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18話

「そう言えば、この羊に名前とか付いてるの?」

 見える限りひたすら続く砂利道を歩きながら何の気なしに聞いてみた。

「羊?あぁこの子はカーリーホーンのカール君ですよ。野生種と違って大人しいんですよ。可愛いし賢いしあたし大好きなんですよ。」

「可愛い……ねぇ。凄く目付きが悪い気がするけど。」

 俺を睨み付けるカール君を見ながらそう呟くと

「目付きの事はクロさんは言えないですよ。カール君よりも野性的な目をしてますからね。」

 ……何だろうか、俺の周りの女の子達は何故口が悪いんだ……


「所で話変わりますけど、実際どこまで記憶が無いんですか?羊とかは分かってるみたいですし、会話に変な所も無いですよね。」

 ひたすら続くと思われた砂利道が大きな通りに交差する所まで来た所で、ふとそんな事を聞かれた。


 考えても見なかったが、よくよく考えてみれば不思議だな。

「そうだなぁ、正直よく分からないってのが答えなんだけど、俺の生まれた場所とか親の事や、今まで何をしてきたのかって言うのは全く分からないけど……それ以外、会話する事だったり動物の名前だったりってのは分かるんだよね。」

 俺が肩をすくめ答えると、フォルスは腕を組み少し考えた後で、

「と言う事はですね、クロさんの今までの人生が魔女の興味を引いた訳ですね。何か変わった生活をしていたのでしょうねぇ……王家の血筋とか、それこそ賢者様とか剣聖だったりしないですか?あっ黒髪ですから勇者様かもですね。」

 ニヤリと笑い上目遣いで俺を見るフォルスが凄く悪い顔をしている……

 俺が一体何をしたと言うんだ。口に出し抗議するのも大人気ないと思いつつ、ふと後ろを見ると砂煙を上げ馬車が猛烈な勢いで走って来ている。


 俺は道を空ける為、悪い顔のフォルスの手とカール君の手綱を引き端に寄り馬車を見ると、もう御者がハッキリ見える程の所まで来ている。

 何をそんなに急いでいるのか歯を食いしばり目を吊り上げ必死に、目を血走らせ涎を撒き散らす馬達を走らせ三台の馬車は俺達を追い越して行く。


 通り過ぎる瞬間一瞬だけ一台目の御者の男は俺と目が合うと、さっきまでの必死な形相から一転、まるで憑き物が落ちたかの様に安堵の表情を浮かべ何やら声を上げ走り去ってしまった。


「……何か言ってたけど聞こえた?」

 俺には聞き取る事が出来無かったが、どうやらフォルスには聞こえたらしく

「あの御者の方、「すまないねぇ」と言ってましたよ。何の事でしょうか?」

 首を傾げながら聞いてくるフォルスの言葉を聞き、何か嫌な予感しかしない俺は馬車の来た道に目を凝らした。


「クロさん何か見えるの?ずっと見てますけど何もないですよね?」

 フォルスに言われハッとする、確かに何も見えないのだけれど……何だろう……

「いや、何も見えない……んだけど……行こうか。」

 何だか気持ち悪いがいつまでも見ていても仕方が無いし、早くディアナを助けに行きたい俺達は進むべき道、馬車の向かった方に足を向けた。


 その瞬間、背中を向けた瞬間に異変が起きた……

「うっく……うぅ、なっ何これ……」

 フォルスが青い顔をして座り込み、カール君は尻尾を巻き小さくなってしまった。

 そして俺はと言うと背中からやって来る、暴風の様な気配に身動きが取れなくなってしまった。


 記憶にある何度かの恐怖など歯牙にもかけない程の桁違いの恐怖、純然たる死が背後からやって来る。

 振り返るとそれだけで死んでしまう様な気配を発している()()が居るのは間違い無く、しかしこのまま背を向けて目を逸らし続けると精神が壊れてしまいそうな重圧の中、一緒にディアナを助けると言ってくれたフォルスを今守る為俺は気合いを入れ、歯を食いしばり振り返った。


 が、そこには先程までの死の気配どころか虫の一匹も居らず、図らずも肩の力が抜け息を吐いてしまった。

「何だ?何もいないじゃ無いか、何だったんだ?」

 気の抜けた俺は倒れて居るフォルスに手を伸ばし掴むと

「何だったんだろうな?フォルス大丈夫か?立てるか?」


 俺に起こされ立ち上がったフォルスは、俺の後ろに目をやりすぐさま大きく後ろに飛び下がるとカール君から愛用の斧を抜くと俺に向け叫んだ。


「っクロさんしゃがんでっっ!!」

 言うが早いか俺の頭があった場所を大きな斧が唸りを上げて通り過ぎた。

 髪の毛を数本持って行かれた俺だがしゃがんだ状態から横に転がり、剣を抜き背後に居るであろう何かに向かい剣を振った。


 手応えもなく風を切るだけの俺の剣とフォルスの斧だが、()()()はそこに居た。


 剣を構える訳でも無くだらりと手に持ち、目に激情を宿す訳でも無く……いや感情が存在するのかすら分からない、まるで気配の無い金髪の男が立っていた。

「お前達もか?」

 とても小さく呟いた()()()は、ゆらりと剣を持ち上げると猛獣の様に嗤った。

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