51話
俺が呆れつつフォルスを見ているとハヤトのフォルスを呼ぶ声が聞こえて来て来る。
振り返るとカーリーホーンが静かに傾き倒れ始め、呼ばれたフォルスは斧を手にちょこちょこと走って行ってしまった。
「さて、残された俺達は肉を詰める準備でもしようか」
そう言って背負っていた革袋を降ろし中の荷物を仕分けしていたのだが
「あんたはいいから、あっちで素振りでもしてなさい。お肉はしとくわ」
塩の小壺を持ちながら自分の革袋を漁ってるディアナに言われてしまい、仕方なくディアナに俺の分の革袋を渡し少し離れた邪魔にならなそうな場所で素振りを始める事にした。
五百回を数え一度休憩と、草の上に腰を降ろしたところでハヤトも追い出されたのか歩いて来る。
「ハヤトも追い出されたのかー? 」
「えっ? クロさんが寂しがってるから相手して来てって、ディアナさんに言われて来たんですよ」
そう、にこやかに返されてしまった。
……何なんだこの待遇の違いは……
俺が恨めしく睨むと、女組の方からキャイキャイと何だか楽しそうな黄色い声が聞こえて来る。
「はぁ……ところで、ドワーフの坑道って何かフォルスから聞いた? 」
ボーッと女組いや、フォルスを見つめているハヤトに聞いてみると、思いの外大きなリアクションでハヤトが飛び跳ねる様に振り返り話始めた。
「ブフォ!……僕が麗しのフォルスたんから聞いた話によりますと、本来はドワーフ、土の民の仕事場と住処らしくて、大地の地脈に沿って採掘しながら進む道らしいです。今から僕達が向かう坑道は何百年も前の道らしいです。しかし、土の民の住んでた所と言う事はですよ、フォルスたんが育った所とも似ている訳で僕はもう……」
あぁ……ハヤトがどこかに行ってしまった……
仕方ない、素振りでもするか。
一人恍惚の表情を浮かべ話し続けるハヤトをそっと放置して、俺は素振りを続ける事にした。
「いつまでするつもりなの? そろそろ行くわよ」
どれ程経っただろうかディアナが呆れ顔で話し掛けて来た。
「ああ、ごめん。すぐ用意する」
「別に良いわよ。ハヤトがまだおかしいし、それよりもあんた剣の使い方上手くなったわね」
すぐに汗を拭いて行く用意を始めた俺に、ディアナが楽しそうに珍しい事を言って来た。
そう言えば、ディアナに言って無かった事を思い出し
「実は森人の村の外れで剣を教えて貰ったんだ」
「ふぅん。森人に剣の達人なんて居たのかしら? 」
「いや、黒髪の女の子……」
「ふんっ! 」
ディアナは俺の話を最後まで聞く事なく、顔を赤くするとそっぽを向いて行ってしまった……
一体なんなんだ……
俺を置いてズンズンと進んで行くディアナを追い掛けながら考えてみたが、答えが出る事もなく、俺達一行は小さな丘の中腹にある、石造りの重厚な扉の前に何事もなく辿り着いた。
「ここですね。多分何百年も放置されてる筈ですから灯りが点くかどうかも怪しいですけど、王都に行くには最短の筈ですよ」
そんな事を言いながら扉を開け入って行くフォルスに続いて入って行くと、そこには所々に明かりの灯った天井の高い石造りの長い長い廊下が見えた。
何だか奇声を上げているハヤトの事は触れず足音の響く石の床を歩いて行く。
俺達の靴の裏には鉄のスパイクが付いているし、カールさんは蹄だしで、とにかくこの坑道には響く様で四人と一匹? とは思えない程の音が響いて来る。
「ねぇ、ゴーストとか出ないわよねぇ? 」
そんな可愛らしい事をディアナが言いつつ歩き続けていると、俺達は石造りの廊下から突然、太い柱が何本も立つ大きな空間に出た。
「フォルス、ここは何なんだ? 」
「この造りからして、多分居住区だと思いますよ」
俺の疑問に返してくれつつ辺りを見回している。
「フォルスたんどうしたの? 」
その見回している動作があまりにも不自然に見え、ハヤトが心配そうに聞いている。
「いえ、何と言いますか……この坑道は誰も居ない筈なんですが……誰かが居る気がするんです……」
そのフォルスの言葉に俺の後ろを歩いていたディアナがいそいそと横にくっついて来る。青い顔をして背中を少しだけ丸め、キョロキョロと辺りを見回してながら俺の服の裾を掴んでいる。
この大きな空間もいくばかの灯りが点いてはいるが、どうしても光の届かない場所があるらしく確かに薄気味は悪いが怖がり過ぎだろうと言ってやろうと思った矢先、俺の鼓膜を引き裂くような甲高い悲鳴が真横から上がった。
俺達全員が少し浮いたんじゃないかと思うぐらいびっくりしたし、実際カールさんは飛び跳ねた。
「……ちょっ……ディアナ何かあったのか? 」
「何かが見てた……あの影の所に何か光ったの……」
俺の腕にしがみつき青い顔をしているディアナが、奥の方の乱立している柱の陰になっている辺りを指差し怯えている。
そのあまりの様子に心配になったのか、カールさんは一人で走って行ってしまった。
少しばかりして帰って来たカールさんは、満面の笑みで両手にコウモリをぶら下げていた。
「食料見つけたぞ! 」




