27話
激しく吐き気を伴う頭痛と共に、濁流の様に流れ込んで来た剣聖と呼ばれた男の記憶、その生涯を強制的に叩き込まれ俺は意識を失っていた様だ。
小さな農村に生まれた極平凡な少年が恋をして、そしてその恋を失い、拐われ恋人を捜す為生まれた農村を棄て、ただひたすら旅をし我流で剣を修め高みに辿り着いた男。その男は言った。
「重い剣を使い誰よりも速く振れば斬れぬ物は無し」
……見せてくれたトキヨミ様には申し訳ないけど、何の役に立つんだこの記憶……せめて型とか構えとか技とか……
意識がこちらに戻り目を開けると何やら皆が一点を見つめて居る……フォルスに至っては今すぐにでも駆け出しそうな空気を出しているが……一体何だ?
首を回しそこを見てみると、ハヤトと黒髪の後ろ姿が見える。
黒髪の男の伸ばした指先が光り輝いているが、あれはハヤトを攻撃しようとしているのだろうか?
「……馬鹿にするなぁぁ!!」
ハヤトが怒鳴り声をあげるのを聞き、即座に飛び出した。
ほんの一瞬でハヤトの前に辿り着いた俺の目の前に、殺意の篭った光が一筋の帯となって迫り来る。
周りの空間の全てが止まって見え色さえも追いつかぬ中、迫り来る光を見つめふと思う、
「誰よりも速く振れば斬れぬ物は無し」
あの男が見せた剣筋をなぞる様に、ただただ速く限りなく丁寧に
色が戻り、時が思い出したかの様に動き出した中、あの男の様に振った俺の剣は光を切り裂いていた。
遅れてやってきた全身の筋が千切れる様な痛みも、ディアナの魔力のお陰かじきに消えて行く。
軽く息を吐き、ハヤトを殺そうとした男を見てやろうと顔を上げると、見た事のある男、コウイチが目を見開き固まっていた。
何でコウイチがここにいるのか全く理解出来ない俺はハヤトに助けを求め様と振り返ったのだが、何だか俺を見るハヤトが気持ちの悪い笑みを浮かべているのがとても怖い。
何故コウイチがここにいて、殺されそうだったハヤトが満面の笑みなのか……怖い
「誰だお前!ってか今何した!何なんだ!!」
我に帰ったのかコウイチが俺に怒鳴り付けて来るが、コイツ俺を覚えてないのか?
怪訝そうな顔をしているであろう俺をマジマジと見たコウイチは
「お前ひょっとしてあの時のモブか?どう言う事だ!何で生きてる!!」
ようやく気付いたコウイチは、俺を指差しまるで化け物を見る様な目で見る
「あの時お前の首は確かに切った……筈だ、どう言う事だ!何故生きてる!……お前……能力は何だぁ!!!」
いきなり大声を張り上げたコウイチは指先から無数の光の帯を放つ、俺の背後にはハヤトが居るが見えるなら何も問題は無いと思ったのが、剣聖の剣筋はそう簡単にはいかないようだ……
色の無い世界で一斉に進んで来る光の帯に剣を当てる事は辛うじて出来たが、切り裂く事は叶わず精々数発を反らしかなりの数を体に喰らう、だが幸いにして痛みの少ないこの体を酷使してコウイチの首に剣を突きつけた。
さっきの一撃は偶然の産物かはたまた奇跡だったのか……
突然剣を突きつけられたコウイチは一周回って冷静になれたのか、首に剣を当てられているにも関わらずニヤリと笑い
「成る程ね。お前の能力は時間操作系か、モブだと思ったけど良いの持ってるじゃないか。けどな」
コウイチの言葉と同時に俺の右肩を何かが貫いた。
噴き出す血を至近距離で浴びながら、大きく肩で息するコウイチは
「時間操作がお前だけと思うなよ、オレはな時間魔法も勿論使える。」
そう言うと俺を突き飛ばし大きく息を吸った。
コウイチの奴、何か勘違いしているが、時間を操作されるのは流石にまずいな。
肩の血も止まり立ち上がった俺がディアナとフォルスにチラリと目をやると、ディアナは何やら小さく呟いている様だし、フォルスは斧を構え飛び込むタイミングを計っている様だ。
もう一度二人を見て頷き、大きく息をしているコウイチに斬りかかった、のだがまたしても俺の体に傷が付く。
左の手首が血を吹き地面に落ちる。
コウイチは先程までよりも遥かに苦しそうに何度も大きく肩を揺らせ僅かに焦点の合って無い目で俺を睨み付けている。
「ど……うだ……お前みたいな……モブとは違うんだ……」
一体何がコウイチを突き動かしているのか俺には分からない。
「何でそこまで苦しそうにしてるのに戦うんだ?」
俺の言葉を聞き終わる前に、たたらを踏み座り込んでしまったコウイチは悔しそうに小さく呟くと光と共に消えてしまった。
コウイチが消えたのを確認し、新しい左手の感触を確かめた後、振り返りハヤトに聞いてみる。
「あいつ、何したいんだ?あんなになる魔法まで使って……」
駆け寄って来たディアナとフォルス、ナダちゃんもハヤトを見ている。
ハヤトは小さく息を吐き顔を歪めると
「コウイチは多分だけど、今まで思い通りにならない事がなかったんだと思いますよ。いつもオレが正しいオレが主人公だって口癖みたいに言ってましたし。」
ハヤトの冷めた感じの妙に冷たい言葉が俺達の間に響いた。




