6話
契約の文言……
赤い顔して爆発しているディアナから、何やら不穏な言葉が飛び出して来た。
「あのーディアナさん?俺、何か知らない内に契約しているのでしょうか?」
思わず丁寧になってしまった。
俺は悪く無い筈だ、只でさえ訳の判らない事の連続で言葉も理解出来ず、分かる様になった途端このザマだ。
しかしディアナは納得出来る筈もなく、俺のボロボロの襟元を掴むとボタンを引き千切りつつ胸元を開けやがった。
「ぁぁぁぁぁ」
はっきり言ってかなり綺麗な顔をしている。静かにさえしていれば、何処ぞのお嬢様と言われても誰も疑わない、そんなディアナがその長い睫毛が触れるぐらい近付いて更に俺の上着を引き千切っている。
俺の口からは羞恥の言葉しか出て来なくても、誰も文句はない筈だ。
俺の左胸にある絡まった二匹の蛇の紋様を指でなぞりながらディアナは小さく息を吐いた。
只、俺の頭の中はその指の温もりや、小さく吐かれた息の感触に頭の中が真っ白になっていた。
「……嬢ちゃん、坊主が可哀想だから離れてやったらどうだ?」
ゴードンさんが溜息を付きながら助け船を出してくれ、すぐさま自分の状況に気付いたのか俺の方を見ない様にディアナは飛び退いて行った。
何だろう少し名残惜しいです。
美少女に詰め寄られドキドキするって駄目な気がする。
かなり俺から距離を取ったディアナは、怒りなのか羞恥なのか俯き真っ赤な顔のまま上目遣いで
「ごめん、傷が治ってるからまさかとは思ったんだけど……ちゃんと契約紋あるか見ないと……」
どんどん声が小さくなっていくと、思いきや
「……けどあんたはちゃんと私の下僕になってた訳で、良かったわ!」
胸を張って自信満々で言い切った。
ゴードンさんが苦笑いを浮かべている。
うん、胸鎧がないからハッキリと分かる慎ましい胸を……
ディアナの視線がキツくなった。
「取り敢えず分からないから聞くんだけど下僕ってどう言う事?俺には話が見えて来ないんだけど?」
我ながら上手く切り返せた気がする。
「あんたは死に掛けてたのよ、手足は変な方向向いてるし腰も捩れてて上半身と下半身が明後日の方向を向いてたし、血も池が出来るほど流れてたの。でとんでもない死体だと思ってたら頭が動いて私を見たでしょ?だから治してあげたのよ。……けどあの状態から治すには、下僕にする呪文しか知らなくて……死んでない限りは治す事の出来る呪文だから……一応聞いたのよ、下僕でもいい?って……」
とても申し訳無さそうに説明するディアナだが、性格の上下の激しさをまず謝って欲しい。
ただ、どうやら何で生きているのか不思議のレベルの死に掛け、と言うかほぼほぼ死体だったらしい。
だが救われたのには違いなく、腰を深く曲げながら頭を下げお礼をしたのだが。
「何?海老の真似?あんたねぇ……お礼を言う時は真面目に言うものよ。けど……まあ私も助けて貰ってるし……ありがとう」
ディアナの感謝に微妙に驚きつつも、当たり前の様にしてしまったその動きに、何故だか違和感を感じない俺がいる。
「あーゴホンゴホン。仲が良いのは良い事だが嬢ちゃんよ、その下僕の呪文とやらはそんな簡単な魔法なのか?」
態とらしくゴードンさんは話に入って来つつ、余程未知の魔法が気になったのかもっともな質問を投げ掛けている。
「……おじ様そんな訳はありませんわ。あれだけ強力な大魔法ですもの、生涯にたったの一度と大婆様から聞かされておりますわ。」
とんでもない事を当たり前の様に言う誇らしげな表情のディアナがそこにいた。