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完全世界〜天国への扉〜

作者: 玄宗

「あなた、今日くらいは好きなもの食べたら?」

私は好きなものという言葉に戸惑った。

言葉の意味が一瞬なんだかわからなかった。

「好きなもの?ああ気にしなくていい。普段通りの食事でいい。」

妻はいつものようにバイタルミートと、命の水を食卓に並べ子供たちを呼んだ。

全員が揃い私以外の家族は皆VRヘッドセットを被り食卓に向かう。


ビタミン・ミネラル・炭水化物・タンパク質と人間に必要な栄養素が詰まった完全食のバイタルミートだが、灰褐色で小判状の食べ物は決して美味しそうなものではない。もちろん味に関しても美味しいとは言えず、ほのかな塩味と酸味があり、動物性油の主張が強く、おそらく普通の人が食べれば恐ろしく不味いものだ。


しかし、160年ほど前に起こったVR仮想現実革命により、仮想現実内で五感を感知できるようになった。ちょうど私の生まれた頃に終わった戦争の影響もあり、配給制となった食事をいかに美味しく食べるか?と創意工夫によって生まれたのが現代の食卓である。


彼女らの目の前にはそれぞれの好きな料理が並び、恐ろしく不味いバイタルミートを美味しそうに頬張っている。妻や子供達の前には普段通りの姿が映っているのだろうが、私の目の前には無機質なアンドロイドが食事をしているようにしか見えない。


「ツヨシは何を食べてるの?」

「ハンバーグだよママは?」

「私はお刺身をいただいてるわ」

「わあ、美味しそう!ちょっとちょうだい」

ツヨシが妻の食事に手を出す。現実世界を見ている私からは同じものを食べているようにしか見えないのだが、VRヘッドセットをつけている妻と息子には、刺身を分けているように見えるらしい。


異世界空間において情報の共有は重要なファクターとなり、共有した情報の蓄積が世界を作っている。そのため外界ではVRヘッドセットの取り外しは禁止されている。現実世界の情報を知覚している人が増えると、異世界空間ので構築した世界が歪んでしまうからだ。


終戦後、新たに設立した新政府は荒廃した土地を元に戻すより、異世界空間で元の世界を再現することを選んだ。

それは資本主義社会との決別を意味していた。あらゆる物欲を異世界空間で満たすことで、大量生産、大量消費という非効率で破滅的な資本主義から精神主義社会へ移行し人々は本当の平等を手に入れた。と学校で教えている。

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