44話
長い廊下に鉄のスパイクの音を響かせ走る俺の後ろを、事も無げに着いて来るカールさんに安心感を覚えつつ、ふと思った事がある。
「カーリーホーンって変身するんですね。」
長い廊下を走りながらカールさんに問いかけると、後ろから後頭部を殴られた。
「あんな下等で可愛くない魔物と一緒にするな!大体カーリーホーンを見た事あるのか?あいつら馬鹿みたいにでかいんだぞ!」
ん?カーリーホーンじゃない?
そんな疑問が頭をよぎりつつ階段に突き当たり、息を整えているカールさんを横目に階段を見上げる、ざっと二千段位か?
上に上がる道しか無いし、上からディアナの気配を感じる。
諦め駆け上がり始めると後ろから何やら聞こえてくる。
「何であたいがこんな所を往復しなくちゃならない。飯を奮発して貰わなきゃ割に合わないよ……ったく」
ん?往復?そう言えばカールさんはどこから来たんだ?
「カールさん、ここってどこなの?」
「ああん?地下だよ地下。あんたらの泊まった宿の近くの教会の地下っ!」
とんでもない所に放置されていたらしいな……
って事はこの上の教会にディアナがいるのか?
何で教会に?
考えに夢中になりすぎたのか、カールさんに小突かれる、慌てて振り向くと
「ちゃんと前を見ろこの馬鹿っ!」
理不尽に怒られてしまった。
何で俺の知り合う女性はこうも短気なのか……
怒られ過ぎて心が折れそうになりつつも息を切らせ階段を上りきった俺達は、終点にある赤錆た扉を少しばかり開け中を覗いてみた。
見えるのは石造りの廊下と壁、後は所々に灯されている蝋燭ぐらいで薄暗くこれなら気付かれず行けるか。
と、勢いよく開けると扉の陰になっていた所に立っていた男と目が合った。
「なっ……てめぇどうやっ」
男の言葉を最後まで聞くことが無く、カールさんの蹴りが男の側頭部にめり込み石壁と挟まれ男は崩れ落ちた。
巻き付けてあった布切れが捲れ上がると羊毛の塊の様な下着姿だった……
今の動きやその姿に唖然とする俺と目が合うといそいそと布切れを巻き付け
「……あんたは細切れにされたいのか?……早く行くぞ」
冷たく言い放ち足早に進むカールさんを慌てて追いかける。
人が居る事が分かり、出来るだけ音を立てないように進んでいると曲がり角の先から複数の足音と話し声が微かに聞こえて来た。
「もう魔女裁判は始まるみたいだぜ」
「あれ、本物か?」
「本物かどうかなんて、どうでもいいだろ。裁けば信者は大喜びさ」
角に足を止め聞き耳を立てていた俺達に聞こえて来たのはそんな不吉な言葉だった。
魔女ってディアナの事だよな?裁くってなんだ?
コツコツと近付いてくる足音に思考と呼吸を止め、全速力で話をしながら歩いていた三人目掛け飛び出す。
まだ今の俺にはシズネさんの様に、止まらず三撃など出来る筈もないので先ずは一人。鎧を着込んだ三人のうち面を開けている一人の顔面を全力の拳で振り抜いた。
右の拳が裂け血が飛び散り肘から先の感覚も無いが出来るだけ止まらずに、男の血を被らない距離まで走り抜き振り返ると、顔面を陥没させ吹き飛ぶ男とそれに呆気に取られている二人の男がいる。
呆気に取られている男の一人をカールさんが跳びはね、首を膝裏で固定したまま石造りの廊下に叩き付けると悲鳴をあげる事なく男は絶命する。
そして、呆気に取られていた最後の一人は身の危険からか我に帰り、持っている剣ですぐ横のカールさんを斬ろうと振りかぶるが、瞬時に俺が懐に飛び込み、鎧の胸部を思い切り蹴り飛ばし仰け反った男の顔を潰れた右手で打ち抜いた。
先程までの音が消え、俺の中に沸いてきた不快感を堪えつつ三体の亡骸を見て物思いに耽っていると
「ふぅん。あんた……クロだったっけ?意外と見た目によらずやるねぇ。てか、その手大丈夫かい?」
「そのうち治るから大丈夫ですよ。」
カールさんが何やら感心した様子で聞いてくるので軽く返す。が、それよりも、何だか傷の治りが遅い……
何時もなら、遅くても再生が始まっている筈なのにと、血の滴る潰れた拳を見る。
『お主の傷は魔女の魔力が癒し魔女が傷付けばお主も傷付く』
トキヨミ様の言葉が脳裏を掠め、嫌な予感が頭を過る。
俺の傷が治らないって事は、ディアナの魔力が無いのか……無事じゃないのか……
「カールさんっディアナが危ない!行きましょうっ!」
一人でモニョモニョしてるカールさんに声を掛け、手を引き全速力で駆け出す。
意外と足の速いカールさんだがやはりこの速度は無理らしく、血の気の引いた顔で引き摺られ付いて来ている。
色の無い世界で少しばかり廊下を走っていると、突如聞こえて来た大歓声に急いで近くの窓まで行き覗けば、三十人程の剣や槍を持った男達に囲まれたディアナが見える。
いつのまにか地下から数階上まで登っていたらしく上から見下ろす形になっていて、ここからはよく見えるのだがディアナは首と手を鎖で繋がれ膝を付き座らされた形で斧を向けられている。
事態は分からないが、ここが何階かなんて考える間もなく俺は窓から飛び出していた。




