10話
松明を持った赤いポニーテール……いや、赤い髪の女の子は俺らを見るなり呟いた。
「それ、プテルスをあたしにも分けてくれませんか?実は道に迷い中で、お腹減って困ってたんですよ。」
赤い髪の女の子は、身長が俺の胸程の10歳ぐらいにしか見えない、しかしやたら発育の良い子でした。
俺の心の感想が聞こえたのか腕組みをしたまま小さく舌打ちをしてから
「良いですよ、どうせ二人では食べ切れ無いですし。私はディアナこっちの黒髪が下僕のクロ、と言うかこれ食べれるんですか?」
流石だ、俺以外には相変わらず丁寧なんだよなぁ。
「あっあたしは見たら分かると思うけど、ドワーフハーフのフォルスです。ディアナさんは食べた事ないんですか?下僕さんが着てるのプテルスの革ですよね?お肉は捨てちゃったんですか?」
……衝撃の事実が……
さっき俺を食べようとしたこいつの革を着ていたなんて……
何だかゴードンには悪いけど今すぐ捨てたくなる情報だな。
「あー俺達このプテルス?は食べた事無いんですよ。この服も知り合いが鞣して作ったらしいですし。……まあ食べれるなら捌いて三人で食べましょうか。」
俺の言葉を聞いて頷くとフォルスは松明を置き、背中に掛けていた俺の身長ぐらいある大きな斧をよいしょと手に持ち、振り上げるとそのままプテルスに打ち付けた。
その豪快なスイングはブレる事なく俺の低い鼻を掠め、プテルスの胴体と頭を切り離した。
「す……凄いわね……そんな小さい身体のどこにそんな力があるのかしら……あんた、鼻が低くて良かったわね……」
ディアナが呆れるのも無理もない、さっきから鼻歌混じりに丸太程あるプテルスをぶつ切りにしてるのだが、斧が地面に当たるたびにその小さい身体が重みに負けて浮いている。
側から見ると鼻歌混じりで大きくスキップしてる様にしか見えない。
まぁ手には大きな斧があるのだけれども。
「ところで見たら分かるって言ってたけどドワーフハーフの特徴って何?』
取り敢えず躍るフォルスを横目に、ディアナに聞いてみたのだが
「そんなの分かる訳無いじゃない。ドワーフハーフを初めて見たんだし、と言うか下僕さん焼くための薪でも探して来たら?働かざる者食うべからずよ。」
微笑みながら言うもんだから一瞬見惚れてしまったが、大人しく言う事を聞いて働くとしよう。
地面に置きっ放しの松明を拾い林に足を踏み入れながら思う、ディアナ……君も働かないと食べれないぞ……
松明に照らされボンヤリとしか見えない景色の中、なかなか薪に出来そうな手頃な枝を見付けれず右手で持つ剣で、ぶら下がっている蔦を片手間に斬り飛ばしながら何も考えずどんどん進んでいたのだが、ふと自分の足の下以外から細かい枝を踏むパキパキとした乾いた音が聞こえる。
「ん?ディアナも探しに来たの?頑張って働かないとねぇ……」
音のする方に振り返りながら松明を向けると、そこに居たのは真っ白い髪をしたディアナでは無く、明かりでほんの少しオレンジに色付いた銀色の毛をした大型犬ぐらいの可愛らしい狼だった。
「何だよびっくりしただろー。おいで。」
狼に向き合い目線を合わせる為しゃがんで、剣を置くと手を前に出し呼んでみる。
まぁ呼んだ所で俺は、何も食べ物を持って無いけど撫でたい誘惑には勝て無い。
狼はゆっくり寄って来ると俺の手をスンスンと嗅ぎ、おもむろに口を開けると一筋涎が垂れた。
嫌な予感がし手を引っ込めようとしたその時、本当にいきなり噛み付いた。
大型犬ほどの大きさしか無いこの狼の何処にそんな空間があるのか教えて欲しいのだが、俺の肘から先がスッポリと狼の口の中に収まった。
余りにもビックリして絶句してると、噛み付いたまま首を左右に激しく振り返りながら肘から先を喰い千切った。
「ん……っがぁぁぁぁっ」
右腕から血の雨を降らせている俺は絶叫しながら持っていた松明を投棄て右の二の腕を押さえたが、足り無かったのか蹲ったままの脇腹に牙を食い込ませて来た。
喉が潰れる程の声を上げながら、何も考えず、いや考えられずただ肘の先にある薄っすらと錆の浮いたそいつに助けを求めた。
ゴードンさんから貰った剣を掴みそのまま力任せに横に凪いだ、すぐ至近距離にある狼の首筋に一本赤い線を描きバランスを崩した俺はそのまま左に倒れた。
脇腹の肉を少しばかりくれてやった狼は、ほんの少し後ろに下がると冷静に次はどこを喰らうか吟味している様だ。
俺が投棄てた松明は離れた所で着々とその火を大きくしていた。




