26話
僕は運が良い。
本当に運が良い。王都では幸運の女神に愛された男とか、強運の勇者とか呼ばれる程運が良い。
前の世界ではとことん運に見放され死んだ僕だけど、あの時神様にお願いして本当に良かった。
ニール君を探しに行って、フォルスたんに出会い、そして今、目の前でディアナさんと抱き合って友情の涙を流している、尊いフォルスたんを目の当たりにしている。
あの尊いフォルスたんの涙を瓶に詰めて持っていれば、もっと運が上がりそうな気がする。
あぁ……きっと喋らずとも伝わるトキヨミ様なら今、僕の心を読んで大きく頷いてくれるに違いないだろう。
それにフォルスたんが友情の涙を流し、しゃくり上げる度にあの高く結ばれた絹糸の様な美しい赤いポニーテールがご機嫌なリズムで揺れるのを見ているだけで、幸せな気持ちになれると言うものだ。
クロさんは相変わらずの状況で、当分復帰は無理そうです。
ナダはトキヨミ様とまだ話しているし、カール君ではちょっと……
ふむ、このフォルスたんへの熱い気持ちを誰に話せばいいのやら。
そこで僕は閃きました、この森、いや聖域はエント様達に囲まれています。
僕は見渡すと捩くれ曲がった一体のエント様の前に座り、この迸る熱い想いを口にしようとしたのですが
「豚メガネなんだよここは、エルフってか亜人だらけだな。っお、何だ?中ボスみたいなのがいるぞ、木に埋まる裸の美女とか何祭りだこれ?」
聞き覚えの有る嫌らしい声に振り返り見ると、何故かコウイチが笑いながら居ました。
「何で貴方が此処に?」
精一杯つまらない素振りをしてみましたがコウイチの奴は気にも止めない様子ですね。
コウイチの奴がフォルスたんをマジマジと見ています。大変です、コウイチの女好きは王都でも有名なんです。
「フォルスたんを見るのは辞めてくれますか?」
僕の声が思いの外響いた様で、フォルスたん達以下省略はこちらを見て警戒して居る様ですね。
フォルスたんの熱い眼差しに僕は滾りそうですが、此処は冷静に行きましょう。
「お前相変わらずマジで気持ち悪ぃな。取り敢えずオレの女と亜人の女、何人か貰って行くから。ついでに中ボスは討伐が基本だよな。」
そう言い歩いて行くコウイチに殴り掛かったがアッサリ躱されてしまいました。
森人もディアナさんも大切な仲間です、森人達は良い隣人ですしディアナさんはフォルスたんの大切な友達です。
そもそも中ボス?トキヨミ様は大ボスです。
僕には運しか能力はありませんが、それでもです。
今日ほど自分の腕力の無さを恨んだ事は無いでしょう。
「何?豚メガネ、オレに攻撃する気なの?死ぬの?」
そう言うと指先を僕に向けコウイチは嫌味ったらしく笑い見てきます。
ふむ、僕に魔法を撃つのでしょうか?
「大体、豚メガネの癖にオレの女を攫うわ、亜人を囲んでるわでムカつくんだよ」
……
「大体何にも出来なくて運だけでチヤホヤされるとか舐めてんの?」
……
「豚は豚らしく残飯を漁ってればいいんだよ!」
毎度毎度、豚メガネと……
「この太った体を森人達は豊かさの象徴だと褒めてくれる!お前が馬鹿にするなぁぁ!!」
あぁ最後まで冷静では要られませんでした。
うんざりとした顔のコウイチの後ろから、走ってくるフォルスたん達以下省略が見えます。
最後にフォルスたんに心配して貰えるなんて本当に運がいい。
トキヨミ様、後はどうかお願いします。
小さく小さく祈りを捧げて僕は覚悟を決めました。
この世界での人生は本当に楽しかった、思い残す事は……無いとは言いません。
フォルスたんと触れ合ってみたかったですね。
コウイチの奴の指先が白金色に輝いていますね。ふむ、これは確か速度重視の光の魔法と、前に自慢された様な気がします。
気持ち良く一瞬で死ねるといいのですが苦しいのは勘弁して頂きたい。
あぁフォルスたんお幸せに……
そっと目を閉じた僕の顔が突風を感じました。
あれ?風の魔法でしたか?衝撃も一向に訪れませんし、どう言う事でしょうか?
恐る恐る薄目を開けた僕の前に、最近見慣れた灰色の靡く髪と変な鱗の服を着た人が剣を振った形で止まって居ました。
あぁ僕は本当に運が良い。
どんな方法を使えばトキヨミ様の横から此処まで約30m、光の魔法より早く来る事が出来るのでしょうか、全くクロさんは謎だらけだ、死なないらしいし、さらに得体の知れない移動方法を持っている。
ニール君から剣は素人だと聞いて居たのですが、魔法を切ったみたいですし……ふむ
僕には剣の事はよく分かりませんが、きっと凄い事に違いありません。
僕の考えが伝わったのか、クロさんは振り返り最高の笑みで僕に声を掛け、心配してくれる。
ありがとう神様。今世の僕は最高に幸せです。
あぁ友情とは実に素晴らしい。




