31話
俺を支えたままのディアナは事の起こりが理解出来ていない様で、エント様達が怒り悲しんでいるのが何故だか分からない。
意味も分からず辺りを見回すディアナを見て、一人のエント様が呟いた。
「……魔女だ……殺せ」
「殺せ……殺せ!」
エント様達の呟きはやがて叫びに変わり森に木霊する。
この状況に、未だ追い付かず目を白黒させるディアナを守る為にディアナの前に出たのだが、こちらから攻撃をする訳にもいかず、かと言ってあの巨体から繰り出される攻撃を不死者ではないディアナが耐えれる訳がない。
ディアナに事の状況を説明しようにも、エント様達に囲まれている為トキヨミ様の姿を見る事も叶わず、時折伸びてくる枝に打たれながら耐えるしかなかった。
「……クロ、何事なの?」
倒れる事もせず只、打ち付ける枝に耐えていると後ろから、か細い声が聞こえて来る。
説明するべきなのか?ディアナの性格上、状況が理解出来れば前に出て解決しようとするだろう、しかしそれではディアナが危ない……どうすればいい……
俺の葛藤を他所に、このよく分からない状況に痺れを切らせたディアナが俺を押し退け前に出た。
「一体何事でしょうか?私が何かしたのでしたら……っう」
目の前で一際大きなエント様がディアナを掴み持ち上げる。
俺の体に胸から腰にかけて強烈なチカラで締め付けられる様な痛みが走る、この痛みはディアナが今、耐えている痛みだ。
「待って下さい!」
俺は喉が張り裂けんばかりの大きな声で呼び続けるのだが、怒りに暴走しているエント様達には届か無いのか見向きもしてくれない。
次第に体を襲う痛みは増し、大地が揺れる様な目眩を俺が感じた時、ディアナの意識が飛んだのか手にしていた葉が一枚だけ付いた枝が落ちた。
暴走していたエント様達の視線が枝に集まり、地を揺らす程の怒声が止まり森に静寂が訪れ、誰とも言わずエント様がそれは大事そうにまるで赤子を抱く様に恐る恐る拾い上げた。
集まったエント様達はその枝に視線を集め、まるで愛おしい人を見ているかの様な目で静かに佇んでいる。
朝方、古木から聞いた話しなら、あの枝がトキヨミ様の魔力が込められている枝なのだろう。
ディアナがトキヨミ様から貰った物らしいが、あんな枝より掴まれたままの気を失っているディアナを助けなくては、また暴走されると不味い。
気付かれ無い様に一際大きなエント様の足元まで近付いた所で、村に近い方にいるエント様達から少しずつ左右に分かれ道が出来、話し相手をした古木がゆっくりと近付いて来た。
「すまんな儂の友よ。根の調子が悪くての、何百年ぶりかの歩いたのは。」
古木は足の様な根を引き摺りながら、俺の前まで来るとゆっくりと腰を下ろし根を張った。
「落雷様、友とはまさかこの魔女と眷族の事でしょうか?」
古木に話し掛けるのはディアナを掴んだままの大きいエント様だ。
古木は落雷様と呼んだそのエントを睨み付け
「若木が儂の友に何をしておる、トキヨミ様の恩恵を頂いた二人だぞ。丁寧に降ろせ馬鹿者が!!」
温厚な古木が突然怒鳴り、その声の大きさに思わず肩が揺れる。
若木と呼ばれた大きなエント様はまるで叱られた子供の様な顔を一瞬したが、すぐに先程迄の荒ぶる顔に戻ると、足元の俺を一瞥し
「落雷様は長く歩く事をしなかったでは無いですか、トキヨミ様からこの者達が枝を奪った様子は見ていないのでは無いでしょうか?どうして貰ったと決め付けるのです。」
どうだと言わんばかりの自信満々な顔をし、古木を見る。
だが、それを聞いた古木は大きくため息を付き周りを見渡す。
「お主達は若木達に鳥や獣の声を聞く事を教えておらんのか?儂らエントは鳥や獣と共に生きていると何度も伝えている筈だがの?なんじゃお主達の目や耳は飾りなのか?使わぬなら捨ててしまうがいい。」
古木は静かに、しかし確実な怒りを言葉に秘めゆっくりと語り掛けた。
その静かな怒りは足元の俺をも震わせる様な明確な怒りを秘め、この場に居る全てのエント様達が恐れおののいている。
「いいから枝曲がりよ、魔女を降ろすのだ。落雷様がお怒りだ。」
見かねたのか細く曲がりくねった、枝振りの立派なエント様がディアナを掴むエント様、枝曲がりに静かに声を掛け、古木に頭を下げる。
「落雷様、申し訳ありません。我らの騒ぎの為、ご迷惑をお掛けしました。」
古木はゆっくりと降ろされたディアナを優しく見ると
「くねり幹よ、謝罪の相手が違うであろうが。とにかく魔女殿を村に届けよ。して儂の友よ、少しばかり話しをいいかの?」
俺としてはディアナの状態が気になるので、出来れば着いて行きたいのだが……助けて貰った以上、残らない訳にはいかず頷いた。
横目でエント様達に運ばれて行くディアナを見ながら、古木の根に腰を下ろし見上げるとにこやかな古木と目が合う。
何だろう?孫を見る目の様な……不思議そうに見ている俺に古木は幹の上の方の焼け折れた辺りを触りながら言う。
「儂の同胞が申し訳ない事をした、詫び代わりと言う程の物でも無いが儂の気持ちだ。受け取ってくれんかな友よ。」
友と呼んでくれる古木の手の中に一本の剣が見えた。
「コレは大昔の戦での、儂がまだ元気だった時分に剣聖に雷と共に落とされた剣だの。儂の幹の大半を焼き折った元凶だの。」
古木はそう言うと懐かしそうに剣を眺めてから渡して来た。




