55話
薄暗い坑道の中なので分からないが朝が来たのか、何だか久しぶりに寝た気がする俺は皆が起きるまで剣を振ろうと、ディアナを起こさない様に静かに間仕切りを出て少しだけ離れた場所で剣を振っていたのだが
「クロさん、おはようございます。いや素晴らしい朝ですね、鳥達も元気に鳴き朝日が実に気持ちいい。」
何だかいつも以上にテカったハヤトが坑道の中だと言うのに訳の分からない事を言いながら現れた。
「あっああ……おはよう。体は大丈夫なのか?」
「いやそれは、もう何と言いますかゲフンゲフンでして……」
あぁ駄目だ、会話にならない……
俺がハヤトと全く噛み合う様子を見せない会話を繰り広げていると、ディアナとフォルスが赤い顔をして小声で話しながら起きて来た。
最後に出て来たカールさんは何故か羊姿で現れる。
「おーおはよう」
「あっうん……おはよ」
変な空気の中、声を掛けると何だかディアナの顔が赤くなっていく。
フォルスは赤い顔のまま何だか悶絶してるし、ハヤトはそのフォルスを見て悶絶してるしと、中々の混沌とした空気の中、俺は間仕切りの布を回収してカールさんの背中に載せるとギロリと睨まれる……
相変わらずの対応の悪さだな……
「じゃあ準備も終わったし進もうか」
引率員の如く皆を引き連れ、この岩盤剥き出しの発掘現場を所々フォルスに聞きながら進んで行くと、またしても石造りの広い空間に出た。が、この空間には何も無くただ真ん中辺りに豪華な革張りの椅子が一脚あるだけの空間だ。
革張りの椅子は黒い革が張られておりとても座り心地の良さそうな一人掛けの大きな椅子だ。
良く見てみようとフラりと近付いた俺の目の前に突然、黒い煙が現れそれが俺の左胸を貫いた
「狩場へようこそ。そしてさようなら」
俺の意識は暗転した。
……………
意識が戻って来た俺の目の前に、銀色の髪をオールバックにした紅い目の黒服の男が、右手に俺の心臓と思われる物を持って少し目を見開き俺を見ていた。
「驚いた、同族かよ……参ったな」
背中の剣を慌てて抜き、男の目の前で構える。
男はゆっくりと両手を上げるとニヤリと不敵に笑う。
「同族って何だよ」
「そのままの意味だよ。不死者だろ?いきなり襲ってすまんな。同族と争うつもりは無いから行ってくれていい」
そう言うと男は煙の様に消え、次の瞬間には椅子に座っていた。
何なんだこの男は? いきなり攻撃をして来て、もういいだと?
何を言ってるんだ……と言うか同族?
「待て、同族ってお前の主人は何処だ?魔女は? 」
「主人? 魔女? 何を言ってるんだ? オレは一人だぞ、何とち狂った事を言ってるんだ。大体だ、孤高の吸血鬼にして吸血鬼の始祖、吸血鬼の王のこのリオス様に主人が居る訳が無いだろう」
「「吸血鬼っ!」」
俺達の声がこの椅子だけの空間に響く。
吸血鬼のリオスは一瞬だけ斜め上を見ると
「ん、何だ? お前、不死者だけど吸血鬼では無いのか? て事はゾンビみたいなものなのか?しかし……復元速度の速さといい…… 」
そう言い俺の顔をチラリと見た後、皆に目をやると小さく頷き
「面白いな、長生きはするもんだ。……つがいの変な不死者と、亜人に人間に魔物のパーティーなんて物を見る事になるとは……付いて行っていいか? 」
さっきから色々度肝を抜かされっぱなしの俺達のさらに度肝を抜きに来る。
「あの、すいませんが僕の知識では吸血鬼は太陽の光は……」
「何だ食料? 何か言ったか? 貴様は脂が乗ってて実に美味しそうだな」
ハヤトを見てニヤリと笑ったリオスに、ハヤトとフォルスが大袈裟なほど身構えた。
リオスから見てハヤトは食料なのか……
「待て待て、リオスだったか?仲間を食料として見る奴を連れて行ける訳ないだろっ!」
「熱い不死者だな全く、若いな。心配するな着いて行くのは俺の目だけだ」
そう言いリオスはおもむろに綺麗な紅い自分の右目に指を突っ込むと、ぐちゃぐちゃと掻き混ぜ始めた。
離れてるから良かった様なもののなかなかの光景だ。
この広い静かな空間に水気の多い粘土を混ぜる様なネチネチとした音だけが響く。
本人的に納得するまで混ぜ終わったのか、目を引き抜くと椅子から立ち上がり煙の様に消えたと同時に俺の目の前に現れ、俺の顔を覗き込んで来る。
現れたリオスの目は元通りになっていて、あぁリオスもやっぱり不死者なんだと妙に感心してしまった。
「なぁ……目をどうやって連れて行くんだ? 」
「なぁに簡単さ。こうするんだよ、灰色の不死者よ」
にこやかに笑うリオスの指が俺の右目を突き刺した。
「ガァアッ! ……リオステメェ……ん?」
すぐ消えた痛みに気を取られたが、視界がおかしい事に気付く。
ざわついてるディアナ達に目をやるとディアナが俺の顔を見て息を呑む
「アンタ……片目が紅いわよ……」
何だかぼやけ二重に見える右目がリオスの目に変わっている様だ……
「なぁに、じきに慣れるよ。オレにも君の世界を見せておくれ」
そう言い残しニヤリと笑ったリオスは、煙の様に消えてしまった。




