52話
「ディアナ、コウモリだったってさ」
カールさんの持つコウモリを見て、少しばかり安心したのか大きく息を吐いたディアナだが
「何だか嫌なのよね……」
そう言い、俺の腕にもう一度ぎゅっとしがみついて来る。
何だか坑道に入ってからディアナの距離感が近い気がする。
何かあったんだろうか?
そんな事を考えつつ薄暗い空間を歩いていたのだが、唐突にフォルスが足を止め進行方向を凝視している。
「フォルスちゃんどうしたのさ? 何か見えたのかい? 」
声を掛けられたフォルスは、実に不思議そうな顔をして振り返ると
「この坑道ってもう捨てられてる道の筈なんです。所々とは言え灯りが点いてるのがどうしても気になって……ドワーフは一度鉱物が無いと見切りを付けると、普通はもう来ないんですけど……」
フォルスは青い顔をして何やら心配しているが
「王都までの最短距離の道なんだろ? 普通に人の往来に使われてるんじゃないのか? 」
「ふむ、確かに使わない手は無いですね」
俺とハヤトの言葉を聞いて頷くディアナとカールさんだが、フォルスは相変わらずの青い顔のまま
「言い伝えなんですけど……捨てられたドワーフの坑道には、悪魔が住むって言われてるんですよね……」
その言葉を聞き、俺の腕にしがみついたままのディアナが大きく身震いをした。
「やっぱり外の道を行くわよ、クロっ! 」
「何バカな事言ってるんだよ、割りと歩いて来たのにまた戻るとか面倒だろ。所詮言い伝えだって」
全くディアナには困ったものだと、しがみついているのをいい事にずるずると引っ張って行く。
他愛の無い会話をしながら呑気に笑い進んで行くと、看板のある上下への別れ道が現れフォルスの案内で俺達は深い地下へと降りていく
「ここから先は居住区では無くて、採掘現場になるみたいですね。女のあたしは採掘現場には入れないので初めて見るんですよ」
やはりフォルスも土の民なんだろう、採掘現場と分かると楽しそうに顔を綻ばせている。
先程まで歩いて来た居住区とは違い壁や床は石造りでは無く、岩盤剥き出しで所々に木のアーチで補強をしているようでそれなりの空間に幾本もの柱が見える。
採掘の道具だろうか、所々に壊れた道具やまだ使えそうな道具が放置してあり、何だか今からでも仕事が始まりそうな雰囲気を醸し出している。
ドワーフの人達は引き上げの時に道具を持っては行かないのだろうか?
「やっぱりここ何だかおかしいです。道具を放置だなんてあり得ません…… 」
俺達と同じ様に観察していたフォルスが、小さく呟き考え込んでしまった。
「あたし達ドワーフには道具に精霊が宿ると伝えられているんです。だから、例えば壊れた道具は持ち帰って供養するんですよ。……だからあり得ないです…… 」
そこまで言われてしまうと、何て言ったらいいのか……
俺達が考え込むフォルスをどうしたものかと顔を見合わせていると、空気を読まないカールさんが
「て事はだ、その大事な道具を捨ててでも逃げる必要があったって事だろうな。悪魔が出たのか? 」
この羊とんでもない事をサラリと言いやがった……
いや、待てよ……
「ちょっとそれってここに居るのはまずいんじゃ無いのかしら? 」
「ふむ、しかし何百年も前の坑道ですよね。カールさんの言うのが正しいとしても流石に……」
「……ブオォォォ!! 」
青い顔のディアナを宥める様なハヤトの発言に、まるで被せるかの様に坑道全体を震わす程の大きな音が突然響いて来た。
もう、魂が口から出るんじゃ無いかとばかりに、驚いて泣きそうなディアナとフォルスを見つつ俺とハヤトは武器を構える。
「あの声は牛だね」
相変わらずの平常運転なカールさんは置いておくとして、ディアナ……離してくれないと動けない……
何時もの気の強さはどこに置いて来たのか、涙目のディアナは俺の左腕から離れようとしてくれない。
「クロさん、姿が見えないのですが声の主はどこに居るんでしょうか?と言うかフォルスたんも怖いなら僕の腕に…… 」
弓を構えたまま辺りを見回すハヤトは、カールさんにしがみつくフォルスを見て何やら戯言をほざいているが、それよりも
「なぁ、気のせいかな?何だか重いものを引き摺るような音が聞こえるんだけど…… 」
「……やっぱりあんたにも聞こえるのね」
「カールさん近付いて来てますよね……」
この狭くは無いが決して広くも無い岩盤剥き出しの空間で、反響してるが確実に前から何かが来ている気がする。
俺はディアナの頭を軽く撫でてそっと腕から離すと、数歩皆より前に出ていつでも動けるように剣を構えた。
ディアナやフォルスも慌てて武器の用意を始めた様で、ガサガサと擦れる音が後ろから聞こえてくる。
前から聞こえてくる引き摺る音に、息を呑み集中していると突然、前方の岩盤を補強している木のアーチが爆発したかの様に弾け飛んだ。




