57話
「今のは悪く無いねぇ」
扉に集中していた俺達に突然声がかかる。
大量の水に飲み込まれそうになるディアナを支えつつ慌てて声のした方向、上を見上げると巻き角の生えた色白な顔の、巻き毛でモコモコした下着の様な服を着た女が浮いていた。
「えっ……カールさ……ん? 」
「誰だそれ? わたしは魔王軍のレシだ。探しもんついでに来たが随分と大量だな」
何を? 魔王軍? 探し物? 何の事だ?
俺が思考を巡らせていると、ディアナが小さく震える
「っとアンタっ! なんか恨みでもある訳っ! この水どうにかしなさいよっ! 」
水が冷たいのかディアナが少し青い唇になりながらもレシとやらを怒鳴る。
それを聞き何が楽しいのか、口角を上げたレシが
「あーごめんよぉ。オネェさん魔女だろOK だ! しかし灰色っお前は何だ、変な魔力が出てるが人間か? 亜人か? 」
「いや……人間か亜人かと言われると、不死者としか……」
「OK アンデットだな!しかし生きのいいアンデットも居るんだな……初めて見たよ」
なんなんだコイツは、何を一人で納得してるんだ?
と言うか、こいつもリオスも人の事をゾンビだアンデットだと失礼な。
「レシさんだっけ?話が見えて来ないんだけど、どう言う事なのか説明して貰えるかしら?それと寒い……」
「おお、ごめんごめん」
レシが指をパチンと小さく鳴らすと、ディアナの首まであった水が一瞬にして何事も無かったかの様に消えてしまった。
その光景に驚きはしたものの、前にディアナが放った水の魔法が、綺麗さっぱり消えたのを思い出し納得してぼんやりと見ていると
「アンデット君驚かないんだねぇ。この規模の魔法見た事あるのかい? 」
「まぁね。それなりに死地は潜り抜けてるからね」
俺の言葉を聞き、目を開くレシだが大きく笑うと
「いやいや良いね。魔女に使えそうなアンデット、魔王様に喜んで貰えそうだ」
また一人で納得しているレシに、いい加減腹が立って来た……
「だからどう言う事だよっ! 」
思わず怒鳴ってしまったがレシは気にした様子も無く、にへらと笑みを浮かべ
「喜びな。今度の戦争でわたしの軍に入れてやるから。あっちの亜人と魔物も仲間なんだろ、珍しいよなドワーフの夫婦に魔物って、お前らどんな旅してんだよ」
「ん? ドワーフの夫婦? 」
「ありゃ? 違うのか? 二人共喜んでたがまだ恋人止まりか? 赤髪と髭の無いの」
ん? フォルスとハヤトだよなぁ……ハヤトはドワーフだったのか?
悩んでるとディアナが耳打ちしてきた
「多分あの体型が原因よ、ドワーフは筋肉質でふくよかなのよ。まぁハヤトは筋肉質では無さそうだけど……」
なるほどそう言うもんか、しかし戦争とかややこしい事に巻き込まれそうだな……
「申し訳無いけど私達、王都に行かないといけないから戦争に参加は無理ね。他を当たって貰えるかしら」
「ん? 何だお前らもう誰かの下についてるのか? 随分早いな。ちょうど魔王様が宣戦布告したのが人間の王都だぞ」
「「はいっ? 」」
どういう事だ? 待てよ……そう言えばセントの野郎が戦争がどうのこうの言ってたな。
「そう言えば、王都に賢者や勇者を集めてるって聞いたな。そう言う事だったのか……」
「まぁ、そう言う訳だ。で王都に何をしに行くんだい」
「私達の目的は賢者退治よ」
ディアナが胸を張って言ってるが、いつから退治する事になったんだか……
ディアナはの言葉を聞き、明後日の方向を見ながら一人首を振るレシは
「なるほど、利害は一致するな。何なら王都まで飛ばしてやろうか? 」
「レシさん、本当かっ!魔法でかっ! 」
「おうおう、随分と食い付いてくるな。いいぞ、賢者を殺ってくれれば後が楽になるしな。おっとそうそう、この地下で国落とし様を見なかったか? 」
顔を見合せ首をひねる俺達をみて
「国落とし様だよ、国落としのメルツェデス様だよ」
「ごめん、会ってないな。と言うかその人を知らないし、聞いた事も無いな」
「かーっやっぱりか、まあわたしも居るとは思ってなかったしな。まぁ他所を探すさ。」
あまり気にはしてないのか、レシは一人納得したかの様に何度か頷き、胸の辺りのモコモコの下着の様なものに手を入れると何かを探し出した。
俺はなんの気無しに眺めていたのだが
「クロ、見るんじゃないのっ!」
何故だろう、怒られてしまった。
ディアナに睨まれつつ下を向き待っていると、レシがディアナに何度か見た事がある青い石を投げて寄越す。
「使い方は分かるだろ。わたしは他所を探すから隣の部屋で待ってる奴等と王都に飛びな。賢者は任せたよ」
そう一方的に言うともう一つ青い石を出し、光と共にどこかに消えてしまった。
あの石、目眩がする奴だよな……
「なぁ、何だったんだろうな……」
「本当ね……でも転移石は儲けたわね、早く合流しましょ」
なるほど、転移石ね。
ディアナに突かれた俺は、先程まで全く開く気配の無かった扉にチカラ強く手を掛けたのだが、驚く程軽くいた扉に俺とディアナは倒れこむように部屋に飛び込む。
そこには時間を持て余し暇そうに待つ二人と一匹がいた。




