ! 気を付けてっ! 」
理解が及ばない俺を怒鳴るディアナが目の前で青い光を放ち煙の様に消えて行く。
フォルスやハヤト、カールさんまで俺の目の前から次々と消えた……
「……強制転移って何だよ……どういう事だ……」
俺の体ももしかして光っているのかもと、確認してみるが光ってる様子は無い。
光ってはいないが、少しだけ右目の奥が痛みを放つ。
「またリオスの目か? まさか守られてるのか……」
混乱している頭で考えてみるも理解が及ばないが、ディアナが無事なのが何となく理解出来た俺は、大きく深呼吸をして頬を叩く。
少しばかり冷静になった俺は腹を括ると扉を開け廊下に躍り出た。
廊下にいた数名の騎士と目が合うが、構うこと無く色の無い世界に飛び込み駆け抜ける。
目的地は不明だが、先ずは王を確保して賢者の居場所を聞けば良いだろう。
皆それなりに無事な筈、俺は俺の役目『トキヨミ様の体を集める』だけだっ!




