32話
「くそっ!モブと豚メガネの癖にっ!!大体亜人の森なんかで何してやがる、あの中ボスと何かあるのかっ……」
魔力消費のあまりの激しさに目眩と息切れに襲われつつ何とか帰って来たのだが、どうしても納得がいかない。
時の魔法は体への負担がデカすぎる、オレの魔力を持ってしてもこの有様なのに、あのモブは一体何をしたんだ……時魔法特化だとしても、このオレでこれだ、何でだ。
部屋の壁を散々殴り、少し落ち着いて来た所でオレにチカラをくれた女神の言葉を思い出した。
『今から行く世界にはねぇ貴方以上のチートが居るかもだからねぇ。うふふ』
あまりにもふざけた喋りだったから信用して無かったけど、そうか。そう言う事か!
オレに勝つにはそれ以外有り得ない。
そうと分かれば単独で当たらなければ良いだけだ。
執務室に来たオレはブクブクと太った大臣を捕まえ
「今から拝謁したいのだが?脅威が迫っているんだ、早く陛下に伝えねばいけない。」
魔導の勇者として、この国に多大な貢献をしているオレの意見はすぐに通り謁見の間に通された。
見た事、聞いた事を危機が伝わり易い様に色を付け陛下に伝えると、玉座の横に居た大臣が陛下に耳打ちをしている。
「強運の勇者が転移者……恐らく時の魔法を使う者と森人の森で何やら画策をしていたとの事。勇者の後ろに木の魔物が居た事を考えると何やらよからぬ事をしているのでは無いかと。」
青い顔をした、醜く肥えた陛下は
「そんな馬鹿な!あのハヤトが亜人共に寝返ったと言うのか!まさか……しかし……魔物を従えていたとな。むむむっ、今すぐ五賢者と勇者達を集めよ!急ぐのだぞ、して魔導の勇者よ……」
全く、豚同士仲の良い……何故、豚メガネが名前で呼ばれているのにオレが肩書きで呼ばれるんだ。
どいつもこいつもクズばっかりだ。
まぁいい、各地に散らばってるアイツらもそのうち集まるだろう。
オレの暗く歪んだ笑みは謁見の間にいる誰もが気付かなかった。
ーーーーー
ディアナの部屋の椅子に腰掛けまだ眠ったままの横顔をボンヤリと眺めながら考える。
俺がちゃんとディアナを守れる様にならないと、その度に苦しめてしまう。
けど……その方法が分からない……
記憶の中の剣聖はひたすら戦っていた、ただ愛おしい人を見付ける為だけに人と戦い、亜人と戦い、魔物と戦い……思い返してみても何処かで修行した記憶はなかった、とにかく剣を振っていたなぁ……
古木も『これからはこの剣を使えばいい、今までの剣より重いが振っておれば慣れる。魔力耐性の高いこの剣ならあの程度の魔法でヒビは入らんだろう。』って言っていたし。
確かに言われるまで気付いて無かったけどヒビ入ってたなぁ……
『その剣貰えんか?』とか言うから、ゴードンさんに貰った剣は古木に渡したし……慣れるまでこの剣を振るしか無いんだろうなぁ……
チラリとディアナに目をやる、森人の薬と神官が掛けてくれた魔法のお陰で気持ち良さそうに寝ている。
全く、こんなに悩んでるのに……あぁダメだ、剣を振って邪念を飛ばさねば。
一人で含み笑いを堪え、傍に置いておいた大きく重い剣をヨイショと背中に背負い部屋を後にする。
村の外れ、森との境界まで行き人の目が無い事を確認した俺は、背負って来た剣を抜き改めて見てみる。
鍔から樋を通り切っ先付近まで、二匹の蛇が絡まり登っている様な意匠が施された白銀の両刃剣。
雷と共に打ち込まれ長い間古木に刺さっていた、と言う割にはとても綺麗な刃をしている。
「ふぅん。二匹の蛇か……やっぱり魔女絡みなんだろうな……」
小さく呟き、唯一しっくり来る上段に構えるが、今迄の剣よりかなり重く、よろめきそうになるのを足を踏ん張りこらえるとそのまま振り下ろした。
風を切る音を立て振り下ろされた剣の重量に負け、そのまま持って行かれそうになるのを歯を食い縛り持ちこたえると、腕や腰が嫌な音を立て激痛が走るが慣れる為、ディアナにごめんと心の中で呟きひたすら上段から振り下ろす。
空が茜色に染まる頃、遂に腕が上がらなくなり剣を手放すとそのまま土の上に大の字を書いた。
「……っはぁ……こんなのでいいんだろうか?まぁ後半は重さが何だか気にならなくなった気がするけど……しかし何故だろう懐かしい気がする……」
これが正解かどうか分からず一人呟き、呼吸が落ち着くのを見計らってから村に戻ったのだが、俺達が借りている建物の前でディアナが腕組みをして立っていた。
何だか機嫌の悪そうな顔をし、目一杯眉間にシワを寄せたディアナは俺と目が合うと
「あんたね、魔力の無駄遣いするんじゃないわよ!ゆっくり寝させなさい!!」
どうやら俺が魔力を使い過ぎて起こしてしまったらしい。
俺が特訓すると魔力を使い、魔力を使わない様にすると特訓出来ない……理不尽だなぁ……




