58話
暇そうにしている二人と一匹は、転がり込んできた俺とディアナを見ると大きく欠伸をして立ち上がった。
「二人もその様子では大丈夫だったみたいですね」
「心配しました」
どうやらそれなりに心配は掛けていたらしく俺達の様子を見て安心したようだ。
俺としては二人と一匹が元気そうで胸を撫で下ろす。
「さて、ドワーフの夫婦ってどう言う事なのかしら」
ニヤニヤしながら、意地の悪い質問をしているディアナをチラリと見つつ俺はカールさんに近付き
「なぁカールさん、魔族のレシって知り合いだろ? 色以外はソックリだよな」
俺が掛けた言葉に反応して羊姿のカールさんは面倒臭そうに立ち上がると、全身の関節を激しく鳴らし大きく身震いし、短かった手足が伸び。
樽型だった胴体にくびれが出来ると細くしなやかに伸び、羊の様な前に長い黒い顔が縮み整った見覚えのある顔になり瞬く間に人型のカールさんになった。
「全く……まあアイツが行ったからもう良いけど、アイツには内緒にしてくれよ」
目の前で行われた人化に、流石に衝撃を隠す事が出来なかった俺は口を開け、目を見開いていたのだが、そんな俺を軽く小突くと革袋から布切れを取り出し、いそいそと体に巻き始める。
「おっおお……そんな感じで変身するんだ……流石にビックリした」
「何がだよったく。で、何が聞きたいんだ? 」
「ごめんごめん。さっきの魔族のレシって知り合いだろ? 」
レシと同じ顔をしたカールさんは腕を組むと、向こうで盛り上がってるディアナ達に声を掛け呼ぶ。
「あーあれだ。何度も言うのは面倒臭ぇからまとめて言うが、あのレシは妹だ。つまりだ、あたいは魔人だ!……以上」
何だその投げやりな……
「えっ、と言う事は獣人さんじゃ無いんですかっ! 」
「ごめんよ、フォルスちゃん。騙すつもりは無かったんだけどなんか言いづらくてね……」
「別にいいんじゃない? 魔人でも獣人でも、ねぇフォルス」
「っそうですねっ! 仲間には変わりないですし、これからも一緒ですよねっ! 」
ハヤトが感動した様子で、このやり取りを見ているが俺にはよく分からないんだが……
俺ってひょっとして感情が薄いのか? まぁ考えても分からないから良いんだけど……よしっ
「なあ、そろそろ王都に行かないか? 」
「……ねぇ、クロ?あんたこのフォルスと、カールさんの状況を見て何とも思わない訳? 」
「ん?どう言う事だよ? 」
「ディアナさん言いづらいんですが、ひょっとしてクロさんは、不死者になった時に感情を多少捨てたのでは?欲求も薄くなってるんですよね?」
「ハヤト余計な事を言うなっ!」
ハヤトの言葉を聞き、顔を暗くしたディアナの手をそっと握り
「ハヤト、悪いけどそこには触れないで欲しい。ちょっとディアナと話して来るから待っててくれないか」
俺は俯いたディアナの手を引き、元来た明るい廊下に戻る。
俯き顔を見せないディアナに胸の辺りが少しばかり痛む。
引っ張り連れては来たものの、こう言う時は何を言えばいい……
言葉を探す俺に、俯いたままのディアナが消えそうな程小さく聞いてくる。
「ねぇ……欲求だけじゃなく感情も減ってるの? ……」
俯いたまま呟く、ディアナを愛おしく思うこれは感情だろう。
俺は喜べるし怒れるし愛情も有るはずだし、楽しい気持ちも感じられる。
「大丈夫だ。元々の俺の事が分からないから何とも言えないけど、ディアナと出逢えた事を喜べるし、ディアナに何かあれば怒れるし、ディアナを愛おしいとも思えるし、ディアナと一緒に居たら楽しい。確かに薄くなってるかも知れないけどちゃんと感情はあるから心配しないで欲しい」
「……こんな所で……恥ずかしいじゃない……馬鹿」
真っ赤な耳のディアナが俺の胸元に顔を埋めて来る。
大丈夫だ、今この状況を幸せと思える。
扉の向こうから見ている三人を軽く睨み付けながら、暫くの間ディアナを抱きしめた。
「やっと戻って来たね」
ニヤニヤとカールさんが話しかけて来る。
ディアナと俺自身が落ち着くまで抱きしめてから合流したのだが、覗いていた三人がずっとニヤニヤしてるし、ディアナは俺の手を離そうとしないしで何だか落ち着かない。
けど、そろそろ転移石を使って王都に行くべきだろう。
「そろそろ真面目に王都に行こうか。当初の予定通り……」
「最初の予定では強奪、逃亡の予定だったわよね。けど賢者を勝てそうなら退治するわよ、良いでしょ? 」
やはりディアナの中では退治するつもりらしい
フォルスもハヤトもカールさんまで頷いてるし……
「無理はお互いにしないようにしよう。勿論フォルスにハヤト、カールさんも……」
顔を見回しお互いに頷いた俺達の視線が自然とディアナの右手に集まる。
ディアナの握り込んだ右手が青く光り、軽い目眩に似た感覚に襲われた。




