17話
「離しなさい!、クロっ!!……って何?何処よここ」
コウイチとか言う奴に掴まれた私は、ほんの瞬き程の間に見知らぬ部屋の中に居た。
足元は雨上がりの芝生の様に毛足の長い絨毯が敷かれていてとても柔らかい、石作りの壁は濡れているかの様に艶がありその壁に沿う様に杢目の綺麗な家具や調度品が上品に並べられている。
「何なの此処は!!」
叫ぶ私を、ニヤニヤといやらしい顔で眺めるコウイチは、頭の先から足の先まで舐め回す様に見て
「ここは王城のオレの部屋だ、良い部屋だろ。心配すんな、あのモブは気持ち良く一瞬で死んだから、ハハハ。今日からここはお前の部屋でもあるんだから、ソファーにでも座ってゆっくり寛いでくれ。オレはちょっと用事を済ませてくるから大人しくしてな。」
そう言いながら部屋を出て行こうとするコウイチの胸倉を掴み
「っクロは生きてる!馬鹿にしないで!!大体、此処が王城?王都そんな訳ないでしょ!」
ハッキリ言って私が動転してるのは自分でも分かってるが、勢いに任せ捲し立ててしまった。
「転移したんだよ、転移。まぁ一般の魔道士では到底無理な事だから、信じられない気持ちも分からなくは無いけどね。言っただろオレは全属性が使える上に魔力無限だからねぇ。まぁオレぐらいになると単独かつ無詠唱での転移ぐらい出来て当たり前なんだよ。分かったら離してくれるかな。」
嫌味ったらしく言うと胸元を手で払い、扉の前まで行くと振り返りもせず
「そうそう、あの赤毛のロリの事は豚メガネに伝えておくからそのうち会えると思うよ。あいつ運だけは凄いし、楽しみにしてて。」
……言う事だけ言って鼻歌まじりで出て行った。
けど、本当に王城なら居るのよね……けど、
「何なのよアイツ……まぁいいわ、とりあえず此処から逃げない……っ」
クロと契約した時に出来た左胸の紋様が熱を帯び、私の魔力を放出する……
大婆様が言ってたわね、契約した相手は私の魔力がある限りどんな怪我でも治るって……
「けど、契約して何回目かしら、死なない限り治るとしても怪我し過ぎよあの馬鹿……それに、分かってても焦るし……」
熱を持ち痛む左胸を押さえ、あの能天気な平たい顔を思い出すと気持ちが落ち着いて来た反面、無性に腹が立って来た私はすぐ側のソファーを蹴って、窓を開けに向った。
「すぐ戻るから待ってなさい。」
ーーーーー
「失敗したかな……」
村の人達は馬を貸してやる。と、言ってたのに乗れる自信が無くて断ってしまった……
「まぁ地図を見る限りでは真っ直ぐな一本道で、距離も近そうだから何とかなるだろう。」
と、村から出てからずっと続いている、胸程まである草に囲まれた一本道を歩いているのだが、ふと自分の足音ではない何やら草を掻き分ける様な音が微かに聞こえてくる。
振り返ると通って来た道を少しばかり逸れた辺りの草が揺れている、少しずつ近付くその揺れを見据え、俺は貰った食材の入った鞄を背負い直し、腰に差してある剣を静かに抜き構えた。
草の揺れと道の交差する一点を見つめそこへ駆ける。
草を掻き分け巻いた角が見えた、「そこだ!!」
俺が角と角の間に打ち込もうと剣を振り上げると、目付きの悪い黒い顔をした羊が顔を出し、その横から赤い頭が飛び出して来た。
「ちょっと!待ってクロさん!!」
突然の見知った顔の登場に剣の勢いを殺せない俺は、無理やり体を捻らせ剣の軌道を変え、砂利道に叩き付けるしかなかった。
「っと、フォルス?びっくりさせないで、切り付ける所だったよ。」
ジンジンと痺れる手で剣を腰に提げ直し、緊張を解く。
「ごめんなさい。この子を買ってたら出遅れちゃって……荷物持ち兼非常食として連れてきたから一緒に行きませんか。」
良く見ると黒い羊の背中には、フォルスの大きな斧の他に何やらパンパンに膨れた革袋が二つ程縛り付けられている。
「えっフォルスも王都に行くの?俺の髪はもう黒く無いから多分褒美は出ないよ。」
「クロさん……あたし達は王都のあの人からディアナさんを連れて来るのですから、褒美どころか下手したらお尋ね者ですよ。」
何だか呆れ気味なフォルスは、残念そうな目で俺を見ながら
「ディアナさんと折角仲良くなったのに、あんなのは無いですよ。楽しく旅を出来ると思ってたのに……それにあんな男の人大嫌いですから。絶対に助け出します。一緒に頑張りましょうね。」
「本当かどうかは置いておくとして、俺の死なない能力とフォルスのあの斧捌きがあれば何とかなりそうだな。ありがとう。」
「いいですよ。それにクロさんにはあの馬鹿げた足の速さもありますよ。」
笑いながら俺とフォルスは握手をして、羊と共に砂利道を進んだ。




