41話
ハヤトがフォルスの名前を大声で叫びながら走るのを追い掛けているのだが、何であの体型でそんなに機敏に動けるのか分からない、と言うぐらい迷い無く走り続けている。
俺の横を走るディアナを見ると物凄く難しい顔をしているのだが、何を考えて走っているのだか……
ハヤトは一片の迷いも無く来た道を戻り途中から知らない道に突入して行く。
やたらと武器屋の多い通りを冒険者や傭兵の間を潜り抜け走り続けるハヤトは突然立ち止まり薄暗い路地に突っ込んだかと思うとそのまま叫びながら見知らぬ店の中に飛び込んだ。
周りの店や家から街の人達が怪訝な様子でこちらを伺っている、この状況でハヤトに着いて行って良いのか考えていると、隣のディアナは俺の気も知らずにずかずかと入って行ってしまった……
仕方無いと覚悟を決め、見ている人達に何度か軽く頭を下げつつ店に入った。
奥の部屋の扉の所にディアナの白い髪が見え、覗いてみるとフォルスと髭だらけの筋骨隆々とした男と色白い長身の男が立っており、床には何故かハヤトが倒れている。
咄嗟に背中の剣を抜きディアナの前に出た俺は
「フォルスを返して貰うぞ!」
そう言い睨み付けると、フォルスと男達は目を丸くして顔を見合わせると大笑いを始めた。
状況が分からず、振り返りディアナを見るも首を横に振られてしまい途方に暮れていると
「立派な剣を持ってる小僧、お前が不死者のクロさんか?で、後ろの嬢ちゃんが魔女のディアナさん、でこの煩いのが人間のハヤトさんだな。」
髭の男は俺達の事をそう呼び、ニヤニヤしながらフォルスを見ている。
この状況は一体何事なんだよ……
取り敢えずこのよく分からない状況にディアナが痺れを切らしたのか
「フォルス、拉致されてる訳では無いみたい……よね?何なのこの状況は?ハヤトは何してるの?」
気になった事を言ってくれたディアナは腕組みしつつも不思議そうな顔をしてフォルスや男達、そしてハヤトを見回している。
聞かれたフォルスは手にしてたカップを置くと
「ディアナさん大丈夫ですよ。髭モジャさんはドワーフで細長い人は助手さんらしいです。」
「そう、良かったわ。で、フォルスお二人のお名前は?」
とりあえず害は無いのだろうと判断したのか、ディアナがフォルスに男達の名前を聞くと、フォルスは途端に挙動不審になり目を泳がせ、男達を見た。
フォルスと目が合った髭の男は小さく息を吐き
「やれやれ。ワシはシュレスだ、この店で鍛冶屋兼店主をしとる。まぁ、見て分かると思うがドワーフハーフだ、よろしくな。こいつは助手で人間のハンスだな。で、嬢ちゃんはフォルスタンなのかフォルスなのかどっちなんだ?」
フォルスは名前も知らない相手とお茶を飲んでたらしい。
全く無用心な事だな……所でだ、ハヤトは何故倒れているんだ?
フォルスです!と叫んでいるフォルスに声を掛けハヤトを指差してみた。
「おぉ、すまんな。あまりにも煩くてつい殴ってしまった。はははっ」
髭の男ことシュレスは悪びれる事も無く言うと手にした柄の長い大きな金槌で突っついている。
まぁ生きてるなら取り敢えずはいいかと自己完結した俺は、長身の男ことハンスの淹れてくれたお茶を飲む事にした。
「所でフォルスは何でここにいるの?いつの間に来たの?」
お茶を飲み一息ついたディアナは、やはり事の起こりが気になるみたいでフォルスと話し込んでいる。
さてどうするかとハヤトを突っついていると、ソワソワとしたシュレスさんが話し掛けて来た。
「小僧、すまんが少しばかりその背中の剣を見せてはくれんか?」
「すいません。師匠は鍛冶屋馬鹿でして。」
笑いながら良いですよと剣を抜き渡すと、神妙な顔をしたシュレスさんが革の手袋をした手で恐る恐るといった様子で受け取り、柄頭から始まり切先までじっくりとくまなく見た後大きく唸った。
「小僧よ、この剣は誰の作なんだ?見事な一振りだ。」
そう深く吐く様に言うと剣を戻して来た。
少しばかり考えた後、
「誰が作ったかは知らないけど、何でも大昔の戦争の時に剣聖が使ってたらしいですよ。エント様に刺さってたのを貰ったんですよ。これで鍛えろって」
笑いながら古木との会話を思い出す様に伝えると、この話にはハンスさんが思いのほか食い付いて来た。
「大昔の戦争でエントって亜人戦争ですよね?千年以上前の剣なんですか!」
「神代の剣聖が使っていた剣か……俄かに信じ難いが、そう言われると納得してしまう程の見事な一振りだな……実に良い物を見せて貰った。」
そう言われても今一ピンと来ないが何であれ褒められると嬉しいものだ。
ふと気が付くとディアナとフォルスも覗き込んで来て、へーだのほーだの言っている。
「さてと、良いものを見せて貰ったお礼に小僧に靴をやろう。」
そう言い隣の部屋に行ってしまった。




