59話
「何度しても慣れないなぁ」
「まあまあクロさん、一瞬で来れたんですから気持ち悪さは諦めましょう。まぁ街の外れですけど無事着いたみたいですし」
目眩を感じる、転移の気持ち悪さに呟くとハヤトに諭されてしまった。
確かにもう王都なんだろう、俺達の居る街外れの路地にも人々のガヤガヤとした声が聞こえてくる。
「ねぇ、とりあえず私達は良いとしてもカールさんにはフード付きのマントが無いと騒ぎが起きるわよ」
チラリとカールさんに目をやると布を巻き付けた体、黒い肌そして側頭部から生えた巻き角と横に長い耳……確かに一発で人間じゃないと分かるな。
「じゃあ俺とディアナで服を探して来るから三人は待ってて」
「……クロさんもディアナさんもお金持ってるんですか?」
そう言いハヤトはジャラジャラと金属の擦れる音のする革袋を懐から取り出した。
「それに、街の感じも分からないですよね? 僕が行きますから待ってて下さい。フォルスたん行きましょう」
そう言い残すとハヤトは当たり前の様にフォルスと手を繋ぎ路地から出て行ってしまった。
「ねぇクロ、あんたお金持ってる?私は無いけど」
「いや、見た事も無いな」
「金なんか無くても奪えば良くないか? 」
ディアナもカールさんもどうやらお金には縁がないらしい。
まぁ今までの旅を思い返してみてもお金が必要な場面に遭遇していないし仕方がないのだろうなと、とりあえず俺は一人で納得する事にしといた。
「ところでさ、これから忍び込むとして良い案はあるのか?」
「そうね、あんたが門兵といざこざを起こしてる間に忍び込むのはどうかしら」
「すぐ捕まるだろっ! 」
何て馬鹿なやり取りをしていると、慌てたハヤトとフォルスがパンパンに膨れ上がった革袋を持って帰って来た。
しかし、二人の様子が何だかおかしい。特にハヤトがいつも以上に挙動不審になっている。
「どうした……」
「すみません、僕の顔が指名手配されてたみたいで……」
「いたぞっ!こっちだっ!仲間も居るぞっ!! 」
「王都の騎士です……」
顔を見合せた俺達は、路地の入り口から次々と現れる鎧に身を固めた騎士達とは反対方向に一斉に走り出した。
「ハヤト、王城までの道案内よろしく頼むわ」
「騎士の居ないであろう路地を通るので逸れないでくださいね」
「皆さんこれを着てください」
ディアナとハヤトが走りながらルートを決めていると、フォルスが人数分の黒い丸めた布を投げて来る。
広げるとフード付きのマントで、カールさんがいそいそと被っている、ので俺もそれに倣い走りながら羽織っておいた。
前から向かって来た騎士を避け、ディアナ達が横道に入っていくのを確認した俺は色の無い世界に飛び込み、前から走って来る騎士の一人の首を掴みそのまま後ろの騎士に叩き付け、崩れ落ちるのを見ながら横道に飛び込んだ。
横道に逸れた俺の耳に騎士達の悲鳴がと鎧同士がぶつかる音が届き、ディアナが俺が何かしたと気付いたのかチラリと見て言う。
「いいから今は取り敢えず急ぐわよ」
着いて行く俺達の目の前でハヤトが急に薬屋に飛び込んで行き真似するように俺達も飛び込むと、にこりと微笑む背の曲がった老婆が座っており、それを横目に奥に入るとハヤトが床板を捲っていた。
「ハヤトさんっ! 何やってるんですかっ? 」
「あぁ驚く顔のフォルスたんも美しい……」
「いいから急げバカ野郎っ!」
訳の分からない事を口走り出したハヤトの尻をカールさんが蹴り、ハヤトを床下に押し込んだ。
「フォルスちゃんも照れてないで早く行くっ! 」
カールさんに怒られては敵わないと、俺達も急いで飛び込むと、外から静かに床板が閉められた。
「ここは僕がよく使ってた道なんですよ。まぁ下水道なんで少し臭いのが難点ですが、安全に城までたどり着きますから」
ハヤトはそう俺達に伝えると、壁に掛けてあった松明を取り歩き始めた。
チラリと横を見ると、ディアナは青い顔をしており、カールさんは鼻を摘まんでしかめっ面をしている。
フォルスはと言うとハヤトの隣でニコニコしているようだ。
「ねぇハヤト、ここは安全地帯って認識でいいのかしら? 」
俺の腕にしがみついて離れようとしないディアナがそう聞くと、振り返ったハヤトは
「この道は大昔の下水道で、今は使われて無いので大丈夫ですよ」
「ほー、まぁ強運の勇者様を信じるさ」
俺がふざけて言うと腰の辺りを叩かれてしまった
「ちょっ、ディアナ叩く事はないだろ」
「何言ってんの?私の腕はここにあるのに叩ける訳無いでしょ」
「じゃぁカールさんが叩いたのか? 」
「あんたはバカか。この距離で手が届くかっ! 」
ん? ディアナを見ると俺の腕にしがみつき青い顔のまま真剣に前を見てるし、カールさんは3メートルは離れてる……
誰だ、俺の腰を叩いたのは……




