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56話

 俺達は消えたリオスを探して見たのだが全く見当たらない。本当に煙の様に消えてしまった……

 とりあえず何だか悔しかった俺はリオスの椅子に座ってみたのだが、これが見た目にそぐわず物凄く気持ちいい。

 冷んやりとした黒い革はとてもしなやかで、程よい弾力もある座面に重厚な木のフレーム……


「あぁ……」

「ちょっとアンタ、白目向いて涎垂れそうになってるわよ……どんだけ気持ちいいか知らないけど、お見せ出来ない顔になってるから立ちなさいよ」


 少し呆れた表情のディアナに諭され立ちはしたものの、そんなにだらし無い事になってたのだろうか?

 気になり、ハヤトに目を向けると逸らされてしまった……


「で、どうなの?その目?片目黒くて片目紅いって随分とまた個性的になったわね」

「んーどうなんだろ?最初は流石にぼやけてたけど、今は普通に見えてるかな?……うん、いつものディアナだ」


 腕組みをし俺を観察しているディアナにそう言うと、小さく息を吐いき


「……アンタねぇ……そこはハヤトみたいに、かっ……かわ……い……」


 何かを言い掛けたディアナだが、そっぽを向いてしまった……む、耳が赤いな。

 後ろではフォルスとハヤトが騒いでるし……全く緊張感の無い事で……


「なぁ、ここに居てもリオスはもう出て来ないだろうし、進もうかと思うんだが。」


 俺の言葉に暇そうに座ってた羊姿のカールさんが立ち上がり歩き出す。

 慌てて追い掛けるようにフォルスがバタバタと走り出すと、着いてハヤトが歩き出した。

 俺とディアナは最後尾をのんびりと着いて行くとしよう。


 一番前を歩くカールさんが次の通路に入った辺りでフォルスとハヤトが合流し暗い通路に消えて行く。


「ねぇクロ、急いで追い掛けないと迷子になるわよ」

「流石に曲がり角とか有れば待ってくれるだろ」


 二人と一匹が見えなくなった辺りでディアナが心配そうに裾を掴んで来たが、まぁ大丈夫だろうとのんびり歩いて通路まで来たのだが……


「「あれ? 」」


 俺とディアナの声が細く天井の高い通路に響く。

 高く見上げる天井の、石造りの真っ直ぐな廊下は意外な程の明るく、まるで外に出たのかと錯覚する、晴天の日中のような明るさなのだが、その何も無く細い真っ直ぐな廊下の見える範囲に誰も居ない。


「あっ……だから言ったのに……」

「いや……嘘だろ? ……おーいっ! おーいっ! 」


 ひょっとして隠れているのか? と、その何も無い廊下に向けて叫ぶも、俺の声が響くだけで誰も出て来てはくれない。


「おいおい冗談だろ……ディアナ、取り敢えず走ろう」


 こんな道の分からない坑道で置いていかれては堪らないと、ディアナの手を引き駆け出した。


 この長い廊下はどうやら外からの光を取り込んでいるらしく天井を見上げるとうっすらと空が見える。しかも廊下を造っている石が他とは違い白く艶のある石の為、物凄く光を反射して明るさを保っている様だ。


 ディアナが着いて来れる程度の速さで走りながら廊下を観察してたのだが、どうにも隠れるような所も見当たらず目の前に大きな扉が見えて来た。


「……ねぇ、やっぱり先に行ったのよね? 」

「多分……けどおかしくないか? 俺達を置いてそんなに先に進むか? 」

「そうよね……どう言う事なのかしら?」


 俺とディアナが扉の前で話していると、いきなり廊下が薄暗くなり湿度の高い風が流れて来た。


「ねぇ、何だか暗くなって来たわよ……」


 不安げな表情のディアナがキョロキョロと辺りを見回し、俺の腕にしがみついて来る。

 天井を見上げると、どうやら雲が掛かっているのか先程まで光が射していた天井が薄暗くなっている。


「多分、雲が掛かっただけだろ。大丈夫」

「違うわ……魔力を感じるのよ……」


 魔力か……俺には分からないけど、ディアナが言うならそうなんだろうな……


「あのね……言い辛いんだけどここに居たら不味いと思うの……」


 ディアナが歯切れ悪く言い掛けたその時、突然雨が降って来た。


「あー不味いな。仕方がないから扉開けて進もうか……」


 そう言いながら扉に手をかけた俺の言葉が止まってしまう

 扉のノブを何度回しても開く気配が無い。


 雨もどんどん強くなり、今ではまるでバケツをひっくり返したような雨になっていて、この細く長い廊下の膝辺りまで水が貯まって来ている。


「ねぇ、クロ? 早く開けなさいよっ!」


 ディアナが隣から急かしてくるが一向に扉が開く気配がない。

 引くも押すも全く動かず、背中の剣を抜いた俺はディアナを下がらせ扉に斬りつけた。

 が、まるで空気を斬りつけたかの様に何の手応えもない。


「クロ退いてっ!」


 俺が退くとほぼ同時に詠唱を完成させたディアナの手にしたトキヨミ様の枝が眩く光り、空中に大きな土の杭が現れるとそのまま扉に激突する。


 ディアナの胸元まで水が上がって来たこの状況に焦りつつ、水飛沫と土埃の舞う扉に俺達は注視していた。



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